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私(たち)は庵野秀明監督にEVAの何を期待しているか

2020公開予定の新劇場版エヴァンゲリオンの最終盤『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の冒頭10分公開が先日行われ、いろいろと公式も特報を出すなど話題になっています。

新劇場版の映画内容等は様々な考察が、TV版との比較も含めて行われているので、ここではあえて言及しません。

EVAはわたし自身「大人になって初めてハマった唯一のアニメ」でした。
私にはオタクの自覚がありません。普通に子供の頃は松本零士好き(ヤマト・999・ハーロック)くらいで、少し下の世代がガンダムで盛り上がっても蚊帳の外でした。

1995年からテレビにて放映され、当時の社会現象にまでなった「新世紀エヴァンゲリオン」それまでにない過度の情報集積と斬新な設定と過去アニメへのオマージュ。あっという間に大人の私でもEVAに引き込まれてしまいました。その中でも私が特に引かれたのは主人公碇シンジの心的描写の精密さでした。
多感な思春期の子供の心をあそこまで繊細に描き上げられたのは、監督の庵野秀明さんの力量以外の何物でもありません。それはアスカ、レイ、ミサトにリツコ、それぞれ、子供から大人の事情まで実に繊細に詳細に注目となるメカニック系よりも精密に書き上げられています。

問題となったTV版ラストへの総バッシングからの(旧)劇場版

「シト新生」

本来ならば、これでファイナルになるはずがまさかの制作遅延。
色んな事情が重なり、仕切り直しで旧劇場版ファイナル版となった

「air、まごころを君に」

この流れを知るリアル世代の方は記憶もまだ鮮明にあるかもしれません。
当時は、ネット世界黎明期で論争の舞台は「パソコン通信」がまだメイン。やっと2chが認知されたくらいで、オタクへの庵野監督からの全力なアンチテーゼにも、今ほどの過敏な反応はまだ無かっと思います。

物語的には「しっかりと」完結したと言えるのでしょうが、詳細な謎設定の解明、「人類補完計画」の難解さなど、「一から十まで説明しないと納得しない」層には「最低映画」と写ったらしいです。

私としては、この「air、まごころを君に」での人物描写、特に主人公、碇シンジの描写が、TV版から較べて圧倒的に鬱になっているのを見て、本当に勝手ながら、このエヴァンゲリオンという作品は、庵野監督にとっての精神日記なのではないかと感じました。

それだけでなく、エヴァの世界全てが「庵野秀明監督個人の内証すべての反映像」だと、感じました。

「air、まごころを君に」

で、本当ならば全部出しきったはずだった。
庵野監督も、公開終了後のインタビューで
「脳内ハードディスクがカラカラと音打ってイニシャライズ行っている状態」
と、放心状態だったことを言っていました。

その後、ポップ系の作品や実写映像への進出など方向ベクトルを切り替えて見たものの、やはり、「内証全ては出し切っていない」事だったのか、2006年「所信表明」にて

「エヴァンゲリオン作品のリビルト」

を宣言し、今も続く、新劇場版エヴァンゲリオンシリーズを作られています。

新劇場版制作発表当時(私の記憶が正しければ)年に1本のペースで映画を作り、4部作で完結。
発表が2006年、最初の「序」公開が2007年、なので、本来ならば2011年に完結しているはずでした。

しかしながら、その発表からは大きくずれ込み、やっと来年の2020年6月に、完結版『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』が公開予定となりました。

「いま、本当に映画作っているの?」「自然消滅するのか?」「なんか、ハリウッドで実写化するらしいよ(→正式発表あったが実質頓挫)」
など、大幅に遅れて発表された第3部「Q」のあと、散々に世間で憶測が流れたなかでの、まさかの

「シンゴジラ」2016

何やってんだよ庵野!!!

って、思ったけど、これがめちゃくちゃ面白い。
エヴァのヤシマ作戦完全オマージュ(いや、自分パクリ)という潔さ、短時間にて作り上げたからこその心地よいスピード感と余計な虚飾を排除したコア中心なシンプルストーリー、その中に込められる庵野監督お家芸の「マニアック要素の凝固」

クリエーター庵野秀明が全くをもって健在なことにファイナルエヴァへの期待は逆に高まることとなったと思いました。

他にも

・新劇は完全なインディーズ制作で旧劇の「製作委員会方式」の縛りを全く受けなくて良い
・さんざんな制作遅延がかえって期待感を高まらせる
・あらゆる企業体とのコラボレーション
・派生グッズ、(貞本漫画版など)の流布

様々な要因で、逆にEVAというアイコンを神格化させてしまったのではないかと感じます。

これは音楽で言うと、テクノミュージックの元祖にして最高神
「KRAFTWERK」
が、実に17年ぶりに発表した2003年のアルバム
「Tour de france」
での高クオリティさを見せつけたことで、「あの人は終わったよ」という流布を完全排除し、逆ベクトルへの反跳を促してしまっている事象と似ているのかもしれません。このアルバム復活にてKRAFTWERKは「テクノゴッド」の称号を不動のものとしました。


そう考えると、世によく言われるクリエーターで大事なことの筆頭に挙げられる

「締切を守る!」

というのは「確実なクオリティが絶対担保されている」という条件がクリアできていれば、そんなに問題なのではないのかもしれません。


私は、少なくとも、そんな「いろいろな要素にてわがままな」庵野秀明監督に振り回されながら「面白さが絶対保証される」『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』を楽しみに待っているのだと思います。また、庵野監督の精神が不調になり制作が遅延されるかもしれません。作品の世界観が特報と大きくずれるかもしれません。特報映像がまったくのデマかもしれません。

そんな細かいことにEVAファンの私は動揺も狼狽も失望もしません。

庵野監督の内証がそのまま反映されるEVA世界が、確実に担保されているのがわかっているから我慢出来ます。期待できます。いつまでも待ちます。

なので、公開がどんなに遅れても、悲しみません!


まとめれば、私は庵野秀明というどうしようもないわがままでダメな人間性の、代替不可能で稀有な超クリエーターが好きでしょうがないのだとおもいます。


それは、私の理想なクリエーター像にほかならないのです。

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