殺人鬼探偵の捏造美学 御影瑛路 講談社タイガ(2017年11月発行)
誰でも探偵になれるのがミステリーの良いところですが、よりによって「殺人鬼」が探偵になるとは世も末です。
とはいえ、いくら殺人鬼とは言っても、世間の悪をただしたり、個人的な復讐を果たしたりなどの大義名分があるだろうと読み始めたら、本当に単なる美学を追求するだけの殺人鬼でした。
いいのか、これ。
このあと、「氷鉋清廉」の超越的な推理が披露され、よどみなく解決に向かっていくのですが、それにつれて、事件の怪異性、異常性がさらに明らかになり、結論に至るまでには二重三重のどんでん返しが待っています。
当然、読者としては殺人鬼を模倣した何者かを、当の殺人鬼が推理で追い詰める、というシーンを期待するのですが、まさに期待通りの展開を迎えると同時にそのはるか斜め上空に位置するラストシーンに驚かされます。
本書は長編となっていますが、目次には「第一話」とあり、シリーズものを想定しているのかと思っていましたが、これもまた作者の仕掛けなのではないかと、読了後に邪推してしまいました。
「面白い」とか「楽しい」というと語弊はありますが、頭の片隅で知的興奮が止まらない、という感触を味わいました。
タイトルや装丁がキャラ小説のようではありますが、一読の価値がある作品だと感じています。
ただ、現時点で続編がなさそうなのですね。続きが書きにくい作品なのかもしれませんが、殺人鬼と鶯刑事との決戦は見てみたいと思います。
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