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サイニック理論の3つの特徴

ここ1年ほど、オムロンの創業者である立石一馬さんが提唱された『サイニック理論』について研究をしています。
1970年(つまり、今から50年ほど前)に発表されたこの理論は、予測の的確さで注目されている『未来の羅針盤』です。
オムロンさん自体がこの理論をベースに発展した企業ですから、言わば『実証された理論』と言えるでしょう。

一昨年、中間真一さんの同名書籍が発売されたことも、耳目を集めるきっかけになりました。


理論の詳しい内容は上記の著作にあたっていただくとして、わたしが考える『サイニック理論』の3つの特徴について記してみたいと思います。
その3つとは……

1:独自視点による歴史研究
2:歴史の周期性への着目
3:未来予測への段階設定/活用法

です。
以下、それぞれについて、少し詳しく解説します。


1:独自視点による歴史研究

「歴史」と聞いて多くの方が思い浮かべるのは『権力者の交代による時代区分』だと思います。
これは学校教育がそうなっているからですが、『安土桃山時代』『江戸時代』を分ける根拠は「誰がもっとも強い武力や政治力を持っていたか?」
もちろん、それはそれで興味をそそる側面はあるものの、疎外感も小さくありません。
何故なら、織田信長も徳川家康も、わたしたちには直接つながっていないからです。

一方、サイニック理論では『技術の発展』を歴史区分に採用しました。
これは、提唱者の立石一馬さんが技術者だったからでしょうが、その区分だと、歴史の親近感がグッと上がります。

発表された1970年までは、8種類の時代に分けられました

たとえば、1765年から『工業化社会』が始まるのは、ジェームズ・ワットが『蒸気機関』を発明したから。
それまで人間や動物、あるいは水や風のような『自然の力』が動力だったのに対し、『熱が力に変わること』の発見によって社会は次のステップに進みました。
『手工業』『手=人間』から『機械』へと、生産工程のポイントが移ったわけです。

この時代区分がすばらしいのは『実感』が大きいこと。
わたしたちは、今でも熱を動力として暮らしていますから、歴史の恩恵を直接的に受けています。
つまり、権力者の『交代』による歴史観が断絶的なのに対して、技術の『蓄積』による歴史観は連続的であり、リアリティーが地続きなのです。
自己啓発的に言えば、この歴史観は自然に先人への『感謝』も呼び起こしてくれます。

そうした独自視点の歴史の深掘りが、まずは『サイニック理論』の大きな土台になっています。


2:歴史の周期性への着目

一方、未来予測に関しても、サイニック理論には大きな特徴があります。
多くの未来予測が『新しい技術の発見』に着目し、直線的な進歩イメージを取りがちなのに対して、サイニック理論は『周期性』に着目しています。
それが名称『Seed-Innovation to Need-Impetus Cyclic Evolution/科学が技術の種となり、社会が技術にニーズを与える、円環的な技術革新の進化』に表れる『Cyclic/円環的』という単語の働きです。

直線的な未来予測は、どうしても『情報の獲得競争』になりますが、それだけでは『発想の飛躍』はなかなか起きません。
サイニック理論も新しい技術情報を取り入れましたが、それだけでなく、『歴史は繰り返す』という円環的な歴史観を持ったからこそ、想像力を羽ばたかせることができたのです。
いささか逆説的な現象ですが、『知らないことは、考えられません』

その特徴を理解するには、美術史がかっこうの例題になってくれます。
直線的な発達史としてだけ美術史を考えた場合には、印象派からシュールレアリスム(超現実主義)への飛躍はなんだかよくわかりません。
そこに、どんな意図や論理の変化があるのか……


モネからダリへ/明るさから暗さへ


しかし、美術史家のクルティウスが指摘した「ヨーロッパの芸術は明るさと暗さを交互に繰り返す(厳密には古典主義とマニエリスムを繰り返す)」という特徴を踏まえると、出てきた揺れを「あっ、あれか」と感じることができます。


ラファエロからエル・グレコへ/明るさから暗さへ


ここでもまた、サイニック理論の特徴は『リアリティー』です。
現象の新しさだけに着目すると、理解のアプローチはどうしても恐る恐るになりますが、歴史の繰り返しに着目すると、未来に『懐かしさ』が生まれます。
円環性への着目は、『未来に対する既視感の利用』と言えるでしょう。


3:未来予測への段階設定/活用法

3番目の特徴は、理論自体というよりも、実践への落とし込みです。
サイニック理論では、1970年に100年先の未来を予測しましたが、オムロンさん(というか、立石さん)は『100年後の未来を一気に先取りすること』はしませんでした。
100年後の未来をイメージしつつ、「では、50年後はどうなっているのか?」「5年後などうなっているのか?」という落とし込みをされたのです。

それが、サイニック理論が『SF/Science Fiction』ではなく、ビジネスの実践理論である由縁。
具体例で言えば、研究段階で『人間が運転しなくてもいい、自動運転の車』という未来イメージはできていました。
しかし、それを(マンガや映画として)いきなりつくるのは『SF』
注:SFはSFで楽しいものです 😊

一方、「そこにいくまでには段階がある」と考えるのがビジネス的な未来予測であり、現実的に必要とされるのは『人間が運転する車の事故をなくすための機械=信号の自動切り替え装置』でした。
あるいは、「いずれはキャッシュレス時代になるが、その前には物理的なお金を自動的に扱う機械=ATMが必要」といった具合です。
一般にはオムロンさんは体温計や血圧計で知られているはずですが、企業としての発展の礎は上記のような自動制御機群でした。

冒頭かかげた時代区分では、『機械化社会』の後は『自動化社会』と設定されています。

現在(2024年)は、さらに進んで『最適化社会』の最後の年


おそらく、サイニック理論は、今後ますます広まっていくことでしょう。
そして、その未来予測を活用することが直接的な『実践』だとするならば、以上の3つの特徴をトレースして自社の『サイニック理論(にあたる未来予測)をつくり出す活動は『メタ実践』だと言えます。
その場合の具体的な手順は以下の通りです。

1:自社の業態の歴史研究
2:そこにはどんな周期性が見出せるのか?
3:理想的な未来のからの逆算的段階設定


サイニック理論が周知された先にあるのは、そうした『メタ実践』ではないかと、わたしは考えています。


そろっていることは美しく、違っていることはおもしろい


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