立山町の聖獣クタベ

新型コロナウイルスが広がると同時に、江戸時代に「伝染病除けになる」として流行した謎の生き物の絵が再び脚光を浴びています。

Twitterなどで最初に流行となったのは、アマビエ。

弘化3年4月中旬、肥後国(現在の熊本県)の海中に毎晩発光する場所があり、役人が行ってみたところ、自らをアマビエと名乗る生き物が海中から表れ、「これから6年の間、稲が豊作になるが、伝染病が流行る。私の姿を描いて人々に見せよ」と言って海中に戻っていったといいます。

ずっと知る人ぞ知る存在でしたが、ここにきてそのなんともいえない脱力系の姿から爆発的人気になり、いろいろな人が絵を描いたり、和菓子が作られたりしています。

厚生労働省の新型コロナウイルス啓発画像にも登場しました。

 弘化3年といえば、1846年。江戸時代の終わりごろ。14代将軍の徳川家茂が生まれた年です。

 同じように富山県の立山でも、不思議な生き物の目撃があったようです。

クタベ 大正12年「奇態流行史」P65

文政10年亥冬諸国流行 越中立山にて薬種を掘る人に告げて曰く、当年45年の内に名も知れぬ悪病流行して老若ともに人多く死すなり。是に依て此図を書きて常に見る時は其病を避るなり、ゆめゆめ疑うべからずとて消せにけるとぞ。

 文政10(1827)年の冬に流行したもので、越中(現在の富山県)の立山で薬の材料を掘っていた人の前にこの生き物が表れて、「今から4、5年のうちによくわからない伝染病が流行って年寄りも若者もたくさん死ぬ。私の姿を絵に描いてそれを見れば病気を避けられる。嘘じゃないぞ」と言って消えたという。

 立山で目撃された生き物は、「クタベ」と呼ばれています。どうやら他の地域での「クダン」だとされています。

 文政10年といえば、西郷隆盛の生まれた年。その2年前の1825年には、異国船打ち払い令が出されています。江戸時代の終わりごろは世の中が不安定で、このような流行が多く生まれたようです。

 もっとも、当時の人は本気で伝染病が避けられると信じていたとは言えず、現代の人と同じように、なかば面白がって広めていたようです。

 新型コロナウイルスへの不安や、対策のための臨時休業も続き、気軽に登校したり遊んだりできない日々が続いていますが、こんな中で生まれるちょっとした楽しみは、今も昔も変わらないのかもしれません。

 クタベについては、大正12年に発行された『奇態流行史』という書物に「江戸時代の流行」として書かれています。国立国会図書館デジタルコレクションで見ることもできるので、興味のある人はぜひ。

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/927420?contentNo=3

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