誰かを育成することはできない。できるのは「学び・成長する仕掛け」をつくるだけ。
「データ分析×人×ビジネス」の軸で記事を書いています。
チームを率いる立場であれば、誰もが痛感することがあります。それは「どうしたらメンバーを成長させられるだろうか?」ということです。
先にお伝えしておくと、「これをすればいい」などという決まりきったものは存在しないと思います。確かに、世の中にはある程度・平均的にこういうのをやると効果が高いことが多いという定石はあります。ただ、重要なことは定石的なやり方を「そのチームやメンバーの状況、加えて、彼ら/彼女らを取り巻く環境の変化」に対して調整していくということなのだと思うのです。多くの書籍ではモデル化された、まさに「ある程度・平均的にこういうのをやると効果が高いことが多いという定石」に過ぎないということです。
宮本武蔵の五輪書のなかでも、武蔵は(ものすごく要約してしまうと)
本書をよく読んで、自分なりに創意工夫を繰り返し鍛錬を続けることでしか身に着けることはできない
というようなことを語っています。
こういった助言を参考に読んでいただきたいのですが、私なりの(少なくとも現時点での)結論として「人に教えることはできない」です。しかし、人が学び、成長するにあたっての「仕掛けはつくる≒働きかけはできる」と信じています。逆に言ってしまうと、学び、成長するかどうかは「その人次第で、こればっかりは他人はどうしようもない」という割り切りもどこかで必要だということです。
それで、その仕掛けというのは以下のようなものです:
好奇心と競争心をくすぐる
成功による楽しみを体感させる
そのうち、悩むこと自体を楽しめるようにする(ようになるまで繰り返し、待つ)
失敗を避けようとしない(回避させるようなことをしてはいけない)
その代わり、失敗したときのために「頭の切り替え」を強くしておく
視点の切り替えを学びにする
1.好奇心と競争心をくすぐる
まず第一に探るべきは、この人は何に・どういうとき・どんな状況だと、etc. 何かに対する興味関心だとか、「これやってみたい!」という前向きな気持ちが起こるのかというところです。これを一番、近い表現でいうと「好奇心」ということなのかと思います。
一方で人によっては好奇心に加えて(ちょっとしたスパイスをかけるように)競争心を持たせるような仕掛けをしてあげると、一気に行動の熱量が上がったりします。しかし、この競争心は人や状況によってはマイナスの影響も出るので慎重に見抜く必要があります。
これ以降も同様なのですが、「どうやって?」ということを気にするのではいけない気がします。これらをくすぐる方法に着眼してしまうと、つい方法論を収集する=知識だけで満足してしまうことになりがちだからです。そうではなくて、「好奇心と競争心をくすぐる」ということ自体に着眼してもらいたいわけです。
これについて「どうやって?」というのは、自分自身で考えて編み出すことそのものに意味があると思っています。
2.成功による楽しみを体感させる
「小さな成功体験を積ませよ」というのは、この手の関連書籍を読めば例外なく言われることです。それが示すように、やはり何だかんだいって人が面白いと思うのは「うまくいったとき」なのだと思います。ただ、現実には成功体験を小さく刻むというのが難しいのです。特にビジネスの場合、即時効果が求められるような状況も多いので、地道にコツコツと言っている場合ではない!ということの方が多いでしょう。だから、これもついつい「うちは~だから、そんなのは難しい。どうしたらいいか?」と投げかけがちです(当然、私自身もそうです)。
それでも、方法論には走らないのが重要です。唯一これを超える方法があるのだとしたら、「分かるまで、いい方法が見つかるまで、うまくいくまで考える」ということでしょう。何度も言ってしまうようですが、こういう行動そのものに意味が生まれてくるものと考えるべきです。
3.そのうち、悩むこと自体を楽しめるようにする
1と2を積み上げていくと、次第にこのような段階がやってきます。これは教示する側(仕掛けをつくる側)でもそうなのですが、悩むこと自体が楽しくなってくる場面がみつけられれば成功も同然かと思います。より正確には楽しむというよりは、「苦にならなくなる」に近いでしょうか。
よく「部下が指示待ちだけで、自分で考えて動けない」みたいな話を聞きます。一概には言い切れない難しさがありますが、それでも1~2を経て、3の段階に至れていない人がこの傾向を顕著に持っていると思います。
小さな成功体験を積めると、何が良いかというのは
問題に遭遇するのが楽しみになる(自分なりの課題を持てることに快感をもてるようになる)
大変なことでも継続的に向き合い、努力し続けることができる
ということです。とはいえ、この3の段階に至るには1と2を繰り返しておかなければなりません。1と2の繰り返しによって、3のシーンが観察されないうちにこれを悩んでも、ほとんどうまい打開策は打てないのではないかと思います。
だから自発的にやるような段階を生み出したければ、とにかく1と2を探るしかありません。
4.失敗をさせようとしない
成功を体感させることに慣れることの弊害もあります。それは教示者(仕掛けをつくる人)自身が、相手に「失敗させたくない」と思ってしまうことです。そうすると、よくありがちなのは教示者が失敗しないように、先回りして防止策を打ってしまうということです。しかし、これはしてはいけない。
長期的にみて失敗ゼロということは、ほぼ確実にあり得ないことだと思います。これもよく言われるように失敗から学ぶということも多いので、成功が続くというのは逆に望ましくない状態ともいえるでしょう。
もちろん、小さな成功体験を積み重ねていると、本人側(成長する側の人)も失敗を過度に恐れたりもするでしょうし、そんな状態で失敗をしたら自信を失うかもしれません。それでも失敗は回避できないので、やはり作為的に避けるべきではない。
5.頭の切り替えを強くする
だからこそ、失敗したときに頭の切り替えができるようなトレーニングをしておくべきです。教示者が行うべきはこれのみといっても過言ではないと思っています。例えば、頭の切り替えができるためには:
一度、しっかりと失敗に向き合い反省する。その代わり、一度反省したら、もうそのことは振り返らない。という振り返りミーティングを繰り返し行う。
頭を切り替える習慣をつくる。例えば、時間を区切って違う遊びをするようなことでも鍛えられる(1時間YouTubeをみたら、途中いいとこでも強制的にマンガを読むようにする)。
マインドスイッチングを決めて、それをことあるごとにやっておく。これはスポーツ選手とかでは良くある話です。例えば、失敗してくよくよしているときに「大きく手をパンッと叩いて、アァー!と大声をだす」これで気持ちを切り替えると決めておくことです。もちろん、これもいきなりやって効果があるものではないので、ちょっとしたミスの時にこの動作を繰り返しておくことが必要です。
これも「どうしたら頭のスイッチが変わるか」みたいのは、考え続けて試して習得するものです。したがって、これも方法論の収集に陥らないようにしましょう。やるとしても、色々なやり方を参考に自分も試して、効果のあるやり方を自分なりに見つけるという姿勢でやるようにしましょう。
6.視点の切り替えを学びにする
少し表現を変えれば「失敗を苦にしない≒チャレンジ精神をつくる」みたいなことです。旧式的に、これは精神を鍛えるみたいなことを語る人が多いです。しかし、これは精神論では乗り越えられないとも思っています(できるとしても、それは過酷な精神ストレス=洗脳の先にある)。
この段階に至るためには、5でやった頭の切り替えを強くすることです。そうすると、6は自ずとできるようになってくるからです。
「失敗してやらなくなる」というのは、より正確な表現をすると「失敗することが”苦”だから、それを回避するために、そもそも行動しないのがいいから」ともいえます。行動しなければ失敗という結果が表れることもないですからね。だから、頭の切り替えを強くしておけば失敗して「ガーン」となっても、それほど苦にならなくなるので、どんどんチャレンジもしていけるわけです(もちろん口で言うほど、理屈で語れるほど簡単なことではありません)。
とはいえ、5でいった頭の切り替えが強くなると、3でも述べた(悩むこと自体が楽しくなる)ように、失敗そのものがある種の快感になってくるのです。要するに「失敗する=自分のクリアすべき点が明確になる」と捉えられるようになるのです。すると、新しい「課題をもてた=まだ成長できる余地がある」とポジティブにさえなれるのです。
しかしながら、この失敗も大きな失敗だと、それだけリカバリも大変なものです。だからこそ、成功体験も失敗体験も「小さく刻める」ような状況をつくりだしてあげることが、教示者側として必要な仕掛けだともいえます。
ポイント
どうやって?という方法を収集することに集中しないようにする。どうやって?と自分で悩み、試行錯誤すること自体に意味があることを知る。そこからしか教示側も、成長する本人側も成功はあり得ない。仮に方法を知ってうまくいっても、それは一時的なものでしかない。
小さな積み重ねによって積み上げられたことこそが血肉となる。それはどのような時にでも役立つ不変的かつ、自身の独自資産になる(それが本当の強みになる)。小さな積み重ねができるように、成功体験も失敗体験も小さく刻めるように仕掛ける。
失敗は回避するものではなく、積極的にぶつかって「頭の切り替えを強くする」ことに集中する。そうすれば失敗自体がある種の快感となり、学びの機会を飛躍させる。
全てのベースは好奇心をあおること。競争心は人によってスパイスになりうるので、うまくつかう。好奇心がないところに成長はない。全ての原点であり、ここを掘り起こすことからはじめよう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?