「SANEMORI」が想像を超えていた話する

初春歌舞伎公演「SANEMORI」
1/15昼の部 感想まとめ🌹

1○年来の歌舞伎ファンを兼ねる、一すの担(ABKAI未見)の感想です

【はじめに】
まず最初の告知時点で、「あの團十郎丈」とSnow Man・宮舘涼太が名前を並べられてることがとんでもないことなんですよ。
「市川團十郎」って名前自体が市川宗家=歌舞伎界のトップ(の一人)を意味する名前な上、しかもその名前を襲名してお披露目公演をした翌年の、新年早々の演目への出演。おまけに「アイドルが外部出演」する「古典ではない作品」。
どうしたって、注目されるしかない。
更には前回團十郎丈がやってた役・義賢を演じる訳で……親子とか近い親戚の歌舞伎俳優とかなら芸の継承のためにも割とありますが、こういったパターンはなかなか無いのではないでしょうか?
歌舞伎ファン視点からしても、舘様のプレッシャーは想像を絶します。
それが大前提。

【プロローグ〜序幕:義賢最期】
・本当に 舘様から 始まった
・舘様の演じ分け、義賢としては「命を削り」、義仲としては「命を燃やし」ていた印象
・若く希望に満ちた義仲(声高めの武人の若様)と、病み衰えた父親の義賢(声低めの貴人) 
・言い回し、舘様は現代語寄り(他の歌舞伎俳優は通常の歌舞伎仕様)
・四天王は若手歌舞伎俳優が務めています(市川福太郎さん・上村吉太朗くん・市川福五郎さんが同い年の21歳、市川右田六さんは29歳かな)
・部下が同世代〜年下とあって、若々しさが増して勢いづいた木曽軍の印象が強い
・白塗りが似合うの凄い
・必ずしもイケメンが白塗りでイケメンになるとは限らないのが歌舞伎の化粧の不思議な所なんですが(だから一人ひとりが独自に似合う化粧の仕方を探すのだとか)、顔の造形を残しながらもいい男に見える顔立ちは強み
・立ち回り、型が恐ろしく美しい
・体幹の鬼
・息が荒いのは演出か、本当か……

・回想から義賢の館へ
・腰元ガールズ(中村芝のぶさん・片岡千壽さん・市川右若さん・市川升吉さん)は一旦ピリッとした空気を和らげる役割
・『波濤を越えて』の梅天狗&桃天狗コンビ再び
・芝のぶさん、以前から見る度に美しすぎて大好きな女形さんなのでいてくれて嬉しい
・近江八景を語る台詞の中に「Snow Man」「舘様」「八景では足りぬ、九景で(うろ覚え)」等々の言葉が練り込まれる粋な計らい
・葵御前(大谷廣松さん)、品のある奥方でとても美しい
・……とか何とか言ってるうちにすぐ不穏な気配に
・義賢との別れが切ない
・姿を変えての再登場、勇ましいのに最期が近いことが察せられる
・薙刀も難なく使いこなしている……やはり体幹が生かされている……
・プロローグに続き、序幕でもアクロバットチームの皆さんのトンボが素晴らしい
・ここでの義賢様の息切れは(立ち回りの激しさだけでなく)死にかけている表現も混ざっているのだろうけど、奮戦虚しく追い詰められていく姿に涙した
・それでもなおボロボロの身体を動かすのは少しでも追手を遅らせるためで、名も付けられなかった我が子を救うため、というのがダイレクトに伝わる
・『滝沢歌舞伎ZERO』で続けてきた「戸板倒し」、まさか歌舞伎の舞台でも更に重い拵え(こしらえ)で観られるとは
・あまりにも無惨な死、でも誇り高い
・義賢様、ちゃんとパパだった
・パパだった……
・『義賢最期』のもう一つの大技「仏倒れ」はさすがにマイルドなアレンジ版になっていた(あれは歌舞伎俳優でもかなり危険な技だったはずなので正直良かった)ものの、最期の台詞も相まって悲壮感が強い

・小まんさん(中村児太郎さん)、いや姉御と呼ばせてほしい
・ホホホ……と笑いながら男を薙ぎ倒す怪力娘、最高です
・児太郎さんはこれまで観る機会があまり無かったけど、低く張った時の声がお父様(中村福助丈)に似てる気がした
・福助丈の演じる(芯の)強い女が好きな私が、児太郎さんの演じる(芯も力も)強い女を好きにならない訳が無かった
・しかし結末は知っての通り、なので、平家の姑息さ・残酷さを皆に感じさせながら散っていく小まんさん……
・そしてついに登場する斎藤実盛(團十郎丈)、問答無用で顔がいい(顔がいい)
・私が初めて観た演目にも出てたんですが、若い頃からずっと顔がいいんですこの人
・パッと主役と感じさせる風格
・この時点で心は源氏にあると言い切ってくれてるので、次の幕に向けてもわかりやすい流れ
・でも小まんさんの腕は斬る
・何という幕切れ……プロローグと序幕なのに既にカロリーが高すぎた

【二幕目:実盛物語】
・舘様が出ないこともあり、おそらく元となる演目『実盛物語』にかなり忠実な歌舞伎演目
・腕を斬られた小まんの顛末や家族の嘆き、実盛の真意や太郎吉との約束を見守る幕
・割と荒唐無稽なのは仕様
・腕を拾ってきたり、そこから白旗を引き剥がしたり、腕を赤子呼ばわりしたり、腕をくっつけると死人が蘇ったり、(結果的に)敵が二人も味方に寝返ったり……その経緯をどう泣かせる物語に持っていくか、が役者の腕の見せ所と思われる
・團十郎丈が父世代ということもあり、母を亡くした太郎吉の気持ちを汲み取る流れが自然だった
・瀬尾十郎(市川右團次さん)の威圧感ある悪役っぷりはさすが……「モドリ(悪役のち善人役)」は、前半が印象悪ければ悪いほど後半が魅力的になる
・弱った小まんさんは見たくなかった(めんどくさいおたく)
・身重の葵御前は艷やかだった(本音が隠しきれないおたく)
・瀬尾の首切りシーンはまさに壮絶、本当に痛そうだしそれを気迫だけで耐えているのがリアルに伝わってくる
・あの一瞬で首が落ちる技は「平馬返り(へいまがえり)」と言うらしい(調べる度忘れる)
・難易度も危険度も高い技を観られて、感動するやら悲しくなるやら
・瀬尾、パパとしておじいちゃんとしての選択がエグすぎた……
・太郎吉は泣かせ所から笑い所まで網羅するスーパー子役
・実盛と馬に乗るシーン、仇討ちすべき関係性なのにどこか優しい
・『実盛物語』が淡々としてるのに残酷、残酷なのに何となく爽やかな理由だと思う
・実盛も、しっかりパパだった……
・義仲の名付け、義賢の後悔=「駒王丸と名付けてやりたかった」を知らず継いでくれてるのはもはや運命
・馬役の安定感! そうです歌舞伎の馬は本物より本物らしいんだ
・しかし今回の馬役さん、おそらく大きすぎて團十郎丈が花道最後でちょっと頭を屈めてたのは予想外すぎて可愛かったです

・ここの10分の幕間、開演直前に和太鼓パフォーマンスがあるので絶対に聴いてほしい
・しれっと凄技パフォーマンスされてるので……せっかく聴けるので……
・お三方のうちのお一人(おそらく一番左に立たれます)・山部泰嗣さんは、配信公演『ART歌舞伎』でも演奏や楽曲提供されてます
・一部の演奏はYou Tubeでも無料で聞けるので、和太鼓に圧倒された人は是非(ダイマ)
⭐舞踊「DOODLE」/「ART歌舞伎」より
→https://youtu.be/UlETNvtVfhM
(歌舞伎俳優・中村壱太郎丈による舞踊、作曲と和太鼓演奏が山部さん)

【大詰】
・義仲と実盛、出会ったことのない二人の結末の話
・この話、『実盛物語』には無いそうで……『老樹曠紅葉直垂』という後世に作られた後日談の別演目をアレンジしているそうです
・『SANEMORI』としてのグランドフィナーレが、「実盛がどう生きるか、何を選択するか」「その信念を見届けた義仲達が未来をどう生きていくか」なのだと気付かされる
・義仲が記憶など無いはずなのに実盛を知っているのは、舘様が一人二役の義賢を演じ、その義賢の後悔を実盛が引き継いで義仲に幼名を与えた……までの一連が必然だからのように感じる
・太郎吉=手塚太郎光盛と義仲の実盛に関する会話、二人してもう一人のパパのことを話してるみたいで微笑ましい
・福太郎さんは舘様とこうして話すから現代語寄りにしてくれてるのかなぁ、阿部ちゃんが2021年のABKAIで演じてた名残とも言えるのかも
・実盛は救われることを拒否し、戦いの始まり
・巴御前(中村児太郎さん)ー! 小まんさんとはまた違うタイプの強い女で、だけど小まんさんの死が悲しかったから嬉しい演出
・前の幕で退場した面々も、続々と二役目で味方を演じてくれてるのがエモい(これも歌舞伎のお約束)
・大立ち回り、客席降りがあって胸熱
・義仲と巴御前の背中合わせ、対等な強さがあって好き
・私は巴御前側が近かったのですが、あの衣装で風のように走り抜けていかれた……カッコいい……
・とにかく動いて斬りまくる!!
・孤軍奮闘した病める義賢に対し、仲間に背中を預けられる強い義仲
・瞬き厳禁、疾風怒濤
・手塚が実盛をあっさり手に掛けて誇らしげに戻ってくるの、当然なんだけど悲しかった
・あの時一緒に、馬にも乗ったのに……
・回想なのか幻想なのか、騎乗した在りし日の姿で義仲達に語りかける実盛
・義賢や実盛の最期を含めても、死の哀しみではなく生の歓びの物語
・團十郎丈の存在感がここで光る
・義仲の凱旋、大きな白旗を振る舘様が本当に凛々しく美しい
・過酷な立ち回りの後とは思えない勇ましさ
・実盛の廟を仰ぎ見ての幕引き、実盛と義仲の因縁として描ききられた物語

・カーテンコール!! ありがたい!!
・通常の歌舞伎にはありません……幕引きで終わりです……
・三方礼にお手振り、團十郎丈が舘様を促して前に出させてくれたりとすの担に優しいサービス

【まとめ】
舘様が現代語寄り(口語寄りと言うべきか)だったの、最初は驚いたし、いわゆる普通の歌舞伎の言い回しでも彼にはできたのでは……と内心思いました。
だけど、そうでなければあれほどの情感は込められなかったかもなぁと。
物語をわかりやすくする意味もあっただろうけど、不条理な部分の説得力がきっと段違いだった。義賢の死に涙し、義仲と実盛の時空を越えた繫がりに思いを馳せることで、一見堅苦しい物語をもっと身近に引き寄せることができた。
歌舞伎には言い回しにも立ち回りにも一定の「型」があり、それをどう受け継いでいくかが歌舞伎俳優の命題です。
でも舘様が歌舞伎に寄せながらも自分の演技ができたこと、その挑戦を力強く支えてくれる歌舞伎側の皆さんがいたこと、どちらも素晴らしいことだと思います。

立ち回りの「溜め」の間や音の取り方など、歌舞伎俳優が長年の経験で積み重ねているものとは違う部分もあったので、敢えて「歌舞伎役者」と言う枠組みで見るとまだまだ成長の余地があると思います。
(もっとも今回は「アイドル・宮舘涼太が歌舞伎の世界にガチで飛び込む」ことに意義があったのでしょうし、同じ尺度で比べるものでもないです)
ただここまでのものを見せられてしまうと、この人歌舞伎の言い回しで忠実に「型」を写そうとしたらどこまで本物に近付くんだ……という、新たな期待をしたくなるのも事実。
個人的には『滝沢歌舞伎ZERO』で登場した立ち回りや演出(新吉VS官兵衛半兵衛の打ち合い、新吉&以蔵の大梯子など)が出てきたことで、これまでの『滝沢歌舞伎ZERO』が割と実際の歌舞伎に近いこと、大いにリスペクトしてることがすの担に理解されたのが嬉しかったです!
トンチキだけどトンチキじゃないんだ……!!

『義賢最期』についても、私はまだ観たことが無かったですし
・義賢の衣装が本来の長袴ではない
(足元を覆うような袴のため、捌くのが超大変)
・仏倒れがアレンジ版
(上述しましたがかなり危険な技)
などの違いがあるようなので、オリジナルの歌舞伎版も観てみたいです。
また『SANEMORI』をきっかけに、歌舞伎や歌舞伎俳優に対してのとっつきにくさが少しでも減ってたなら幸いです……面白いんだよ本当、毎月違う公演観られるし人間国宝も観られるし時には意外性のある新作もやるし(以下略)
3000円〜5000円台で買える席もあるので、是非歌舞伎にも足を運んでみてくださいね😊

それにしても長い。
「SANEMORI」、本当に良かったよー!

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