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超短編小説

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#エッセイ

完璧な三日坊主

 それは、ある年の元旦に、僕たちが都心にある由緒正しい神社で初詣をした後で、長い参道の砂利を踏み締めながら並んで歩いていたときのことだった。 「この世界に、完璧なものってあるのかな」  彼女が唐突に尋ねた。 「それは『完璧な』の定義によるんじゃないかな」  僕は、質問の意図を図りかねて、無難な答えを返した。 「…つまり、『完璧な』の意味をどうとらえるかで、答えが変わるってことね」  しばらく沈黙が続いた。長い参道を歩いているうちに僕は、社会人になった年に3か月だけ

持たせ切り

 電車のシートに座った瞬間に「粗にして野だが卑ではない」というタイトルが頭にいきなり浮かんできた。時代劇映画のタイトルだったような気がするが正体を思い出せず、wikipedia で調べたところ、国鉄総裁だった石田礼助をモデルにした、城山三郎の作品だった。  国鉄総裁と言われても若い方はピンとこないと思うが、民営化前のJRは日本国有鉄道、略して「国鉄」と呼ばれていたのだ。そのほか、JTの前身が日本専売公社、NTTになったのが日本電信電話公社であり、かつて日本には3つの公社(国