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最高の差し入れ

皆さんはお弁当の箸を忘れたことがありますか?
わたしはほとんどありません。
なぜなら前職場では置き箸をしていてその都度洗っていたから。箸を持っていくという習慣がそもそもなかった。

しかし私は退職し、今は不定期で派遣のバイトに行っている。そこで、今日。箸を忘れた。

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これが今日の弁当。終わった…と思った。
なんでおにぎりにしなかったんだろうと朝の自分を呪った。

唐揚げや卵焼き、プチトマトは頑張ればつまんで食べることはできる。ブロッコリーとしめじはオリーブオイルで炒めているのでちょっと厳しいか…。
なにより、ご飯だ。午前中の肉体労働でお腹はめちゃくちゃ空いている。こんなに疲れているのに糖質制限なんて私には無理だ。ご飯を食べたい、エネルギーに変わる炭水化物を食べたい…。
昨日1人はしゃぎながら唐揚げを揚げていたことを思い出す。疲れた体が喜ぶよう、下味をしっかりと付けた。魚醤を入れることで肉が軟らかくなり旨味も増す。唐揚げは一人暮らし中何度も作った得意料理だ。
ああ、あの頃はあんなに楽しかったのに。
「下味よりも箸忘れるなよ」と助言したい。どんなにおいしい唐揚げも箸がないとご飯は進まない。

白衣を着ているため外に出るのもはばかられ、コンビニも遠い。
「箸貸してください」と一言言えばいいのかもしれないが、初めての派遣先で知らない人だらけ。どうにも恥ずかしく言い出せない。
いつものリュックなら無秩序に物が入っているため割り箸や箸の代わりになりそうな物(例:歯ブラシとストロー)が底から出てくる可能性もあるが、今日は荷物が多かったため違う鞄を使っている。

気を遣って用意してくださった休憩室には私1人であったが、ドアがないためいつ誰が入ってくるかわからない状況。



リスクは高いが、やるか。

わたしは大人としての尊厳を冒し、その手で弁当を食べる決意をした。
こんな時期だし手は念入りに洗った。消毒もした。背に腹は変えられない。行くしかない。

扉の前を誰か通らないよう最新の注意を払いながら、まずは難易度が一番低いプチトマトを食べた。
何食わぬ顔で食べた。何の違和感もない。いける。このまま少しずつ難易度を上げて、自分の感覚を麻痺させていこうと思った。人間、時には気づかない方が幸せなこともある。

そのままの勢いで卵焼きを口に入れた。いける。この分なら米も唐揚げもいけるんじゃ…と思った時だった。

派遣先の社員さんが入ってきた。食べているところは間一髪見られていない。
まさか一目見られただけで箸の有無に気付かれるとは思わないが、箸がないことを悟られないようになんとなく弁当箱を自分の方に寄せた。
(悟られて箸を貸してもらえた方が幸せなのに、どうして悟られないようにしたのか?自分のことだが理解できない。)

社員さんは何かを持って私に話しかけてくれた。


「近所の方が、この辺で有名なおにぎり屋さんのおにぎりを差し入れしてくれたんですけど、おひとつどうですか?」

まじでこの世に神はいると思った。神のお告げ。
手を汚さないようフィルムで丁寧に巻かれたピカピカのおにぎり。プチトマトと卵焼きで既に汚れた手の私にはもったいなさすぎるが、遠慮なんてせず食い気味でいただいた。

そのおにぎりのおいしいことといったら…辛子明太子がぎっしりと入っていた。
ラップに近いかなり丈夫なフィルムだったので、自分が持ってきたご飯もそのフィルムで包み、その場でおにぎりにして食べることができた。唐揚げもフィルム越しに包んで食べた。

こうして予定以上にしっかりと糖質補給をし、午後も元気に働くことができた。

おにぎりの差し入れってだけで最高だけど、まさか近所の方も派遣バイトの女がこんなにも感謝しているなんて思ってもいないだろう。
その感謝を伝えたかったが箸を忘れたことをカミングアウトする勇気がなく(この場で伝えたら明らかに隙間がある弁当箱から失った尊厳を悟られてしまうため)心の中で伝えた。そしてここに書いている。


おにぎりを差し入れしてくれた方、本当にありがとうございました。
マジで誰かに支えられて生きている。


今日の一曲

高橋優/ありがとう


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