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交通教則の「衝撃力」って何?

 学生の頃、自動車の教習所で説明を受けたときに、質問したい衝動をぐっと堪えて以来、30年以上もやもやとしてきたことがある。それは、「衝撃力」のディメンジョンは、本当に「力」なのか、ということである。

交通の方法に関する教則
 第4章 自動車を運転する前の心得
  第5節 安全運転に必要な知識など
   2 自動車に働く自然の力
(3) 衝撃力
 交通事故の大きさは、車が衝突したときに相手に与えたり、自分が受けたりする衝撃力の大きさに関係します。衝撃力は速度と重量に応じて大きくなり、また、固い物にぶつかるときのように、衝撃の作用が短時間に行われるほどその力は大きくなります。例えば、時速60キロメートルでコンクリートの壁に激突した場合は、約14メートルの高さ(ビルの5階程度)から落ちた場合と同じ程度の衝撃力を受けます。高速運転するときには、特に注意しましよう。
(4) 速度の影響
 制動距離、遠心力、衝撃力などは、いずれも速度の2乗に比例して大きくなります。速度が2倍になれば、制動距離、カーブで車の横滑りや転倒をさせようとする力、交通事故の大きさに関係する衝撃力は、2倍になるのではなく、4倍になります。

 まず「衝撃力は速度と重量に応じて大きくなります」は、直感的に受け入れられる。

 次の「時速60キロメートル...同じ程度の衝撃力を受けます」も、質量Mの物体が重力加速度gの環境で高さHから落下して地面にぶつかるときに速度Vになるとすれば、高校物理で習ったエネルギーの関係式

          MgH=(MV^2)/2

により、14mの高さから自由落下した物体は、地面にぶつかるときに約60km/hになるから納得できる。

 しかも「衝撃力などは、いずれも速度の2乗に比例して大きくなります」ということだから、どうやら衝撃力とは運動エネルギーに近い概念だと理解したが、さらに「衝撃の作用が短時間に行われるほどその力は大きくなります」との説明もあるので、単位時間あたりの運動エネルギーの変化量ということか?それなら「力」とは明らかにディメンジョンが異なるから変だな、と思ったところで考察するのをやめてしまった。以来、心の隅でずっともやもやが続いていた。

 しかし、最近になって、衝突現象を研究する分野では、「衝突前後の運動量の差を衝突に要する時間で割ったもの」を衝撃力と呼ぶことを知った。これならば、教則本の説明と全て整合し、ディメンジョンは「力」と同じになるから「~力」と呼ぶことに合理性が認められる。

 どうやら、「安全運転に必要な知識」を身につけないままで、30年以上も自動車を運転してきたことになる。我ながら恐ろしいことだ。

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