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超短編小説

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完璧な三日坊主

 それは、ある年の元旦に、僕たちが都心にある由緒正しい神社で初詣をした後で、長い参道の砂利を踏み締めながら並んで歩いていたときのことだった。 「この世界に、完璧なものってあるのかな」  彼女が唐突に尋ねた。 「それは『完璧な』の定義によるんじゃないかな」  僕は、質問の意図を図りかねて、無難な答えを返した。 「…つまり、『完璧な』の意味をどうとらえるかで、答えが変わるってことね」  しばらく沈黙が続いた。長い参道を歩いているうちに僕は、社会人になった年に3か月だけ

持たせ切り(公開予告風)

 40代最後の夏を迎えた鈴木は、電車の中でふと思い出した小説タイトル「粗にして野だが…」をきっかけに、学生時代の記憶に沈潜する。かつて、電車の改札口では、駅員たちが匠の技「持たせ切り」の技を競っていたことを思い出す。井の頭線にも「持たせ切り」の巧みな技を披露する一人の駅員がいたが、鈴木はその技の背後に、ある特殊な法則性があることに気づく。  改札鋏の謎を追ううち、関係者のだれもが口をつぐむ「幻の改札鋏」の伝説に導かれた旅の中で、志を同じくする仲間たちとの出会いと別れ...改