SF創作講座第6期 第3回梗概感想(岸本担当分)

山本真幸「ナントカの森で鳴いている」

「ドミノ倒しのロジック」というお題に対するアンサーとしては、「嘘をテーマにした話」はズレているのではないかと思いました。
また「お母さんなんて死ねばいいんだ」という言葉は、少なくともその瞬間だけは本気で言っているのだろうから、嘘というよりはむしろ単なる暴言のような気がしました。
実作で「本当はそんなこと微塵も思ってないけど母親を傷つけるためあえて言った」というような点が強調されれば嘘として成立するかもしれませんが、そもそもこの梗概の魅力はお題に沿っているかとは違ったところにあるので、無理して作中で嘘を扱う必要性はそんなにないのではないかと思いました。
また最終盤のひねりによって親子関係を本当に絶妙なところに着地させている点にとても非凡さを感じました。


多寡知 遊「神の不在は、滅亡への道ゆきなりや」


Slackの方で書いた感想とちょっと被ります。
「円谷英二の存在なくしては今の怪獣はなかった」というのは一般論に近く、それ自体にはあまり驚きを感じられませんでした。仮に同じ結論に至るのだとしても、それを問い直すプロセスをこそ読んでみたいと思いました。
また、「怪獣という概念を持たない」ということを人類が怪獣に勝てなかった理由にするならば、まず「怪獣という概念を持っていれば、怪獣に勝てた(かもしれない)」という前提を読者と共有していた方が説得力が出ると思います。早い段階で「円谷英二が映画界に入り怪獣が日常に浸透していたからこそ人類が怪獣に勝利できた並行宇宙の地球」の例を紹介するのも一つの手段だと思います。あるいは円谷英二が早世するのが本来の歴史であり、何らかの理由で彼が生存し、怪獣が日常に浸透したことが結果的に人類の勝利に繋がるというふうにひっくり返すのもありだと思います。


コウノ アラヤ「マッハ、轟々」


実作でどれだけ魅力的な描写をできるかにかかった梗概だと思いました。とにもかくにも実作が読みたい……。
真羽の望みは「家族と同じ時を生きる」ということでしたが、よくよく考えるとすでに兄とは同じ時を過ごしているはずなので、実際には「父親と同じ時を生きる」というのとほぼ同義ではないかという気がしました(母親がいないのであれば)。であれば真羽と父親(そして間に挟まる轟)の関係性にもう少し焦点を当てた方が、ラストがより印象的になるのではないかと思いました。


継名 うつみ「ワタルくんと帰りたい」


宇宙で対決するまで、おそらくワタルくんはアミのことを認知していないというのが面白かったです。そしてそれまでのアミであれば、宇宙人たちのボスになったワタルくんに味方しそうなところで、対決する、取り戻すという思考になっているのに、彼女の微妙な変化が感じられました。ワタルくんがアミを認知すらしていない状態から、二人の距離が急速に縮まりすぎではないかという気はしました(欠点というより実作で上手く補強できればむしろさらに面白くなりそう)。


古川桃流「スイングバイ・スイングバイ・スイングバイ」


全体的にバランスが良く、完成度の高い梗概という印象です。嘘の小ささと影響の大きさのギャップ、ドミノ倒しっぽさについても問題ないと思います。正直実作楽しみにしています、としか言いようがない感じですが、「宇宙機で小惑星を押す」という二個目の嘘を悪目立ちさせない工夫は必要かもしれません。


八代七歩「貴方のためのマフ」


うさぎの挙動への解像度の高さが、約58メートルというスケールでもそのまま生かされるというのはきっと他にない強みで、怪獣ものの一つの答えといっても良いのではないでしょうか。
私はうさぎと同居しているので、うさぎ描写そのものを一種のあるあるネタとして楽しめるというのも高評価の一因になっています。
ただ、梗概だけで完結している印象はあります。


降名 加乃「ぎがぱっち!」


ヌルタグを開発したことで何が変わったのか、何が変わらなかったのかという、ビターな青春成長譚としての部分にこそ、個人的には心惹かれました。
人生をアップデートしようとした情熱も、結局就活という場面で人生の方に取り込まれてしまう絶望。そしてそれを確信犯的に利用できる小器用さが嫌ですごく良かったです。
ARを扱った作品で出てくるデバイスがタブレットというのもちょっと珍しいと思いました。ただ視界全体を書き換えられるコンタクトレンズやメガネに比べて、絵面が地味になりがちで、デカいことやってる感が出にくいのがネックかもしれないです。

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