夢幾夜 弐夜目

こんな夢を見た。

座敷は広く、1人で全て並べるなど全く馬鹿げた話なのだが、毎年そうしていたのだから、私に不満などあろうはずが無い。
赤い綺麗な着物はこの時期だけ許されたものだったから、その非日常性が余計に私のやる気を加速させていた。

かび臭い木箱から、カサカサと鳴る半紙を取り除いて一体目。
おそらく祖母が生まれるよりもずっと前からあったのだろう。
この、雛人形は。

古びた屋敷の古びた座敷に、その古びた雛人形はいっそ不気味なほどしっくりと収まった。
開け放たれた縁側は、明るくもなく暗くもなく、ただ紙のように白い作り物めいた空から、明かりを座敷に届けている。
私は次々と木箱を開け、カサカサと半紙を鳴らしながら、だだっ広い座敷に黙々と雛人形を飾り続ける。
八段飾りの雛人形が、一体いくつあるのだろうか。
その全てが種類が違ったり、同じだったり、多すぎたり、かけていたり。全く統一性が無い。
しかし全てが雛人形。これ以上ない統一性もまた、そこには存在していた。

段飾りが終わると、次は赤い縮緬の笠の吊るし雛が出てきた。
色とりどりのはぎれで出来た、風に揺れるその飾りの下に寝そべると、赤い笠から垂れる無数の人形たちがゆらゆら、ゆらゆらと、赤子をゆする母の腕のように揺れる。
何ともなしに愉快な気分になって、知れず笑みがこぼれた。

そこで私ははっ、と気付く。

いけない。まだ後もう一体。
大切な大切なお人形を忘れていた。

座敷の隅に置かれたその木箱に、私は小走りで駆け寄る。
この箱を開けるのは、いつも一番最後。
一番大きな庭石に、やっと1人で腰掛けられる様になった私の半分ほどの身丈の、日本人形。
そのさらさらとした長い黒髪にあこがれて伸ばし始めた私の髪は、いまやっと肩に届くほどまで伸びた。
お揃いの赤い着物を着て、腰まである長い黒髪のその人形を、私はそっと抱き上げた。
この時期だけ会える、私の大事なお人形。
顔の上まで掲げてみれば、嬉しさで満面の笑みを浮かべる私に、人形はそっと微笑んでくれたようだった。

#ショートストーリー #夢

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