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将棋は位置エネルギーで勝て

こんにちは。
将棋系VTuberの葛山わさびです。

2022年12月30日、将棋系VTuber年末企画『合計777勝RTA』に参加しました。
目標の大きさをやや甘く見ており、やや暗雲立ち込める?シーンもありましたが、参加いただいた配信者、リスナーの方々のご協力により、無事達成となりました。
先んじてみなさんにお礼申し上げます。

https://www.youtube.com/live/fUJ6QUlmbGM

今回は、この配信で行ったプチ将棋講座『将棋は位置エネルギーで勝て!』のミラー?的なものです。
企画主催のポメヒ・ナナロクフ・タタキノフさんから依頼を受け、過酷な廃指し耐久の小休止として講座を提供しました。

また、彼が主催する「ぽめ研」は、将棋系VTuberとして、今年を通じてもっとも入り浸ったコミュニティでもあります。お世話になっています。今後もよろしく。

ここまでが前置きでした。
ということで講座の内容に入ります。
配信用に作ったスライド、台本をベースに書いていくので、文章として拙い部分が出るかと思いますがご容赦ください。

右下のイラストはぽめ研でダラダラしてるときにポメヒさんが書いてくれたやつ
『ぽめ世界の住人と化した葛山わさび』


まず最初に、将棋というゲームの流れについて話します。
将棋の目的ってなに?かというと、「相手の玉を詰ます」こと。これを目指して初形から駒を動かしていくゲームですね。
強い人は序盤中盤終盤隙がないとは言いますけども、もう少し細かく見ると、戦型選択→駒組み→仕掛け→中盤→寄せ→詰み=勝ち!と分けられます。というかわたしが今分けました。


最初の数手で戦型を決め、駒組みから仕掛けを経て、相手の玉を寄せにいく。基本的にはこのプロセスに沿って進めていくことになるわけです。
例外事例としては、駒組みのプロセスを最小限にする(角換わり▲45桂急戦)、完全にスキップしちゃう(急戦系横歩取り、対ゴキ中超急戦)などの指し方もあるけど割愛します。
今回のテーマは相掛かり、雁木、角換わりなど「普通に組み合う」将棋での、駒組みから仕掛けの間ぐらいの考え方ですね。
序盤の手順は囲うとこまでは知ってるけどそこからどうしよう、とか、いつ仕掛けたらいいのか…とお悩みの方へのヒントになればいいなと思います。

突然知らない言葉が出てくるのは仕様、ウソだと思って聞いてください
作者は高校物理の初歩でつまずいたド文系なのであんまり怒らないで見てほしい

突然ですが、駒組み、仕掛けについて、「位置/運動エネルギー」という尺度を導入して考えてみたいと思います。
だいたい、盤上にある駒が持っている利き、主に前方への働き…のことだとおおまかに思ってください。
将棋というゲームの性質として、「駒は基本的に前方へ進む」ようにできているんですよね。
つまりは、まあ普通に指していれば、遅かれ早かれ自分の駒と相手の駒がぶつかる、仕掛けが起こるわけです。
自然と駒が前に進む(これを位置エネルギーが高まる、と言います)→仕掛けて駒がぶつかる、交換する、相手の駒を取る…ということを続けて、相手の囲い、玉を破壊する戦力とする(運動エネルギーに変換する、と言います)のが将棋というゲームの進行なんです。
これをいかに上手にやるか?そのために序盤から一貫した方針を持てるか?が将棋の実力と言っても過言ではない、と思っています。

※エネルギー云々は葛山が自身の将棋論を語るために引いた言葉であり、実際の学問とはいっさい関係ありません


将棋を「位置エネルギーを運動エネルギーに変換して相手を倒すゲーム」と捉えたうえでどう勝つか?という話になるわけですね。
一局の将棋をいくつかのプロセスに分けて、いわゆる強い将棋をこの考え方から見ると、駒がぶつかる前の段階で相手よりも多くの位置エネルギーを溜めておいて、戦いが起こったらそれを運動エネルギーに変換すると自然に勝てる…のが王道というわけです。

じゃあ、相手より位置エネルギーで優位に立つにはどうしましょう?
相手より多くの駒を前に進める、これはいわゆる「位」の考え方ですね。
これを位置エネルギー的に捉えると、たとえばこの図面。
上手く位を取れれば、自分の駒だけが一方的に前に進める状況を作れます。


△43銀型系列の角交換振り飛車に対する王者の指し回し

この図面を見ると、▲65歩の位が持つ位置エネルギーがとてつもなく大きい。△64歩を突けない以上、6筋の位置エネルギーでは先手の優位が確定しています。
その優位が▲66銀と△54銀の働きの差、この局面から指しうる互いの有効手の数(進展性、という表現が普通ですね)、将来的には▲75歩から▲86桂や▲37角を絡めた攻め…などなど、先手優勢を裏付ける要素に繋がっていくわけです。位置エネルギーの優位を手数とともに拡大させる立ち回りが優秀です。

囲いの側では「位置エネルギーの優位」が確定しているなら、飛車の側でポイントを取れるか…という考えになりますが、△25桂捨ての仕掛けも▲75歩を絡めた「位置エネルギーを活かす攻め」を助長するので厳しいものがありますね。つまり、▲65歩の位が持つ位置エネルギーが、盤面全体の勢力、今後の仕掛けの成否に影響を与えているわけです。


もう一つが、「争点」の考え方です。互いの駒が前進していずれぶつかる、のが仕掛けとするなら、相手の駒が前進した部分を攻撃できれば、その位置エネルギー、手数を逆用できるわけですね。これを代表するのが、矢倉対右四間飛車の成功図。

あまりにもあまりにも、という図面だが
位置エネルギーという観点でも教材に使える


ここでは、▲66歩~▲67金と囲いを構築して「位置エネルギーを高めた」はずが、むしろ△65歩の仕掛けの速度、破壊力を助長している。
配置が持つ位置エネルギーだけでなく、かけた手数をマイナスにされている、という点で、この金矢倉は非常に罪の重い指し手だったわけです。

これらの位、争点の考え方が、よい仕掛け、よい駒組みを得るための道筋であり、「作戦勝ち」という概念のひとつの表現でもあります。


位置エネルギーの観点から待機戦術を見ると違った感想が出るかも


最近の将棋、特に相居飛車の後手番では、バランス型の低い陣形、言い換えると相手の仕掛けてくる場所周辺の駒を極力前に出さず、「自分の位置エネルギー」を攻めに使わせない立ち回りがトレンドになっているわけですわ。

たとえば角換わり。位置エネルギーが足りてない状態での▲45桂は後続がないと自爆になりますし、成立させるためには相手が歩を突いて隙ができた瞬間を狙う、あるいは自分がより深く囲ってエネルギーを蓄えるなどの工夫が必要なのです。
角換わり右玉が再評価されているのも、△44歩を突かないことで位置エネルギーを低く抑える、敵の飛車が発するエネルギーから遠ざかる、という目的が大いにありますね。


と、いうことで。よい駒組みはよい位置エネルギーから、そしてよい仕掛けから無理なく攻められたらいいね、という話です。
仕掛けの前に、位置エネルギーで優位に立つのがその第一歩。
要素で言うと、
・歩の向きや位置で有利になる
→位を取る、相手の位を破壊する…
・仕掛けの権利を持つ
・敵の駒を釘付けにする
のがよい駒組みといえるのですが、それをどうやればいいんじゃい、ということで、いくつかその手筋を紹介するのが今回の目的です。


特に序盤の駒組において、位置エネルギーをめぐる立ち回りのカギになるのは「桂馬」という駒です。一番の特徴はその動きですよね。
・離れた場所から位置エネルギーを発揮できる
→図のような歩が横に並んで金銀を前に出せない、「位置エネルギーが拮抗した」状態を打開できる可能性がある
・その利きが直線じゃないので、他の直線の駒(飛、角、香)と組み合わせやすい
・前に利かないので、渡しても直接補強に使うのは難しい
つまりは「前のマスへの位置エネルギーを持っていない」ということです。角と桂だけの特殊な仕様ですね。
このへんがのちのち生きてきますのでご留意ください。

これらの特性を最大限に活かす駒組みの一例が「下段飛車+雁木」です!
図面を見てほしいんですけど、雁木のいいところは左桂を跳ねやすいところ。

矢倉囲いの▲77銀という駒は、相手の△73桂がもつ位置エネルギーに潜在的にさらされているのです。
△65桂と跳ねられた手が銀に当たる、そのとき何か対応しなきゃいけない…というコストを潜在的に払い続けているのです。
▲67銀▲77桂という配置を作ることで、△73桂に対する桂馬同士の位置エネルギーを互角にできますし、桂馬を跳ねれば自然と下段飛車の利きが通って陣形全体をカバーできると。
仕掛けの前段階、自分の陣形の中だけで駒の働き=位置エネルギーを高めていけるのが下段飛車のいいところだなと思います。
ただ、現代将棋で頻出の上のような「位置エネルギーが拮抗した」局面は、金銀を前に出すことが互いに難しいですし、角の斜めのラインが強力に働くことも少ないです。そこから飛車桂歩を使っていかに局面を動かすか、が腕の見せ所なわけですね。


ということで、ラインを上げる手筋をひとつ。
上図では、▲89飛と回って▲86歩と伸ばしていく手が常にあります。
その前に△85桂と動かれても、慌てず▲86歩から桂交換に応じれば、労せずして歩と金が一歩前進していますね。
これが“位置エネルギーを得する”ということです。
8筋の制空権を取れればもちろん有利ですし、△84歩を打たせれば気分は満足でしょう。
8筋の位置エネルギー関係で優位を築ければ、△81飛を横に移動する=8筋の位置エネルギーを減らす手を牽制しているのも見逃せないですね。

この後も難しい将棋ですが、こうやって細かいポイントを取っていく、という考え方への入門として受け取ってもらえればと思います。


将棋世界2023年2月号での石田五段講座と若干被ってしまった(偶然です許してください)
詳しい手順はそちらを見てほしい…

今度は角換わり右玉について。みなさんお困りかと思います。
最近のトレンドは、▲68銀と引いて雁木への整形と地下鉄飛車をめざす組み方。
8筋を交換させることで、▲87歩▲78金の形が▲86歩▲87金と前進した、これによって位置エネルギーが上昇した、地下鉄飛車を使えるようになった…ということですね。
△85歩は実は8・9筋における先手の位置エネルギーを抑える位であって、交換させる=盤上から消すことで位置エネルギーを高めにいく、というやり取りがなされたのです。
注意点としては、▲68銀はいったん位置エネルギーを減らす手である、ということ。
ちょっと形が違うと△55銀とか△65歩とかがうるさいこともあるので気を付けて!ここで運動エネルギーへの変換を始められるとちょっと危ない。
△43銀型は守勢、「位置エネルギーの均衡」に重きを置く指し方なので、8筋の関係で優位に立てばそこから局面をリードできる、という考え方が成り立ちます。
無事に▲77桂まで組めれば、地下鉄飛車で先手から十分打開できますね。


8筋を交換されなかったらそれはそれでよし
割愛したけど▲48角みたいなエネルギーの足し方もある
こういうのがあるので△72玉型はリスキーの見方が強いかも

じゃあ8筋交換されなかったらどうすんの?と思ったあなたは鋭いですね~~~~~~!
応用編で、地下鉄さえ開通すれば▲99飛から揺さぶれます。
△83玉では9筋は補強できたものの、△81飛の利きが止まったことで8筋の位置エネルギーが減ったわけです。
そして▲85桂△同桂▲86歩…というのは古くからあるなかば必修の手筋ですが、位置エネルギーの考え方を持っている状態ではまた違った趣で見られるのではないでしょうか。
このあとは▲87金から▲85歩と取れれば8筋の位置エネルギーは先手の優位になりますね。
このあたりで注目すべきは、桂という駒の「離れたマス目に行けて、前に利かない」という特性を生かした手筋になっていることですよね。
後手に一歩あったら話が全然違うので注意です。


実際にこういう将棋にすると先手の手が余りやすい
銀冠に投資した手数、位置エネルギーを活かせるかが形勢の分かれ目

最後にちょっとね、番外になるかもしれないんですけど。
最近は銀冠とか金冠とか、23と43に金銀を配置する形がしばしば出ますね。
それに対して、桂が駒台に載ってるときに使える、▲27桂から▲35桂を出現させる打開。これ覚えてください。
位置エネルギーの均衡を打開するのに有用な手筋ですね。
3筋の歩さえ消えれば、▲36銀と出て厚い攻めが作れる、位置エネルギーを高めていける、という利点があります。
△34金でも▲71角とか▲36歩とかを絡めて自然に攻めが続くので、これは先手有利。だからこそ下段飛車の守りが重視されているというのはありますね。


ということで、下段飛車と桂、というテーマで、駒をちょっとだけ前に出す、攻めの道筋を作る…という手筋をいくつか見てきました。

大事なのは、駒をいかに前進させるか、位置エネルギーの関係で優位に立つか、という大元の目標ですね。
そのためにこういうちょっとした手筋があるわけです。

この考え方を導入することで、仕掛けの前にその成否を判断する、あるいは駒組みから仕掛けの間でちょっと得をする、そういった判断の助けになるかもしれません。
どう仕掛けていいかわからない、仕掛けたけどすぐ息切れしちゃう…のように、仕掛けの周辺でお悩みの方が、少し前に進む助けになっていれば幸いです。

最後に宣伝をきっちりはさむ配信者の鑑

ここまでご覧いただきありがとうございました。
もしかしたらこういう文章に力を入れるかもしれないし、今回の内容をそのまま動画にするかもしれません。
『現代相掛かり概論』を終えてからの活動内容は思案中ですが、こういう将棋の論理、しくみにフォーカスしたコンテンツを引き続き出していきたいとは思っていますので、好みに合いそうならチャンネル登録だけでもしてもらえるとありがたいです。

以上、次回更新は未定です。ありがとうございました。

(2023/1/26追記)
動画になりました。内容は同じなのでここまで読んだ人は見なくていいです!!!!!!!
https://youtu.be/zw44W8Bl2_0


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