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虚偽告訴罪について

ネットで荒らし事案に何度か遭遇しているワタクシ。「威力業務妨害罪に該当する」などの脅しをかけられたこともあります。
そもそもが詐欺の疑いが濃厚だった事案であり、警察及び消費者庁にも届け出ましたけれど。
(※詐欺については未遂でも告発可能です)

さて、こうした場合の対処法についてです。
個人的な「嫉妬や怒りからの報復のみ」を目的として警察へ届け出ようとしているのではないか?と思われるケースも時折目にしますので、密かに気になっていました。

ですが、ちょっと待った!
この方法も、一定のリスクを孕んでいることを忘れてはいけません。今まで散々「警察に相談してみては?」と言ってきましたし、マッチポンプめいていると感じる人もいるかもしれませんが、やはり、法的知識の悪用は厳禁です。

軽犯罪法に違反するかも

まず、嘘で犯罪や災害の事実を公務員に申し出た場合についてです。たとえば、退屈しのぎで「○○の家が燃えている」なんて消防署に通報した場合を想定してしてみましょう。
この場合被害者は特におらず、いたずら目的のことが多いようです。法定刑は、拘留や科料といったもので、比較的軽めの処罰。ですが、しっかり「前科」扱いになります。

さらに、あまりにも頻繁に通報すると、警察などの業務を妨害したとして、警察に対する偽計業務妨害罪が成立する恐れがあります。
そんなわけで、いたずら目的や鬱憤晴らしで通報するなんていう真似をしてはいけません。

軽犯罪法第1条の16
第1条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
(中略)
16 虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者
(後略)

出典:e-GOV

刑法233条(信用毀損及び業務妨害)
第233条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

出典:e-GOV

虚偽告訴罪に該当するかも

信じられませんが、特定の人に一方的な恨みを持っていたり、示談金をせしめたりすることを目的とした嘘の申告をする人も、世の中には存在します。「当たり屋」や「美人局つつもたせ」を想像すると、分かりやすいでしょうか。
そんな人を罰する規定も、しっかり存在していることもお忘れなく。

刑法第172条
人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、3月以上10年以下の懲役に処する。

出典:e-GOV

虚偽告訴罪で立件される場合、個人的利益よりも国家の司法作用を守ること(保護法益)が優先されます。捜査機関や裁判所に無意味な捜査をさせないための規定ですが、知らない方も多いのではないでしょうか。

虚偽告訴罪の成立要件

条文を大まかに分けると

1. 人に刑事または懲戒の処分を受けさせる目的で
2. 虚偽の告訴、告発その他の申告を
3. 刑事や懲戒の処分権限を持つ者に対して行う

という条件が揃った場合に、虚偽告訴罪が成立します。特に2・3は、警察のみならず、行政機関への申出、弁護士会に対する弁護士の懲戒請求なども該当するとされています。

また「虚偽による申告」の意味について。
これは、客観的事実に反する申告でなければなりません。
例えば、ネットで「これは自分のことを言われているかも」と薄々感じたとしても、クリエイター名が具体的に名指しされているなどの客観性がないとダメなのです。「誹謗中傷による名誉毀損」も同じことです。

名誉毀損の客観性が成立するのはどのような場合か

一例としてnoteの場合、コメント欄における誹謗中傷の場合は、記事主のコメント欄に書きこむのが一般的です。この場合は誹謗中傷の対象者が明らかですから、「侮辱罪」「名誉毀損罪」が成立しやすいと言えます。また、先に述べたように「クリエイター名」を名指ししているのも、分かりやすいでしょう。
他には、「LINE」「メール」「DM」などのやり取りのスクリーンショットを晒すのも、「名誉毀損」や「誹謗中傷」で訴えられる可能性があります。
これらは、本来は公に頒布される性質のものではないからです。

一方、よく見かける例として、自記事で一般論を述べた場合にはどうでしょうか?
この場合、「名誉毀損」「誹謗中傷」の成立要件には足りません。
にも関わらず、このような記事を根拠として誰かを「警察に告訴しよう」などと考え、実行に移した場合には、逆に虚偽告訴罪が成立する恐れがあります。
もっとも警察に「遠回しに非難された」と駆け込んでも、このレベルではまともに取り合ってもらえない可能性が高いでしょう。

また、未必の故意についても要注意です。
たとえば、会社の横領事件において、AさんはBさんが薄々犯人だと感づいていたとしましょう。ですがAさんが自分とライバル関係にあったCさんを陥れるために、「犯人」として告発したとします。
この場合、Aさんは「たとえ間違っていても、Cが邪魔だから逮捕されればそれでいい」と考えていたのならば、後にそれが虚偽だと判明しても、その主張が認められず虚偽告訴罪が成立する可能性があります。

既遂時期について

犯行が成立したと判断される時点を、既遂時期と言います。本罪の場合、被害届など「犯罪内容」が記載された書類等が捜査機関に到達した時点で、既遂と見なされます。実際に逮捕や懲戒処分が行われたかは関係なく、また、告訴の方法も特に決められていません。

仮に被害届の場合であっても、被害調書への記載内容次第では、やはり「虚偽告訴」の対象となる場合があります。
したがって、軽い気持ちで「警察に訴えれば何とかしてもらえるだろう」と考えては、いけません。しつこく電話で「○○の件で電話しました」なんてやっている時点で、それ自体が「告訴」と見なされる可能性もあります。

虚偽告訴の民事上の責任

虚偽告訴によって逮捕されて無罪を主張した場合、長期間拘置所に勾留されて警察の厳しい取り調べを受けることになります。また、公判開始まで数ヶ月間拘置された場合、家庭や職場を失い、その地に住めなくなる恐れもあるでしょう。
そのため、虚偽申告罪は社会的に多大な悪影響を及ぼす重罪と位置づけられています。

さらに、刑事犯としての処罰の他に、被害者個人から損害賠償請求をされる可能性も出てきます。(民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求権)
無罪であるにも関わらず、虚偽申告により社会的信用を失うなどの事態に陥った場合、被疑者とされた人がかなりの精神的・経済的ダメージを負うのは明らかだからです。

何でもかんでも警察が動くわけではない

何人かのクリエイター様のコメントで残してきたように、私自身、note社の運営本部とも何度かやりとりした経験もあります。ですがその場合も、きっちり「各種法律違反」の証拠を揃えてnote社を納得させるだけの材料を揃えないと、こちらの言い分は通らないというのが個人的な見解です。

最近疑問なのが、保身などの利己目的から「自分の気に入らないクリエイター」を「善意の第三者を装って」(いわゆる「なりすまし」)警察に通報している人がいるのではないか?ということ。
警察にもそれぞれの管轄があり、都道府県境を越えて捜査に踏み切るというのは、よほどのことです。
さらに、通報者保護の観点から、「被害届」「告訴状」を出せる先や「所轄の裁判所」も、きちんと刑事訴訟法で決められています。

むしろ、軽い気持ちで「憂さ晴らし」「鬱憤晴らし」で明白かつ客観的な証拠もないまま虚偽の通報をすると、逆に刑事訴訟のリスクも抱えることになりかねません。
そうなっては、とても「ネット活動」どころではなくなるのではないでしょうか。

というわけで、この手の問題に遭遇したときは、まずは専門家に相談しましょう。「生兵法は大怪我のもと」と言いますが、法的対応も同じことです。
また、何度か書いていますが、士業のほとんどは「〇〇会(弁護士なら弁護士会など)」への名簿登録義務があります。これもネットで調べれば本物か偽物かすぐに分かりますから、ある程度信頼の目安になるのではないでしょうか。
悪事を完遂するために「法の抜け穴」を探そうとするよりも、自分の作品を育てる方がよほど有意義だと思うのですが、いかがでしょうか。

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