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某テレビ局ADの僕が上司に隠れてこっそりM-1準決を目指すことになった話


■おいらはテレビ大好き少年

昔からテレビとお笑いが好きだった。
家族団らんの傍には、いつもお笑い番組があった。
『クセがスゴいネタGP』、『有ジェネ』、『シンパイ賞』、、、
数々のお笑い番組が、幼かった僕の人格を形成した。
生まれて初めて喋った言葉も、なんとなく耳に入っていたテレビの音に影響されてか「みごと、かべクリアでしゅ」だったそうな。

小学校に入っても、席替えは毎回最前列を勝ち取り、授業やホームルームの時間は裏回しに徹した。
道徳で使う「心のノート」の設問は全て大喜利のつもりで回答した。
放送委員として担当したお昼の放送は、生徒からのリクエスト曲は無視して放送尺の9割をフリートークで埋めた。
運動会では、なるべく相手チームに言いがかりをつけてもめ事を起こし、盛り上がりどころを作った。

とまあここまでは「心のノート」の話以外全くの嘘なのだが、
なんしかお笑い好きだった僕は今、地元大阪を離れて東京の某テレビ局・某番組でADとして働いている。
出演するタレントのためにお水や弁当を用意したり、ロケで行く場所、ロケで取材する人にメールを送ったり電話したり、ロケで使う機材を準備したり、ロケの移動で使う車両を手配したり、編集所に籠ってテロップを入れたり、撮影した映像素材を整理したり、コピーしたり、出演するタレントのためにお菓子を用意したり、番組のTwitterを運営したり、カンペを作ったり、台本を作ったり、情報の裏をとったりしていたら、1年以上が経っていた。


ADがDに上がるまでには、番組の規模にもよるが、早くて3、4年、遅かったら10年くらいかかることもある。だいぶかかる。
ADとDなんて、傍から見たらそんなに違わないと思うのだが、だいぶかかる。
オタマジャクシなんて、2ヵ月くらいでカエルになる(※)というのに。

※学研教育資料センター
https://kids.gakken.co.jp/box/nazenani/pdf/01_doubutu/X1020220.pdf
種類や環境によって異なる。トノサマガエルの場合平均1~2ヵ月。

いちいちこんな裏どりをしてしまうくらい、ADというものが体に染み付いてしまった。
こんな作業して誰が楽しいねん。

■自粛期間にお笑いを始めた理由

2020年4月、緊急事態宣言が出て、ロケや収録が完全にストップした。
過去放送の再編集作業や、緊急事態宣言が明けてから行うロケの仕込みなどの仕事はありつつも、それまでの過酷な労働に比べたら時間に余裕が出来た。

空いた時間に、今まで観る余裕がなかったコンテンツに触れたり、自分の現状を客観視することで、気持ちに変化が起きた。

自分のやりたいことは何か?
そのやりたいことに向かって進んでいるか?

この1年、ADとして色んな“作業“のやり方を学んで“効率化はできるようになってきた。
ただ、ADとしての能力は伸びても、あまり人間として面白くなれている気はしない。
ここで理想とされているのは、会社にとって、上司にとって“使える“人間だ。
面白いとか、独創的とか、そういうのはとりあえずADに必要な能力じゃない気がしてきた。

しかし、自分が目指すのは“使える“人間じゃない。
いつかディレクターになったり番組の立ち上げに携わるとなった時には、絶対“面白い“人間でなくちゃならない。
“使える“人間を目指すより、“面白い“人間を目指すのが人生の本線なんじゃないのか?
だったら、こうやって“使える“ADになるために数年間費やすのは勿体ない。

テレビやラジオやYouTubeでは、自分と同年代の第七世代芸人たちが、ネタにトークに大喜利に、切磋琢磨していた。
この人たちは、毎日どれだけの時間を面白くなるために費やしているんだろうか。

そんなことを考えているうちに、ずっとなんとなく心の中にあった「お笑いをやりたい」という気持ちが熱を帯びてきた。

幸い今は、自粛期間。
なんと労働時間が法律で定められた範囲内で収まっている。
チャンスだ。

■コンビ結成と、上司に隠れる理由

かくして僕は、新型コロナウイルスのおかげで生まれた「仕事のことを考えなくてもいい時間」を使って、お笑いを始めることにした。
僕は、兼ねてより同じような想いを持っていた別番組の同期ADとコンビを結成した。Zoom越しで。

彼とは番組に配属される前に研修で一緒で、よく気づいてツッコむなぁ、とかよく周りの人巻き込んで盛り上げてるなぁ、とかよく左に曲がってるなぁ、とは思っていたし。
お互いに番組に配属されてからもちょくちょく会ってはお笑いの話をしたり大喜利ライブを観に行ったり左に曲がったりしていたし。
お笑いをやりたいという気持ちは一致していたから、Zoom越しにコンビを組むまでの流れはスムーズだった。
相方のWi-Fiが強ければもっとスムーズだったかもしれない。
ちなみにコンビ名の由来は、僕K嶋が写真好きで、相方の左折がアフロっぽい天パだから。

「上司に隠れて」の理由は簡単だ。
会社的に副業がダメで、たとえ収益がなくても、YouTubeなど競合にあたるものは会社に黙って勝手にやっちゃダメだから。
チケットバックなどのお金は1円たりとももらわないことにしており厳密には副業じゃないのだが、変に会社にバレて止められたり、制限を掛けられたら嫌だ。
あわよくばいつか他局のネタ番組とか出させてもらいたいとも思っている。
いつかバレるときは、うっかり口を滑らせてみたいなダサいバレ方じゃなくて、ちゃんと有名になってバレたい。
だから、上司というか同期や後輩にも、漫才を始めたことは隠すことにした。

■AD芸人の方針

さて、コンビを組む、ということになったが、具体的にどういう風に動き出そうか。
僕は大学時代に、学生芸人のお笑いライブを観に行ったり、M-1の予選を観に行ったり、キングオブコントの1回戦に出たりする中で、感じていたことがあった。
「他人を笑かすには場数が必要だ。」
いくら仲間内で笑いをとっていても、ラジオでメールが読まれても、それだけじゃ足りない。
声の出し方とか、細かい手の動かし方とか、目線とか、間とか、そういうのが、舞台に立ってきた数で全然違ってくる。
失礼な話、めちゃくちゃ失礼な話、テレビで見たことないベテラン芸人さんがライブのMCで喋っている時、文字に起こしたら全然面白くないのに何となく笑えるし盛り上がるってことがある。
そういうのはやはり場数を踏んでいるからこそ出せる演者としての力なんだと思う。

だけども僕たちは社会人。
しかもテレビ番組制作のADという超ブラックな職業。
そして僕も相方もお笑いサークルに入っていたわけじゃないので、漫才経験はゼロ。
詰んでいる。

とにかく、ネタを作って、人前でネタをやるしかない。
芸人をやっている先輩に、フリーでも出られるライブとして「ラスタ池袋」を教えてもらった。
ちょうどコロナも落ち着きそろそろ再開するというタイミングだったので、ラスタで披露することを目標に、ネタ作りを開始した。
練習は、2人の激務の合間を縫って、深夜にあいている会議室や屋外で。
最初の頃は僕の家や公園でやったりもしたけど、家でやったら上の階に住んでいるアジア系女性にクレームを入れられたし、公園でやったら散歩中の犬にめちゃくちゃ見られたので、できるだけ会社の敷地内でやるようにしている。
ネタ披露の場としては、多くて月2回、休みの合う日にラスタ池袋でネタをやらせてもらっている。
専業の芸人に比べて舞台に立てる回数が極端に少ないので、できるだけ毎回新ネタをやるようにしている。
経験を積んでいる。

AD芸人。
なかなか大変ではあるが、この道の先に目指しているのは、
自分で番組企画を考えて、自分で出演して、自分で編集して完パケまで持っていけるような人間になることだ。
言わばYouTuberのTV版、TVerになりたい。
そのために今は裏方としても、表方としても経験を積んでいかなくてはならない。

地道に毎日ライブに出演したり、YouTubeやTikTokにこまめにコンテンツを上げたりする時間はとれない。
だからこそ今は、仕事の合間にネタをしっかり考えて、ネタで結果を出すしかないと思っている。
テレビ好きの皆様、お笑い好きの皆様、こっそり何か企んでるサラリーマンの皆様。
ここから数年、中期的な目標としてM-1準決勝を目指して頑張りますので、応援していただけますと幸いです。

よろしくお願い致します。

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