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未公開こぶ取り引き(1)

◆儲け話はひとりじめに◆

 むかしある村に、やせていて右の頬にこぶがある「右こぶ爺さん」と、少し太っていて左の頬にこぶがある「左こぶ爺さん」が住んでいました。

 陽気な性格の右こぶ爺さんには友達が多く、最新の流行をチェックしていましたので、山に芝刈りに行くときにも、野良仕事をするときにも、京の都で流行している最新の歌やダンスを作業に融合させて、マンネリ化による業務効率の低下を防止し、副業で村の子供たちにダンスレッスンをしてあげていたため、高い労働生産性と高い人気を誇っていました。右こぶ爺さんは、自分の置かれた境遇をそれなりに楽しんで暮らしていました。

 一方、左こぶ爺さんは村人にろくに挨拶もしない偏屈者で、欲張りであったため、村の皆から嫌われていました。

 ある日、右こぶ爺さんが山で芝刈りをしていると、困った様子の青鬼が頭を抱え込んで座っているところに出くわしました。右こぶ爺さんは、その青鬼には見覚えがありました。前の年、となり村の友人を訪ねたとき、人間と共に仲良く暮らしている青鬼がいたことを思い出したのです。勇気をふりしぼって声をかけると、その青鬼は座り込んでいるわけを話してくれました。

 鬼だけで共同生活をしている青鬼には、お頭(かしら)の怖い赤鬼がいて、毎晩のように手下の鬼たちを無理やり飲みに誘っては、一芸の披露を強要するそうなのです。面白い芸を披露した鬼には、金銀財宝や美酒ご馳走の褒美が出ますが、お頭の赤鬼が面白くないと思ったときには、鬼の金棒でケツを殴る鉄のシゴキが待っているというのです。

 青鬼の話によれば、赤鬼はかつて京の都を中心に、やや強引に人間どもに財物の寄進を迫るという経済活動を行っていましたが、ある日、お椀に乗って川を流れてきた、親指ほどの小さい人間にいきなり針で目を突かれるという通り魔の被害に逢ったそうです。逃げた先の小島に城を築き、仲間の鬼たちと仲良く暮らしていると、わざわざ船に乗って犬、猿及びキジを連れた男がやって来て、昼間から押し入るという強盗の被害に逢い、一方的に乱暴された挙句、半生をかけて蓄えた老後の備えの金銀財宝はあらかた強奪されてしまったそうです。その後、さらに落ち延びて里山近くで暮らしていましたが、この青鬼がふと漏らした、

「人間と仲良くなりたいな」

という願望に、

「よっしゃ、よっしゃ」

と鷹揚に応え、自分が悪役になる芝居を打ったところ、人間から予想外に酷い攻撃を受けたため、厭世的気分になって、今では数人の手下と共に山奥で隠遁生活を送っているということでした。

 近くに住んでいるから一度遊びに来い、との手紙を赤鬼からもらった青鬼は、かつての恩もあって断りきれず、人間のもとを去って赤鬼や他の手下たちと共同生活を始めました。以前は太っ腹だった赤鬼でしたが、自分が悪役になって人間からひどい目に合わされたときのことを未だに根に持っていて、何かにつけて青鬼につらくあたります。

「あのときの古傷が痛んで歩けないんだよねぇ」

と言っては青鬼にパシリをさせたり、たまに見かける人間に遠吠えのように罵詈雑言を浴びせることがあり、そんな赤鬼を青鬼がなだめると、

「お前は人間に親切にされたことがあって、いいよなぁ」

と皮肉を言ったりするのだそうです。

 とうとう明日の夜の宴会で、その青鬼が一芸を披露する順番が来るのですが、力仕事をするだけで人間に感謝され、優しくされて生きてきた青鬼には、鬼の世界で通用するような立派な芸は何もありません。ステージに立っても披露するものがなく、かえって赤鬼の不興を買ってしまうことが目に見えているため、こうして一人、頭を抱えて悩んでいるというのです。

 赤鬼が好む芸が、今風のダンスショーだと聞いた右こぶ爺さんは、「うまくインサイダー情報を手に入れた。これは儲けるチャンスだ」とすばやく頭をめぐらすと、今夜の宴会の場所を青鬼から聞き出しました。そして、青鬼へのフォローもそこそこに、急いで家に戻ると、どうやって赤鬼から褒美の金銀財宝をせしめるか、計画を練り始めました。

 よい儲け話は、他人に話すと独り占めにすることができなくなります。右こぶ爺さんは青鬼に出会ったことやその話の内容を他の村人にはまったく話さず、野良仕事をするふりをして、日暮れ前から鬼の宴会場付近の巨木のウロに潜り込みました。そして、夜に備えて体力温存のために、仮眠を取ることにしました。

(つづく)

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