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【書籍紹介】スティーヴン・トゥールミン(2011)「議論の技法」東京図書

 本書は、英国の哲学者スティーヴン・トゥールミン(Stephen Edelston Toulmin, 1922-2009)が1958年に著した書籍の翻訳本です。分担して訳しているせいか、訳語の統一性に欠けて文章が分かりにくいのが難点です。

 トゥールミンは、伝統的な三段論法(「すべての人は死ぬ(大前提)」→「ソクラテスは人である(小前提)」→「したがって、ソクラテスはいつか死ぬ(結論)」)が、そのまま適用できるのは数学の証明程度に過ぎず、現実社会の議論における実用性が極めて低いことを問題意識とし、純粋な帰納法、演繹法を越えた、より実際的な論理構成の一般的構造を探求しました。

 出版当初は哲学、論理学の世界では酷評されましたが、彼の哲学的探求の目的とは裏腹に、競技ディベート等の世界で説得的論理構成の基本構造として認識され、「トゥールミン・モデル」の始祖として称賛を浴びることになりました。

 その説得的論理構造とは:

(D)――――――――(Q)―――→(C)
       ↑     ↑
      (W)  (R)
       ↑
       (B)

というものです。ここで各記号はそれぞれ、

C:Claim, 主張(=結論)
D:Data, 根拠(=客観的事実・証拠)
W:Warrant, 論拠(=理由・解釈の方法)
Q:Qualifier, 限定詞(=論者の確信度合い・Cが正しい確率。日本語なら  「十中八九」「おそらく~だろう」「~に違いない」など)
B:Backing, 裏付け(=Wが正当である裏付け・Wの権威付け。法律の条文や有力な学説など)
R:Rebuttal, 論駁(=例外/留保条件・ただし書き。
Reservationとも

を示しています。

 結果として、説得的な言説の論理構造を簡潔にまとめると、一般的に、

「Dの証拠に基づいて、Wという理由により、Qという確からしさで、Cと主張する。Wによる解釈の正当性は、Bにより担保されている。ただし、Rの場合には、この立論が当てはまらないので、別の議論となる」

というものになります。

 私は、業務上、トゥールミン・モデルに則った立論により、一見とても勝てそうにないと思われる法的論戦に勝利し、クライアントに大いに喜ばれたケースを輩出しています(秘密保持義務のため、具体的にお示しできないのが残念です)。

 お読みになる場合は、第3章から読むと全体の見通しが良くなると思いますので、第3章だけは目次を詳細に示します。

■目次
序論
第1章 議論の場と様相
第2章 蓋然性
第3章 論証のレイアウト
・論証のパターン ―データと根拠―
・論証のパターン ―論拠を裏づける―
・三段論法における多義性
・”普遍的前提”の概念
・形式的妥当性の概念
・分析的論証と実質的論証
・分析的論証の特性について
・いくつかの決定的な区別
・単純さの危険
第4章 実践的な論理と理想化された論理
第5章 認識論理論の起源
結論


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