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大部屋女優の言い伝え~照明は大切という話~

私は1982年に大阪のTV-CM制作会社に入社しました。その当時一緒に働いていた照明技師さんは、京都の撮影所経験者が多かった。そのひとりに聞いた話です。

大部屋女優とは

昭和もはじめの頃の映画会社は、今の映画会社とは違っていました。

映画会社に、映画にかかわるすべての人々が所属していたのです。

今のように、俳優さんは芸能事務所、スタッフはそれぞれ専門の技術会社かフリーランスという形態ではなかったのです。すべてひとつの会社の社員でした。

カメラマンも照明さんも音声さんも、監督も助監督も、もちろん俳優さんも社員でした。

その名残りが今でも映像業界に残っています。カメラマンやカメラ助手のことを「撮影部」、照明さんを「照明部」と、「部」をつけて呼ぶ習慣です。
昔の映画会社には、本当にそういう部署があったのです。

この呼び方でいうと、俳優さんは「俳優部」ということになります。

映画の撮影所にはたくさんの俳優さんが所属していました。
もちろん、主役を張るような俳優さんたちではありません。
脇役をつとめながら、日々少しでもいい役をもらおうとしているような、売れていない役者さんたちです。

こういう俳優さんには個別の楽屋は与えられません。
大きな待機部屋で大人数入って出番を待つことになります。
だから、そういう俳優さんたちのことを「大部屋」と呼んでいました。

もちろん女優さんも売れる前は大部屋女優という待遇になります。

朝ドラ「おちょやん」

この大部屋女優たちの生活は、2020年後期の朝ドラ(NHK連続テレビ小説)「おちょやん」で、杉咲花演じる主人公千代が、一時京都の撮影所で大部屋女優になっていたので思い出される方がいるかもしれません。

千代は古参の大部屋女優たちからけっこうイジメに合っていましたが、もちろんいつもそんな険悪な空気だったわけではないでしょう。

大部屋女優たちは、壁に貼り出される配役表を毎日眺めては、そこに自分の名前を見つけて一喜一憂していました。

売出し前の女優ばかりでしたから、少しでも良い役をもらおうと必死なのです。

そうした大部屋女優たちの間に、先輩から後輩に受け継がれるひとつの教えがあったそうです。

それは「売れたかったら、照明技師と仲良くしろ

照明技師とは

映画の照明さんといったら、皆さんはどんな人を思い浮かべますか?
ときには脚立の上に昇って、ライトをいじっている人でしょうか?

彼らも照明さんのひとりですが、下っ端です。
照明助手といいます。

照明技師というのは、照明さんのトップです。
ひとつの映画についての照明をすべて決める役目、ライティング・ディレクターなのです。

照明技師はどこにいるかというと、カメラの横にいます。
そして、そこから指示を出します。
すると照明助手たちが動いて、ライトの高さや方向を変えるなどします。

照明の上手下手は映画の映像を左右しますから、大変重要な役目です。

昔の撮影所といったら職人の世界でしたから、大工さんなどの職人の親方を思い浮かべていただくと、イメージは近いと思います。

大部屋女優と照明技師

先輩から教えを受けた新人の大部屋女優は、照明技師に気に入られようとします。

故郷から送ってもらった名産品などを照明技師におすそ分けして、顔と名前を覚えてもらおうとします。

でも、なぜそんなにまでして、照明技師に取り入ろうとするのでしょうか?

照明部のトップとはいえ、照明技師にはキャスティングに介入する権限はありません。なぜ監督やプロデューサーではなく、照明技師に気に入られると売れるのか?

照明技師に覚えてもらうと、脇役として映画に出演した時に、ていねいに照明を当ててもらえるからなのです。

もちろん大部屋女優といっても全国からオーディションを受けて所属しているのですから、みんな美人です。

だから、きちんとした照明を当ててもらえると画面にキレイに映るのです。

試写でそれを見た監督やプロデューサーが「あ、この娘可愛いな。次はもうちょっといい役で起用しよう」と思ってくれる、というわけです。

反対に、照明技師に嫌われると最悪です。
ぞんざいな光を当てられると、せっかくの美人も台無しに映ってしまいます。

だから、大部屋女優はこぞって照明技師と仲良くなり、可愛がってもらえるようにするのでした。

つまり、美しく映るためには照明が大事というお話でした。

オンラインスクール朱雀スタジオでの私の先生ページです。



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