世界のたまご

 この世界の秩序に疑問を抱くものなど、存在しないはずだった。

 なぜなら、そのように人は生まれ、そのように教えられ、そのように生きてゆくように、生きてゆけるように創られてたからだ。

 その秩序は綻び始めている。

 世界を生み出した創造主がその力を少しずつ失いつつあるのだ。

 知らぬままなら、そのまま。世界は完全で、平静なる円を成していると信じたままその生命を全うすることができた。

 しかし、世界の亀裂を見てしまったものは、そこから零れ出る未知に触れずにはいられなくなる。流転する刺激を知ってしまった者にとっては、穏やかな普遍をただただ甘受するように生きていくことができなくなってしまう。

 その存在により、普遍はぐるぐるかき回され、我々は世界は渦潮のように姿を変える。

 恐れることはない。我々は彼を知っている。彼は海だ。

 けれども、恐れずにはいられない。未知は好奇心の対象であり、同時に恐怖の対象でもある。

 泣こう。大声をあげるのだ。生まれたての嬰児のように。無数の巨人の手に包まれる空想をして。

 そうだ。我々は未だ生まれてはいない。温かく、柔く、退屈で愛おしい子宮の中にいる。生まれよう。目を開けよう。知覚はこんなにもあれを欲している。

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