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インパクト投資の実践は、VC本来の使命を果たすことにつながる ~日本ベンチャーキャピタル社でインパクト投資勉強会を開催しました

2020年11月4日、神奈川県SDGs社会的インパクト評価実証事業の一環として、日本ベンチャーキャピタル(以下、NVCC)社内にて、インパクト投資の勉強会を実施しました。本勉強会は、将来的なインパクト投資の実践を見据えつつ、その第一歩として、インパクト投資の理解を深めることを目的に、ソーシャル・インベストメント・パートナーズ(SIP)理事 白石智哉氏をゲスト講師に迎え、実践者だからこそ語れるVCにおけるインパクト投資の本質や意義を語っていただきました。

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白石智哉氏
ソーシャル・インベストメント・パートナーズ(SIP) 理事フロネシス・パートナーズ株式会社 代表取締役CEO/CIO

インパクト投資とは

インパクト投資とは、財務リターンと社会的・環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資のことで、現在の市場規模は約7,150億ドル(GIIN)に上ります。このように、民間セクターが社会・環境問題に取り組む意義としては、社会・環境問題が膨大かつ複雑になり、行政だけでは解決できないことや、課題解決につなげるイノベーションは民間セクターから多く生まれることなどが挙げられます。

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(出所:白石氏講義資料)

ESG投資(環境・社会・ガバナンスに配慮して行う投資)との違いとしては、投資を通じて社会・環境に良い影響を与える「意図」を持って行われていること、社会・環境により良い影響を与えている企業を積極的に投資先として選ぶ「ポジティブ・スクリーニング」が行われていること、などが挙げられます。

ロジックモデルは、VC本来の使命を果たすためのツール

「インパクト投資家の使命は、事業モデルや事業の持続性を考えることで、それは我々VCが従来から実践してきたこと。」白石氏は、この投資家としての使命がフレームワークとして現れてきたものこそ、インパクト投資や社会的インパクト・マネジメントで用いられる「ロジックモデル」だといいます。

ロジックモデルとは、企業がもたらす社会的・環境的インパクトを可視化するためのツール一つで、企業のインプット(投入資源)・アクティビティ(活動)・アウトプット(活動の結果)・アウトカム(アウトプットがもたらす受益者への変化)・インパクト(企業のミッションと通じる、企業が最終的にめざす社会の変化)を構造的に整理したものです。

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(出所:白石氏講義資料)

社会的・環境的インパクトの可視化に向けては、次に、整理したアウトプットやアウトカムなどについて(測定可能な)指標を置き、データを収集・分析を行うことになります。また、こうした社会的インパクト評価は、事業改善や企業のより良い意思決定のためにも用いられます。このように、社会的インパクト評価を事業運営プロセスに組み込むことを「社会的インパクト・マネジメント」といいます。

「企業の利益は、顧客が抱えている問題解決への対価である。顧客のニーズに柔軟に対応し続ける企業は、高いライフ・タイム・バリューが期待できる。そのシステムを社内で構築している企業は強い。その意味でも、ロジックモデルは、受益者の視点で投資先企業の事業を見直し、改善を促すツールとなりうる」と、VCにとってのロジックモデルの意義、社会的インパクト・マネジメントの重要性について、白石氏は改めて強調しました。

Q&Aセッション

質疑応答では、予定時間を超過するほどの質問が続き、活発な議論が交わされました。(以下、Q&A要約)

―― インパクト投資は、投資パフォーマンスの点ではどうか?

既存のインパクト投資ファンドで、高いパフォーマンスを出しているものは存在する(インパクト投資に限定するBridges VenturesのIRR(内部収益率)が30%を超えるなど)。もちろん、従来のリスク・リターンという軸に、「インパクト」という軸が新たに加わるため、投資先評価の難易度は上がる。しかし、ロジックモデルを考えることは、競争優位性を考えることにもなり、それが整理できていることは、ステークホルダーのニーズに柔軟に応えられることにつながる。加えて、大企業がソーシャルベンチャーを買収するケースが増えており、そういった点でEXITによるリターン獲得の期待もできる。

―― ファンドの満期(およそ10年)までに、投資企業が最終的にもたらしたい社会の変化まで到達できないことも多いのではないか?

ご指摘のとおり、ファンドの運用期間中に社会課題解決まで目指すことは困難といえる。しかし、最終的なアウトカムの手前の、初期的なアウトカムであれば、3~5年で表れる企業もあり、そのタイミングで株式の買い手がいればEXITできる。そこで、中~長期的なアウトカムの出現も含めて、次の投資家に引き継ぐという形になる。

―― ファンド全体としてのインパクトは、どのように見るのか?

各投資先のアウトカムだけでなく、ファンド全体としてのアウトカムも見ることも重要。一つの方法として、閾値を超えている案件がいくつあるかを見る、例えば、その地域で約何%のマーケットシェアに達すると一気にサービスやその影響が波及するか、などが一つとして考えられる。

―― インパクトレポートは、どのように作成するのか?

対外的なレポート作成に当たっては、主観的、恣意的なインパクトの見せ方をする行為(インパクトウォッシング)を防ぐための配慮も必要。そのために、IMPのカテゴリーに基づいた評価を行う、分野ごとの指標などが整理されているIRIS+を参照する、など外部リソースの活用は一つの方法と言える。

おわりに

社会的インパクトの追求は、投資としてのリターン追求と相反するもの、と認識されることは少なくありません。しかし、今回の勉強会では、社会的インパクトの追求は、投資家の本来的な使命を果たすことと相反せず、投資のリターンとも両立しうる可能性を持つことが、実践者の口から力強く語られました。また、そうした新たな概念を巡り、実践者間での議論が交わされたことは、今後の大きな変化への一歩になったと感じます。

弊社ケイスリーは、今後も、SDGs達成に向けた新たな金融のあり方を、多くの関係者と議論し、そのかたちをともに作っていきたいと考えています。


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