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進化の法則は北極のサメが知っていた 渡辺佑基著 河出新書(2019年2月発行)

寝る前に小説を読むと、面白ければ面白いほど寝られなくなるので、どこでやめてもよさそうな学術書を読むようにしています。それでも、あまりに興味深いとやっぱり寝られなくなるので、面白かった学術書の再読をする場合が多いです。今回、この本は3回目の再読となりました。

ちなみに読む本は新書もしくは文庫と決めています。単行本は腕が痛くなって、眠りがますます遠ざかるんです。

それはともかく

この本はタイトルに魅かれて購入しました。サメといえば恐竜がいたころからあまり姿かたちが変わらないままいまだに行き続けている生物です。よほど環境適応能力が高いのか、あるいはほかの生物に見られない特殊な進化をし続けているのか、ととても楽しみに読み始めました。

ところが

正直に言えば「タイトルに偽りあり」でした。温かい目でよめばタイトルに嘘はないとも言えるのですが、自分の興味が向かう先から言えば「大ウソつき!」でした。でも。

とても知的好奇心を刺激してくれる本でもありました。具体的に紹介していきましょう。

本書のテーマの一つは「生物の体温」です。あくまでも生物学好きな素人なのであまり適切に表現できないかもしれませんが、生物が活動するうえで体温と代謝量の関係、そして生物が持つ時間との関係が、丁寧かつ論理的に説明されています。

生物には恒温動物と変温動物がいるというのは学校でも習うのですが、変温動物の中に周りの環境の温度よりも高い体温をもつものがいるんですね。本書では主にマグロを例に挙げていますが、この生物を「中温動物」と名付け第三のカテゴリーとして紹介しています。

知らなかったのですが、恒温動物だろうが変温動物だろうが、体内で熱を発生させる仕組みは同じなんですね。恒温動物は発生した熱を毛皮や脂肪で体外に逃がさないようにしたり、血管の配置などで熱の損失が起きないように工夫されているのに対し、変温動物は発生した熱がそのまま外部に逃げていってしまう。

中温動物というのはやはり発生した熱が外部に逃げていってしまうのだけど、体内における発生源の配置などでそれが逃げにくくなっている。それによって、他の変温動物よりも活動範囲が広いという特性を持っているそうです。面白いなぁ。

また体温と代謝量の関係についてもまとめられていて、タイトルになっているサメ(ニシオンデンザメ:ビジュアルが衝撃的です)は北極の水温0度に近い海で暮らしている。その秘密は極端に抑えられた代謝にあって、寿命が400年に達するという研究もあるそうです。すごいなぁ。

これらを法則としてまとめた高名な生物学者についても記述が及びます。その名も「ジェイムス・ブラウン博士」。もちろんゲロッパではありません。その研究によれば生物の代謝は、一つの法則によって成り立っていて、それを生物の大きさ(体重)や生活環境にあわせていくことで、生物が多様に見えている、というのは何度読んでも感心します。

最終章ではこれらの代謝と生物時間についてまとめてくれています。代謝が大きいときと代謝が小さいときの時間の長さが違う。これはあくまでも天体の動きに基づく「一日」という時間にあわせた結果であって、各生物にとってはそれが当たり前の時間の過ぎ方なんですよね。

ヒトでも子供と大人を比べて約1.3倍も長さが違うと記述にあります。そのため同じ24時間でも子供は大人に比べて1.3倍も長い24時間を過ごしているのですね。最近、金曜日になると「あれ、昨日月曜日じゃなかった?」とか言って、家族から不審のまなざしを向けられているのですが、次からはこれを説明してやろう。

というように、とてもわかりやすく面白い本でした。

著者はバイオロギングという研究手法で、さまざまな生物に記録装置を取り付けて、その生物の活動記録をとっておられるのですが、本書はその研究ルポルタージュと、その研究をする理由として先述の代謝等について説明が交互にでてくるという構成になっています。

説明は極めて冷静・論理的なのですが、ルポルタージュといったら・・・極限環境での研究なので、さまざまなことが起きるのですが、それが小説風に書かれていて、これも楽しいです。ただ、一回読めばいいかな、という感じだったので三回目の再読時には飛ばしてしまいました。すみません。

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カバーがやたらとにぎやかで、むしろうるさい感じのデザインだったので、おかしいと思ったら、カバーの上にカバーがかかっていました。こうなると背の高い帯ですね。

それで、本来のデザインはどうなんだろうとカバーを外してみたら





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シンプルすぎるだろっ!

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