駄菓子の宝箱
駄菓子を腹一杯食べてみたい。
子どもの頃の夢だった。
料理上手の母だった。オヤツだって愛情たっぷりの手作り。
でも子どもの頃は駄菓子屋で売ってる駄菓子が好きだった。
お小遣い100円玉を握りしめて、親友のTちゃんと角の駄菓子屋に行くのが楽しみだった。
今日はどれにしようかな。ソースせんべいにスモモ、ガム、グミ、キャンディ、きな粉棒、くじ引きにPPカード。
狭い店内を2人でグルグルと何周もした。
限られたお金で色んな組み合わせを考える。
「そうだ!オレこっち買うからカバウッドがあっち買って半分こしようよ!」
「Tちゃん、それいいね!」
2人で並んで食べる駄菓子の味は格別だった。
「あーあ、いつか駄菓子を腹一杯食べてみたいなあ。」
時は流れて。
大人になったTちゃんと久しぶりに飲みに行った時のこと。
繁華街を2人で歩いていたら、ある看板が目に入ってきた。
「駄菓子バー」
Tちゃんと顔を見合わせる。2人ともきっと同じ顔をしていたに違いない。
店内はチャージ料を払えば駄菓子は食べ放題、ドリンクは別、みたいな感じだったと思う。
「すげえ!」
駄菓子コーナーは夢のようだった。
「オレあれ食べよう!」
「オレなんかこっちの味全部持ってきたよ!」
山盛りの駄菓子を前に2人でビールで乾杯した。
懐かしい味。変わらない味。あの頃食べた味。
私とTちゃんはすっかり年をとったのに。
不思議なものだ。
駄菓子を食べながらTちゃんと酒を飲む。
お互いの近況を話しながら。
「なあ、カバウッド。」
「なんだい?」
「駄菓子ってさ。思ったより食べれないのな。」
「確かに、、、。」
駄菓子を腹一杯食べてみたかったあの頃。
今はもう自分のお金で好きなだけ買って食べることが出来る。
でも。
何かが違う。
駄菓子を腹一杯食べてみたかったあの頃。
幸せだった記憶。
時は流れて。
今度は私の娘の番。
スーパーのお菓子売り場で悩んでいる。
「一個だけだからね、よく考えて。」
目をキラキラさせながらお菓子の棚の前を行ったりきたり。
きっとあの頃の私とTちゃんと同じ眼をしているに違いない。
そのワクワクはきっと今だけの宝物だから。
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