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「現代相掛かり概論」を作っていた時のメモ書き(2022年6~7月)

こんにちは。将棋系Vtuberをやっております葛山わさびというものです。
近頃はもっぱら夜早めの時間に将棋を指す配信をしていたり、たまにオンラインの大会に出たりしています。
よかったら見てちょ~

時を遡って2022年春、活動初期に何をやっていくか…と頭をひねる時期、将棋プレイヤーとしてのわたしの興味を釘付けにしたのがいわゆる現代相掛かり。
先手番定跡s-book_blackやプロ棋戦の棋譜とにらめっこしてその仕組みを徐々に理解するとともに、この高度な駆け引きを少しでも噛み砕いて人々に伝えることで、多少なりとも将棋人類の営みへ寄与できるのでは…と思い立ち、「現代相掛かり概論」の動画シリーズ作成に至りました。

今の眼で見ると動画制作技術の拙さ(今も拙いけど)、内容にやや古くなった部分もありむず痒い気持ちもありますが、活動初期のネット将棋/将棋Vtuber界隈への認知、チャンネルの数字を支えてくれただけでなく、表面的な戦法や指し手に収まらない将棋の深淵、相掛かりの概念を理解する営みの基礎になる部分を固める意味で、自分でつけたタイトルに恥じないものを出せた、その過程を通じてわたし自身が将棋への理解を深めることができた充足感は大きなものがあります。
Youtuberのコンテンツとしては“初期の怪作”のくくりになります。わかりたい人がこの情熱とこだわりをわかってくれればええんや…

活動の一環としてたまにこうして将棋やら他の趣味やらのnoteを書いているのですが、今回は「現代相掛かり概論」のおまけパートです。古いファイルを整理していたところ、Part4「勃発!横歩取り合いバトル」を作っていた時期のメモが出てきました。
この回、当時よく指されていた形でアツい話題だったのですが。Part1~3の理解が大いに試されるし、ここをちゃんとわかっておかないとその後もろくに進まないということで、きわめて重要な回になることが構想段階で予想されました。相応に気合いを入れて臨まねばなりません。

よって、相掛かりの棋譜を1000局ほど集めてざっと目を通し、さらに細かい戦型別に分類したものを時系列順に見て、時にソフト解析し、時に将棋世界の解説を漁り…などとし、自分なりに抽出した教材となる棋譜、そのポイントを羅列したメモ書きを作成したわけです。

…某研究会で某女流棋士の先生が「Part3からムズすぎてわかんないよ~」などと言っていたのを小耳にはさんだり、Part4を作ってる時期に相掛かりのこと考えすぎて体調がおかしくなったりしたこととかを思い出してうんぬんかんぬん
ということで、原液の相掛かりを大いに含みます。動画の理解には役立つかもしれませんが、動画を見てない、見てワケわかんなかった…という方にはなお何言ってるのかわからないと思います。

先ほども申したように、内容に若干古くなっている部分があったり、そもそもわたしの理解が不十分だったりする可能性は常にあるのでご了承を。
メモ書きの作成時はs-book_black(2022年7月版)を参照していたと思います…前のバージョンを下敷きに作っていたらPart5,6あたりでもろに候補手変更の影響を受けて再解釈を迫られ頭おかしくなった覚えがあります。
動画に関連する部分だと▲35歩位取りまわり、動画の完結以降の更新では△74歩取らせの基本進行で▲47銀を▲58玉より先に指すようになったのが一番大きなところですね。考え方、手順の根底にある仕組みは生きてるということで容赦を…

では、お楽しみに…?


(以下、メモ書きのWordファイルより転記。軽微な誤字・脱字の修正あり。棋譜へのリンク付与は2024年4月の筆者による。)

横歩の取り合いメモ

ああ

20170702 佐々木勇気-藤井聡太
どちらかというとミラーゲームの側の将棋だが、横歩の取り合いという戦型を語るために必要不可欠な将棋。

・68玉型に構えることで、76飛と取られた際に好きな手を指せるようにする
・▲87歩を打たないことで、▲82歩の攻め筋を見る
・△93桂と▲37桂の性能差を主張する

のは、ミラーゲームA・横歩の取り合い両方に共通する考え方。
この一手をひねり出すために、玉の位置を駆け引きしている。

▲24歩保留の横歩の取り合い、のアイデアが出たのは
20180803
飯島-永瀬戦(叡王)…実際には後手が横歩を取っていない。
このときは9手目96歩に収束しておらず、「87歩を打たない」条件は▲76歩で満たしていた。

深浦-羽生 20180808 順位戦
これも横歩を取っていない。▲76歩を見てから△84飛と引いているので、それでも横歩は取れない、という認識だったと思われる。

八代-脇 20180830 順位戦
(むしろミラーゲームの分野だわ)
▲68玉型に△33角を打ったらどうなるの?
△88角成▲77桂が形。その後の攻め合いで、後手玉の位置により優劣が変わる。

20180904宮田-増田 王位戦
ミラーゲームの分野だが

▲25飛型を採用するときは1筋の突き合いを入れるべきではないかも
△13桂が先手になってすかされる可能性あり。

2018年11月頃からじわじわ96歩が増え始めるが、統一には至らない
王位戦梶浦-千田など

20181203 稲葉-山崎 朝日杯
・76飛82歩の形についに後手が飛び込んだ。
96歩は突かず、36歩94歩37桂76飛という手順。
95歩はないけど、かなり先手が押して指せていた(?)
結果は先手快勝。

2019年以降、徐々に▲96歩が多数派に

20190315 佐々木大地-稲葉 王位戦
▲96歩→▲76歩は突かずに▲36歩
の最初!やっぱり佐々木大地がNO1!
外しの△74歩に対して▲24歩を突くことで、スムーズに攻め合いへいける。

20190410
船江-飯島戦 棋王戦
58玉-52玉の状態で▲36歩から突くとどうなるか?
72銀戻った図面が少し不満。33桂が当たって手番取られてる…
スムーズに攻めるためには、やっぱり19手目前後で76歩を通したい…
 
20190523 稲葉-長谷部 王位戦
上を受けての1局
58/52玉で76歩にトライしたが跳ね返されてしまった。
81歩成から76歩ではやはり遅い!76歩を先に指してから82歩、24歩などノンストップで攻めたい!
 
→76飛をケアするために68玉型が有力では…?

20190603 佐々木大地-藤井 王座
△87歩を打つコース…36歩への対策として出てきた。
このときに玉はどっちがいいんだろ?

20190613 中座-伊藤真 C2 
5852での36歩にトライ、ダメでした…
 
20190807 稲葉-山崎 叡王
68玉型での76歩に横歩取りを断念。

20190813 木村-豊島 竜王
いわゆる金損定跡。
飯島本で解説されていたが、その発売直後に指されたこの将棋で先手が良くならないことが知れ渡ってしまった……
そもそも▲96歩突けば金損しなくない?

20191021
羽生-藤井 王将リーグ
87歩を打つやつに75角のひとつの決定版・後手十分の見解が固まる?
→68玉型には打てるの?
→打てる。s-bookでは▲37桂でなく▲76歩推奨。

68玉型だと52玉に対して76歩と37桂を使い分ける必要が生じる?
87歩の変化の時に先に68玉だと損しない?
早繰りとか35位取らせで損しない?

が、11手目36歩の理由
 
20200227 永瀬-近藤 棋聖戦 
87歩打たせ。
・95歩は突かれてもいいのでは?
・52玉と42玉での76歩or37桂の使い分け→そのために11手目は68玉でなく36歩なんだ!?えうれーか
 

20200317 永瀬-豊島 棋聖戦
 やっぱり36歩からだね。
桂馬取らせるのはNG寄り
 
 
20200409 増田-中村 王座
87歩打たせ-95歩突かせるバージョン
▲25飛で行ったがあまりうまくいかなかった……先手勝ちだけど逆転みが深い
 
20200604 永瀬-藤井 棋聖挑決
87歩打たせ
▲26飛が新手!95歩は突いても35歩で対応可能。
将棋としてはやや先手ペースだったが、離されずついていった藤井七段の指し回しが絶妙だった。ハイレベルな1局
 
20200730 木村永瀬 順位戦
横歩取らせチックに指すやつ。動画に出すかはおいといて、26飛37桂型に15角打つ筋は使える。

20201106
木村-広瀬 王将(棋譜ガイドライン注意)
15歩から突っ込む形の源流、だがあまりうまく行かなかった。
これは76→36型。桂を渡しにくい・飛車を追いにくいことで、逆に1筋を破られてしまった…

20201119
佐藤紳哉-村中 順位戦
11手目36歩の理由、の補足?36歩のあとは68玉か37桂か。
37桂を指すと34歩に弱くなる…?

20210127 飯島-佐々木勇気
軽率に1筋をつくな!→一時期流行る、が……
24同飛に手抜きが利いちゃってる。後から96歩じゃ遅いか?

20210128 羽生-森内 棋聖
軽率に1筋をつくな!
この飯島流?
やっぱりよくないかも。後から96歩を突いていく構造上、絶対に76→36飛の形になる。
そこで手番を取られたり桂を狙われたりで、攻め合いで遅れてそう。
 
20210211 渡辺-藤井 朝日
軽率1筋アタックの将棋。めちゃめちゃ研究が刺さって良くなるけど、終盤でかわされて負け…
このへんで軽率1筋アタックが掘られまくる。
 
20210430 渡辺-永瀬 棋聖挑決
軽率1筋アタックへの回答①
・そもそも74歩突けね?
1筋の突き合いが入っていると、24同飛に23歩の一手ではない→横歩を取られない
△73桂とはねることができれば攻撃力は段違い、むしろ後手に主導権が行く可能性がある
 
結果は先手勝ちだが、途中は後手がかなり押していた…
黄信号。

20210507 稲葉-石井 王座
87歩打たせ、25飛型
やっぱりうまく行かない。33桂が味良すぎる、、
 
20210518 金井-石井 順位
87歩打たせ、26飛型
35歩に44角が絶妙すぎて攻めきれない、と思う。
これで終わった?

20210528本田-斎藤 棋王
軽率1筋アタック
65桂45桂に一回受けに回られたらきつくない…?

20210606 渡辺藤井 棋聖
軽率1筋アタック 上の将棋を受けて変化するも、後手がパーフェクトゲーム
→ここで軽率1筋アタックが滅びた?
じゃあ1筋つく意味もないし、代わりに96歩突いた方がよくない?
→36歩から突くコースに戻ってきた!
 
20210617 稲葉佐々木勇気 順位戦
後手横歩チックに指すやつ、の解決①
端桂頭良すぎ

20210830 藤井永瀬 竜王
まさかの46歩取らせ。
36歩の方にいまいち自信が持てて無くて、駆け込み寺的な指し方だったのかもしれない。
リスクは低いがリターンも低め、右の桂はとりあえず舞わない。
20210930藤井木村とセット。主流にはなってないね…
20211005木村永瀬で先手負け。
 
20211124永瀬藤井 王将
謎。本命作戦じゃない?
36から突くやつにいまいち感が出ていた時期。

20220204 羽生永瀬 順位
先手でこの展開だと横歩はさすがに取らんといかん気がする。第10回の範囲へ?

2022 4~5月 叡王藤井-出口の2
先手リードしてるかな、さすがに。
 s-book_blackの影響かは、本人のみぞ知る。
s-book的には、36歩~76歩の手順は一貫して先手ペース。
 
人間界では、早い34歩など他の作戦に舵を切っている…のが現状。

(メモ書きからの転記ここまで)

いかがだったでしょうか…?などと聞いていいものか。
時系列順に見ると、プロシーンでどのように試行錯誤が進んだか、という視点でも流れが見えて面白い、彼らや将棋真理の道筋を追えるかも、という点でも、相掛かりを真剣に理解してみる営みには意義があったかと思います。

あと、おわかりのようにいわゆる棋譜利用のガイドラインはまったく意識してません…そもそも人に見せる用のメモじゃないから仕方ないね!
動画作成時はそこを遵守していましたし、今後も極力守るつもりではいますが…
少なくともこの記事においては、近頃の棋譜は広く公開された事実でありうんぬん、に照らすとまったく問題はない…はずや('ω')
そういう流れもあって、今ならこのぐらいは棋譜のリンクとともに読んでもらっても罰は当たらないかな…と供養することにしました

ちなみに、先日からわたくしYouTubeから広告収入を得られる身になったわけですが、「現代相掛かり概論」の動画は収益化の設定を個別にオフにしています。
棋譜利用のガイドラインだけでなく、s-book_blackや動画に載せるための手順検討に使った、公開版dlshogiのライセンスに基づく設定です。
ライセンスの効力がどこまで及ぶか、モデルを使って作った定跡ファイルに基づいて作った解説文、手順はどうなのか…というとセーフ寄りな気もしますが、自分の中での筋はこうかな、と思っています。
もちろんこの記事も一銭にもなりません!

ちなみにお金はほしいかほしいかでいうとハチャメチャにほしいので、気が向いたときに配信見る、チャンネル登録やら高評価やら押す、友人知人に布教する…など助けていただけると巡り巡ってわさびの血肉になります。

今年こそはYouTube活動をちゃんとお頑張っておBIGなVtuberとなりたい気持ちがありますので、応援していただけるとうれしいね…?

それではぼちぼち終わります。みなさんもお元気で~

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