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第11章 麻雀荘で働いていたら、うっかり逮捕されてしまった話

人間関係や労働環境のストレスが多い「職場A」
人間関係や労働環境のストレスが少ない「職場B」

・給与50万の「職場A」
・給与40万の「職場B」

勤務時間は全く同じとして、どちらの職場を選ぶだろうか? 給与面の待遇だけなら「職場A」しかし生活水準に大差がないことを考えれば「職場B」を選ぶ人もかなり多いのではないだろうか?

渋谷の新店に転職してから7年半が過ぎようとしていた。店長職でありながら休みは月に8~9日、当時は月4~5休が当たり前だったこの業界では珍しい待遇だった。スタッフも知人の紹介がほどんどで、求人広告を出すようなことは稀だった。そのせいか人間関係は概ね良好だった。嫌なお客さんも割と少なかったし、オーナーも口うるさくないタイプだった。普通仕事といえば、朝目覚めてから職場に着くまで、少しは憂鬱な気分になったりするものだ。この職場に来てからの7年半は、そういったストレスをほとんど感じることは無かった。

好きな麻雀で食っていく

そのために麻雀プロ団体の門を叩いたはずだった。麻雀荘の店員で生計を立てることは、ある意味「麻雀で食っている」ともいえるかもしれない。しかし、自分がプロ入りした頃に、思い描いていた理想のプロ像とはだいぶ違っていた。

そもそも理想のプロ像とは一体何だったのだろうか?そもそも麻雀で食うとは一体何を指していうのか?

その疑問に対する答えを考えることも放棄し、何かやりたいことを探すことすらせず、ストレスが少ない職場で働けることはとても素晴らしいことなのだと、自分にそう言い訳しながら、気が付けば麻雀荘の従業員をダラダラと10年以上も続けていた。

当時38歳。もしも「あの事件」が無かったら、もしかしたらあの時と同じあの店で、もしかしたら未だに雀荘の店長としてダラダラと過ごしていたかもしれない。「あの事件」とは今から8年前、あの東日本大震災があってから1ヶ月半後のことだった。

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平日の昼下がり、かなり珍しい時間帯に新規のセット客が入った。50代、40代、30代・・・・年齢層もバラバラな男性3人、女性1人の4人組だ。ただ全員スーツ姿だったので、その時はきっと会社の同僚なんだろうと予想した。

(それにしても、まだ就業中だろうに・・・・)

うちの店はセット客にもドリンクを無料で提供していた。しかしそのセット客は最初のドリンクだけで、飲み物を一切頼もうとしなかったものだから――

お飲み物いかがですか?

こちらから何度か聞いてみた。おそらく雀荘で麻雀をするのが慣れていないのだろう。それでも和気あいあいと麻雀を楽しんでいるようにみえた。セット客はお店が少し混みだした19:00~20:00頃に帰っていった。

それから2週間後―― 再びあのセット客がやってきた。前回は14:00頃に来店、今回は16:00頃、いづれにしても妙な時間帯だ。この時間帯はお客さんも少ないので、当店を気に入ってくれたのなら大歓迎だ。僕は普段よりもやや愛想よくおしぼりとドリンクを持っていった。

当時お店では月曜日と木曜日の週2回、競技麻雀ルールのフリー営業を通常のフリー営業と同時に開催していた。全部で6卓の店内、20:00になるころには通常のフリーが2卓、競技麻雀のフリーが2卓、そして例のセットが1卓と、そこそこ賑わいをみせてきた頃だった。

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