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『バイオ8』ベネヴィエント邸訪問記(後編)

【注意】この記事はネタバレだらけです。

 前編で1,2階を取り上げたので、後編では地下階を見ていきましょう。

 地下階はそのすべてがベビーとの追いかけっこ終了と同時に封鎖されてしまう「幻覚領域」であるため、どこまでがイーサンが見た幻覚でどこまでが現実なのか、すべてが藪の中に放り込まれてしまいます。その設計の奇妙さ故に存在自体を疑いたくなる、ひときわ謎の多い領域です。
 答えの出ない疑問だらけなのですが、ひとまず書いていきます。

限られた光源を静かに反射するひんやりとした漆喰の壁、最高~~~。

ベビーから考える幻覚の精度


 地下といえばベビーです。地下の部屋を巡る前にベビーについて考えていきましょう。

 ベビー、怖かったですね。初めて見たときは総毛立って叫んだものです。そんなベビーもベネ邸をうろつき回りまくってるうちに軽く挨拶して追いかけっこができる仲になってきました。追いかけっこ中に上げるご機嫌な声など、よく聞くと大変キュートです。
 ベビーは非常に実在感があり、接触するとイーサンはむしゃむしゃ食べられて死んでしまいます。赤ちゃんって何でも口に入れたがるね。ちなみにイーサンは「Yummy♪」だそうです。

 ベビーが実在してドナたちと共同生活している可能性もありますし、それはそれで可愛い情景だと思うのですが、彼女はハイハイした跡にべちょべちょの粘液を残していくので、掃除が大変そうです。

めっ!! 本を汚すな!!!!!!!

 「幻覚領域」にしか出現しないこのベビー、実在しているのでしょうか?
 結論から言うと、私はベビーはイーサンが作り出した幻覚であると思っています。

 イーサンがどれだけローズを大切に思っていても、子供の誕生というのは特にその親になる者にとってある種の恐ろしさを備えているものだと思います。新たな生命が誕生し、血の繋がりしかない赤の他人の肉体と自我を、世界へと送り出すのですから。この恐ろしさに対する感性は親として欠いてほしくないものです。
 ましてやイーサンは深手を負っても、なんかオキシドールみたいなのかけたら治っちゃうし、村に辿り着いて以来「ローズが特殊な存在である」と繰り返し言われ続けます。自身やミアも過酷な経験をしました。また、自宅からミアが運び去られた後にフラッシュバックした会話からも、ミアが自分に対してなにか秘密を抱えていることに対する不安が読み取れます。
 イーサンは自分の妻と子に対して不安を抱えていますが、しかしそれが彼女らへの愛を曇らせる理由にはなっていません。「妻や子供とはいえ他者とは謎を抱えた存在であり、その謎を恐れることと、謎の持ち主を深く愛することは両立しうる」ということを伝えるのがベビーなのだ、という仮説が私は気に入っています。そのような姿勢こそが、ぼやきながらも足を止めないイーサンの美点だと感じるからです。よって、ベビーはイーサンが作り出した幻覚である説に一票を投じます。クリア後に閲覧できるアートワークのキャプションにベビーが女の子であるという記述があるのも大きいです。

 無論これは多分に感傷的な支持理由です。なのでこの個人的意見はひとまず脇に置き、ベビーについて考えていきたいと思います。ベビーの正体を問うことはドナの持つ幻覚能力の精度を問うことでもあるからです。
 ドナはイーサンが体験した恐怖を、こだわりの強いホラー映画監督兼脚本家兼演出家兼役者のように、パペットマスターの称号にふさわしい精度で微に入り細に入りコントロールしていたのでしょうか?

 ドナの幻覚がドナがイメージする恐怖を反映したものなのか、幻覚の被害者の深層意識に働きかけるものなのか、という疑問の答えは後者が有力でしょう。
 「庭師の日記」の11月29日の記述からは、ドナが庭師が見る幻覚の内容を予想していなかったことが伺えます。「たいそうお喜びになった」のが、自分のイメージしたシーンを他者に完璧に反映できたことを理由にしている可能性もありますが、イーサンといい庭師といい、彼らが幻視したのは自分の伴侶という、非常に親しく個人的な思い入れのある存在です。そのような存在を完璧に模倣するのはかなり難しいでしょう。

 しかしそういった難題をクリアした存在がいます。ミランダです。2周目以降の冒頭シーンって、ミランダの擬態の上手さが際立っていてものすごく怖いですよね。

 仮説1.ミランダはミアに擬態するために彼女の言動や生活スタイルを観察しており、ドナもそのご相伴に預かった。その際にウィンターズ家の仲の良さと、彼らが抱えている不安を知った。
 △ミランダが行ったのはカメラや盗聴器を使った監視ではなく、動物や近隣住民に擬態して一家を観察する方法だと思います。ヒトが他人や鳥に姿を変えるなどということは、あまりにも突飛で予想がつかず、通信なども用いないためクリスたちに発覚するおそれが低いからです。そうなると観察行為はミランダ単独のものにならざるを得ません。
 ミランダからある程度の伝聞は受けられるでしょうが、ドナが在りし日のウィンターズ家を詳細に知ることは難しいでしょう。

 仮説2.ミランダがミアと入れ替わったあと、攫われてきたミアを観察する機会があった。
 ○これも仮説1と同じく伝聞でしかウィンターズ家について知れませんが、可能性はあると思います。四貴族は問題児だらけなので、相対的にドナとアンジーが話しやすい相手に思えたミアが、直に話をしてくれた可能性もあります。
 アンジーが「パパになってよ」と言ったのも、ミアを介してウィンターズ家の強い結びつきを知り、羨んだからかもしれません。

 いずれにせよ、ドナが知りうるのはミアの断片的な情報だけでしょう。舞台装置を整えることはできても、そこで幻視者たちが何を見るかは当人次第、というのが実情ではないでしょうか。実際、幻覚による錯乱の果てにイーサンはドナを殺してしまったわけですから。皮肉な話ですが、幻覚の能力さえなければイーサンはドナと冷静にやり取りができ、ドナは生き残ることができたかもしれません。

 しかしベビーが完全に幻覚であったかは不明瞭です。ベビーにはその外観とは異なる"骨組み"があったかもしれません。ドナや自律式の人形がイーサンを追いかけていて、イーサンがそれにベビーという恐ろしい外観を与えてしまった可能性もあります。

画像はイメージです

◇好都合な変化、不都合な変化

 ベビー出現後は家具にも変化が起きており、準備室の中央にある大机はなぎ倒されています。しかしそれはベビーになぎ倒されたわけではありません。

 ベビーの移動経路は上記のようなものですが、遭遇後に踵を返して人形工房→準備室へと駆け込むと、その時点で机は倒れていて、部屋を走り抜けやすくなっています。ベビーが通った痕跡である粘液もありません。
 古井戸で配電盤の鍵を入手し、廊下でベビーと遭遇して引き返してくる間に、ドナが倒したのでしょうか。大机ひとつ倒すくらいなら女性ひとりでも可能です。

 一方で、家具に大きな変化が起きるケースが別にあります。寝室でヒューズを手に入れた後、ベビーと再会し、彼女をやり過ごして母子像の扉を抜けたところです。書斎の隠し部屋に至る右手の道が、倒れたクローゼットと木箱で塞がれてしまいます。イーサンはエレベーターに至るルートを遠回りしなければならなくなるため、この変化は準備室の変化とは異なる「不都合な変化」と言えるでしょう。
 180cmほど高さのあるクローゼットを廊下の半ばまで引きずって倒すのは、大机を倒すのに比べてかなりの重労働です。ドナが独力で行うのは難しいでしょう。

 つまりこれらの変化は誘導のためにドナが幻覚で用意したものであり、イーサンにとって好都合だったか不都合だったかは二次的な要素である、という説が最も妥当でしょう。家具による物理的な障害を錯覚させ、進行の妨害ができるなんて、幻覚能力としては非常に強力です。
 

◇やり過ごしと消失

 ベビーは五感が特別鋭いわけでは無いようで、準備室や寝室にあるロッカーに身を隠すと、イーサンを見つけられなくなり去っていきます。また、書斎には入ってこれないようです。ベビーから逃げ延びて書斎でぼんやりしていると、大きかったバブり声が遠のいていきます。その後に廊下に出てみると、ベビーの這い跡があるばかりでベビー当人はどこにもいません。
 イーサンを探すのを諦めてすごすごと帰ったベビーと、またばったり出くわすということもなく、忽然と消失してしまうのです。この変化は母子のレリーフの扉の先でも同様で、やり過ごした後はエレベーター前に至るまでベビーとは遭遇しません。
 こうなった後の廊下は、ただひたすらに不気味なだけで危険はありません。ベビーはどこへ行ったのでしょう? ベビー出現後、物置と古井戸の扉は開かなくなるのですが、そこに潜んでいるとしても這い跡は見当たりません。
 ベビーは物理的にどこかへ去ったのでしょうか? それとも、イーサンが「ベビーが去った」と思ったから消失したのでしょうか?


不可解な地下階編

 部屋を巡っていきましょう。

◆書斎

 映写機の置かれたデスク、映像鑑賞の際に座るソファセットを中心に、古めかしい本がひしめいています。

 ミア人形の口からフィルムを取り出し、映写機の謎を解くと、スクリーンに井戸の映像が流れた後落下し、本棚が動いて隠し部屋が現れます。超かっこいい。こんなかっこいい家に住めるドナとアンジーが羨ましいです。

◇例の黄色い花

 本棚に近づくと『山岳植物のアルカロイド』という書籍タイトルにフォーカスされます。初見時、無学な私はなんじゃらほいという感じだったのですが、調べてみるとアルカロイドとは「植物に由来する、窒素を含む有機塩基類」だそうです。まだなんじゃらほいですが、例としてトリカブトに含まれる毒性物質アコニチン、ダチュラという呼称で知られるチョウセンアサガオに含まれるスコポラミンなどが挙げられると、そのイメージが掴みやすくなります。身近なところではタバコの葉に蓄積されるニコチンも、じゃがいもの芽を食べちゃだめな理由であるソラニンもアルカロイドです。傾国のドラッグである阿片も、ケシ科の実から抽出できるアヘンアルカロイドをその薬効の源とし、かのモルヒネやコデインもアヘンアルカロイドの一種。他にもコカインやキニーネといった有名どころから、なんかよくわからないカタカナの羅列まで、その種類は膨大な数にのぼります。

 つまり「ドナが操る黄色い花は、花粉に幻覚性アルカロイドを有している」という事実がこの書名によって仄めかされるわけですが、そうなるとちょっと気になってきませんか? 例えば、モルヒネは芥子の実から高度に精錬された結果、劇的な薬効を発揮します。だとしたらあの花粉、無加工の状態で強烈な幻覚をもたらしたあの花粉を、充実したラボで優れた研究者が『ブレイキングバッド』並のピュアッピュアなドラッグに仕上げたら……わくわくで涎が止まりません。静脈注射一発でめくるめく幻覚の果てに宇宙の真理に到達できちゃうかも!! あるいは即死です。でも「打つと宇宙の真理を完全に知ることができるけど、その3秒後には脳がキャパオーバーして精神崩壊して死んじゃうよ」という薬があったら、打ってみたいですね。むしろ理想の死っぽさがあります。

 ともあれ、ドナは四貴族中でもかなり新参ですし、植物の研究は薬剤生成のような高度な段階には至っていなかったようですが、あと10年時間があったら、とか、ミランダが本気を出していたら、などと妄想が膨らみます。もしかしたらミランダは既にガンガン薬を作って秘密裏に売り捌き、軍資金にしていたのかもしれませんが。


◆人形工房

 マネキンのパーツがぶら下がっている人形工房は、一見いかにも恐ろしげですが、冷静になってみると天井に吊り下げ用の格子が埋め込まれた作りが実に機能的で、感心してしまいます。ただ、塗料を使う部屋なのに風通しが悪そうなのが心配です。

 この薪で温めるアイロン用ミニ暖炉、良いですね。ミシン台兼アイロン台と思われるテーブルにかかっているクロスも可愛いです。ちなみにこの布は固有テクスチャではなく、村の家でもちょくちょく見かけます。ミシンもアンティークで素敵ですが、足踏み式ではありません。右側のハンドルを回して縫製をするもので、移動は容易ですが大作を作るのは難しそうです。ドナが作るのは人形の服が殆どで、細かな融通が利く手縫いで大抵の作業が事足りるのでしょうか。

 気になるポイントは井戸に通じる仕掛け扉へと続く隘路の壁に、血のようなものがこびりついた青緑の布がかかっている点です。傍にある赤い革製と思われるものは作業用のエプロンに見えます。こちらには血のような汚れはありません。ドナは初期段階では外科医の設定だった、とアートワークのキャプションにありましたが、青緑の布は術衣のようで、その初期設定を想起させます。

仮説1.血っぽいだけで血ではない塗料
仮説2.マジな殺しの痕跡
仮説3.ベビーの演出用粘液

◇ミア人形は励まし?

 ミア人形は不気味です。それは確かですが、私はこの人形にある種の優しさが潜んでいるような気がしてなりません。
 洋画などで、カップルのどちらかが「思い出めぐり」を持ちかけるシーンを見たことがあります。朝起きると「初デートの場所に行ってみて」というメッセージカードがあり、そこへ行くとふたりの思い出に関するまた別の行き先が浮上する、というやつ。ちょっとした謎掛けやサプライズを散りばめながら、ふたりの愛の歴史を辿っちゃおう、という企画です。面倒くさいですね。

 例としてとってもわかりやすいので上掲の『おかしなガムボール』をご覧ください。主人公のガムボール(青い猫の男の子)が、同級生でガールフレンドのペニー(角の生えたつやつやオレンジの女の子)に向けて「思い出めぐり」を企画します。『おかしなガムボール』はいいぞ。

 私はミア人形の謎を解いている時に、この「思い出めぐり」の手順を連想していました。結婚指輪や、オルゴールや、思い出フィルムを辿って謎を解くと、ワオ、愛しい赤ちゃんに会えちゃうよ! というわけです。問題はその手順がいちいち不気味なことですが、ドナの美的感覚が世間一般のものとズレている可能性は高いです。

 人は世界から美しさを直観的に受け取ることができる一方で、他者との交流を通して、周囲の人間が何を美しいと見做し、何を恐ろしいと見做しているかを社会的に学習します。それは美的感覚を養うことにも繋がりますが、同時に大衆性を求めるあまり感性を均質化し、自身が美しいと直観的に思う事柄を貫く鋭さが減じることにもなりかねません。
 ドナは孤立した身の上故に、自分が美しいと思うものを追い求め先鋭化させた結果、その美しさが恐ろしさを秘めたものであること、一般的価値観から見れば恐ろしさの比重が勝ったものであることを客観視できなくなってしまったのかな、などと考えました。
 また、幼少期のドナのためにアンジーを制作して与えた、ドナの父親の感性も気になります。あのかわいさと不気味さが共存する絶妙な姿を娘のために作るなんて、なんとも素敵にイレギュラーです。ベネヴィエント家は家族ぐるみで、不気味さや恐ろしさにかわいさや美しさを見出していたのかもしれません。私は勝手にデビッド・リンチ、ジェニファー・リンチ父娘(父娘で仲良くカルト映画を撮った)を連想してしまいます。

 ミア人形の胸にある血の滲んだ包帯も、見方を変えればイーサンを安心させるためのものとも捉えられます。イーサンにとってはあの夜の恐ろしい情景を想起させ、妻の死をダメ押しされるような苦痛をもたらすオブジェクトですが、胸に巻かれた包帯は治療痕にも見えますし「ミアは無事である」というメッセージだったのかもしれません。

 ドナが望んでいたのはイーサンの恐怖や死ではなく、イーサンを生きたまま囚えることのように思えます。過去の幻を糧とし、限られた空間で永遠のおままごとを続ける……そんな自分たちの生活にイーサンを引き込みたかったのに空回りしてしまった、というのが真相だとしたら非常に悲劇的です。その思惑は独りよがりですが、彼女を責める気にもなれません。

 古井戸から戻ると、作業台の上からミア人形が消えており、血液の混じった粘液とともに太いへその緒が扉の向こうにのびています。ハッピーバースデー。ミア人形はどこへ行ったのでしょう。多くの細工が施されたキーオブジェクトで、触ったり動かしたりできるだけに実在感があるのですが、消えてしまいます。


◆準備室

 ミア人形の右肩に入っていた「銀の鍵」でアクセスできる準備室には、薬品や染料と思われる瓶、顕微鏡や書籍が並んでいます。研究室のような内装で、ベネヴィエント邸の初期設定である診療所の面影を感じさせる部屋です。
 
 ドナはミランダに「精神的に未発達」であると見做されていましたが、ここで特異菌で操れる植物の研究ができていたことを考えると、知的には一定以上の水準に達していたと思われます。聡明だが(あるいは聡明であるがゆえに)傷つきやすい子供、という内面を有していたのでしょうか。

 シンク脇には真っ赤なバイオハザードゴミ袋があります。アルカロイドには皮膚に触れたり吸気しただけで害をもたらすものもあるので、こういった対処は妥当ですが、気になる点もあります。特異菌に感染した植物を操作する際、その薬効はドナ自身にも作用するのでしょうか。

仮説1.ドナは条件を満たしてもアルカロイドの影響を受けない(受けたくても受けれない)が、条件を満たした人間は無差別にその影響を受ける。
仮説2.ドナは条件を満たしてもアルカロイドの影響を受けない(受けたくても受けれない)が、条件を満たした人間の中から、誰に幻覚を見せるか選べる。
仮説3.ドナも条件を満たせばアルカロイドの影響を受けるが、条件を満たした人間の中から、誰に幻覚を見せるか選べる。

 仮説の2か3だとすると、味方には幻覚を見せずに敵だけ惑乱させることができるので、他貴族と共闘したら無敵になりそうです。サポート型魔道士ですね。


◆物置

 条件を満たした上で廊下を歩いてゆくと、以前は入れなかった物置に入れるようになります。この際迎え入れるようにドアがキィ……と自動で開くのですが、これってドナちゃんが開けてくれるのかもしれませんね。なんて優しいんだ。

 前編で言及した青い小花柄の布が入った「家庭的なダンボール」が随所にあります。1階の物置でもそうでしたが、物置スペースは床がコンクリ敷きになっていて、建築当初から部屋の使い途を気まぐれに変えたりしていないことが伺えます。各部屋の役割が明確で、定物定位が習慣化している良い家です。

 物置には動画フィルムが入っていると思われる円形の缶があるのですが、貼られているラベルからは意味が読み取れません。

「kujkryksdhgfruyhrkitluylfgr」や「bJNzrkmfl,ldtuytidyhjsrt」などと書いてあります。

 ハイゼン工場にもフィルム缶はあるのですが、ラベルに書かれている文字が同様なので、おそらくランダムな文字列です。でももし解読できた方がいましたら情報ください!
 かわいいピンクのバッグも置いてあります。何もかもが古めかしいこの村においてだいぶ現代的なデザインです。固有オブジェクトかな? と思いましたが、村の道を塞いでいる横転した馬車からこぼれ落ちているものを見つけました。
 靴も何足か転がっています。男物に見えるので、父親のものでしょうか。

 この物置には、身を隠せるロッカーがふたつあるのですが、ベビー出現後は物置部屋への扉がそもそも開かなくなり、隠れ場所としての役割を一切なしません。ベビーに追われている時に、入れるはずだと思っていた部屋に入れないと臓器に鳥肌が立つような恐怖に襲われます。人が悪すぎる設計です。


◆隠し部屋

 書斎から通じている隠し部屋には大量の人形が並んでおり、そのうちの一体がハサミを持っています。この隠し部屋、良いですよね。落ち込んだときとかに毛布と枕を持ち込んで縮こまって寝たいです。
 このハサミは、ドナ戦の決着をつける武器になるのですが、ドナの死によって幻覚が解除された瞬間消えてしまいます。幻覚と思われるこのハサミには、髪の毛がついています。髪色は見たところグレーのようです。ドナやアンジーの髪色とも、イーサンやミアやローズの髪色とも異なります。また、ベネ邸にいる人形たちはみんな暗褐色の髪なうえ、グラフィックを見た限り、毛を用いず木彫か陶器か金属かで成形されたものに見えます。

仮説1.人形の髪が成形済みのものに見えるのは、オブジェクトのメッシュ処理の都合で、本当は毛。グレーっぽく見えるのは光の加減。人形を見たことにより、イーサンの内心でイメージが形成された。
仮説2.殺した人間、あるいは既に死んだ人間から人形に使う頭髪を採取したとイーサンが想像した。


◆電話

黄色い点の位置が電話

 この電話も良いですよね。明らかに取る気がない位置にあるのが最高です。ゲーム内では書斎から隠し部屋を通ってたどり着く場所ですが、普通に生活していれば廊下のどん詰まりです。人形工房ともやや離れているので着信音で作業を煩わされることも無いでしょうし、1階のリビングなどでくつろいでいたら、もう為すすべがありません。「ベネ邸には電話をかけても無駄」ということが村で周知されてそうで胸キュンです。
 加えて、前編の玄関ホール項目で言及した通り、ベネ邸の時計は数が少ない上に正確ではないため、ドナとアンジーを家族会議に招集するのにはミランダも他貴族たちも苦労してそうです。

 しかしいくらなんでも廊下の作り全体が遠回りで、アクセスが悪すぎます。厨房や寝室に行くことを考えると、水色の矢印で示した部分の壁をぶち抜きたくなります。ここにある壁が幻覚という可能性もあります。


◆古井戸

 ベネヴィエント邸は探索すればするほど奇妙な家ですが、ひときわ異彩を放っているのが古井戸です。地下階の人形工房から仕掛け扉を開け、さらに下へと石段を降ると円形の部屋の中央に井戸があるのです。井戸!? 滝がそばにある物件に井戸!? 日本の古民家では、煮炊きをする土間に井戸があるケースもあるようですが、ベネ邸にはきちんと水道が通ったシンクがありますし、これがイーサンが見た幻覚でないとしたら相当奇妙です。

 壁などの質感は非常に古く、ドミト城の地下牢や森の砦と同時代のもののように見えます。扉を境にして、人形工房の壁とは微妙に質感が異なるテクスチャが用いられているのがわかります。古井戸へ至る扉の手前には火の点いていない松明がかかっており、ここだけ時間が中世に巻き戻ったかのようです。井戸の底に降りるための、メッキのかかった埋め込み型の梯子ばかりがやや現代的です。
 階段を降りる前にも下りた先にも、壁に革製のハーネスのようなものがかかっているのですが、何のために使うものかわかりません。情報求む!

仮説1.何か曰くのある井戸で、この井戸があるからこの土地に家を建てた。あるいはこの井戸が属していた施設の跡地に家を建て直した。
 ◎これはあり得ると思います。クラウディアの墓所には村の四始祖のひとりであるベレンガリオの金杯があり、ドナがその末裔である可能性があります。ちなみに「ベネヴィエント」はイタリア風の姓ですが、「ベレンガリオ」もイタリアの男性名です。遠い昔にベレンガリオがこの土地に何かしらの施設を築いており、その跡地に現代的な家を建てたのかもしれません。

仮説2.死体などを捨てられる場所が必要だった。
 △ちょっと外に出れば滝壺に放り込み放題なのに井戸を使う?

仮説3.家の施工をしていたら井戸が出てきたので、面白がって生活空間と繋げた。
 ○意外にアリかな、と思います。井戸自体は偶然見つけるには深すぎますが、井戸へ至る通路が出てきたとすれば、めちゃくちゃテンションが上がって自分の家と繋げたくなっちゃうかも。


◆母子像の扉

 いかにもバイオっぽい謎仕掛け! この扉の先は厨房と寝室になっており、家庭を象徴するモチーフとしてレリーフを設えたのかもしれません。

 配電盤から幼子のレリーフを手に入れて扉に辿り着くと、扉のすぐ傍、燭台の置かれたタンスの隣にアンジーがいます。ポテッと置かれている感じで、いつものアグレッシブな躍動感はありません。
 電話を取った時には灯っていた蝋燭の火が消えています。1階リビングルームの黄色い花の描かれた紙もそうでしたが、ベネ邸では重要オブジェクトの近くにろうそくの燭台を置くようです。電灯よりも、炎がちらつくほうが視線を惹き付けるからでしょう。アンジーはここで何をしているのでしょうか?

仮説1.イーサンの監視
仮説2.手を伸ばしてきたら攻撃してやろうと思っている

◇ローズ奪還のメタファー?

 ミア人形の謎解きを追っていくと、このゲーム全体の暗喩になっている気がするのでしょうが、考えすぎでしょうか。
 血まみれの指輪を洗う:吸血鬼ドミトレスク
 オルゴールを直し、フィルムを並べ替える:過去の記憶を辿るベネ邸
 古井戸の底へ降りる:モローの湖
 配電盤:磁力を操作し電流で兵士を作ったハイゼンベルク
 母子のレリーフ:ミアとローズの再会
といったイメージです。うーん、こじつけくさいですかね……。


◆厨房

 厨房はシナリオ上ただ通り過ぎるだけの場所になってしまいがちなのですが、ここもなかなか素敵な場所です。とっても立派なオーブン付きコンロが鎮座しています。光量が足りているとは言い難いですが、ひんやりとした白タイルを照らすシンク前の蛍光灯が非常に現代的です。中央に長テーブルが置いてあるのも便利ですね。白いお鍋にはシチューが入っています。
 しかし冷蔵庫がありません。村の一部の一般住宅にも置いてある家電(引込線も見当たらないのに)なのにも関わらず、電力供給がきちんとされているベネ邸に冷蔵庫がないのは奇妙です。

 何より、建物全体を見渡してみるとこの厨房は非常に不便な場所に位置しています。ダイニングを兼ねているリビングルームは1階にあるため、長い廊下やエレベーターを使って食事を運ばなければなりません。食事用の小型昇降機なども設置されていませんし、動線設計としては致命的です。個人的には、日常的に使う部屋であるだけに古井戸の存在よりも不可解に感じます。

仮説1.本格的な料理は厨房内の長テーブルで食べている。ダイニングはおやつのような軽食のみ。
 ×椅子が無い。

 また、外観を見ると煙突があるのですが、その位置は厨房に重なっていません。レンジフードがあるので、ダクトを通って煙突へ流れているのかもしれません。

 カウンターにはやたら存在感のあるペットボトルがあります。書かれているアルファベット「Brasik Gibcos」をググってみたところ、これがルーマニアのビール「Brasov Ciucas」のパロディであるという言及を見つけました。集合知万歳!! 世界の叡智にありがとう。画像を見てみると1Lボトルの形や佇まいが似ていて納得です。ゲーム内の「Brasik Gibcos」には厳ついトラが描かれていますが、パロディ元である「Brasov Ciucas」では鹿が描かれています。

 ちょっと気になるのは大きめのペットボトルに入っているせいで大五郎感があるところでしょうか。ルーマニアにおいて「Brasov Ciucas」のブランドイメージがヱビスビールのようにリッチなものであるか、チープで大衆的なものなのかまでは調べてもわかりませんでしたが、生活空間をきれいに整えている内気なドナちゃんがこれをゴップゴップ飲んでるとしたら……ちょっとかわいすぎませんか?? どうしよう、もっと好きになっちゃう。

イーサン宅にて
ハイゼンベルク工場にて

 他の場所でもこのビールを見つけられます。イーサン宅にもありますし(しかもキッチンと食料庫合わせて3本)、村に来て最初に入る荒れた家、銃をくれた後ライカンに食べられてしまったおじいちゃんの家でも見つけました。さらにはハイゼンベルクの工場の、膨大な写真が貼られ相関図が作られていた部屋の、作業用と思しき小さな机の上にも鎮座しています。デスクライトに照らされて、工具やラジオが置いてあるこの机を見ていると、ラジオを聞きながらでかいペットボトルに入ったビールを雑に飲みつつ、機械いじりをしているハイゼンベルクの姿が目に浮かぶようです。彼の人柄によく似合います。

仮説1.料理酒として使っている。
仮説2.ゴップゴップ飲んでる。
 ◎かわいい。
仮説3.ハイゼンベルクからの差し入れを持て余してる。
 ○家柄の良い対人恐怖症の女性への差し入れとして絶望的にセンスが無くて面白い。

モローのテレビルームにて

 ちなみにモローのテレビルームには「Dulvey Beer」があります。ダルウェイといえばルイジアナにあるという架空の地域で、バイオ7の舞台ベイカー邸がある土地です。この「Dulvey Beer」は村でもちらほら見かけます。思い出深いワニがあしらわれた素敵なラベルで、大きなペットボトルに入った「Brasik Gibcos」に比べれば瀟洒な印象です。悪食そうに見えて嗜好品にはこだわりがあるのかもしれません。流石にイーサン宅では曰くだらけの地名が入った「Dulvey Beer」は置いていないようでした。


◆寝室

 掛け布団カバー、かわいいいいいぃぃぃ~~~!!! 艶もあるし新しめの布のようです。ここに固有のテクスチャのようで、他の場所では見つけられていません。枕もかわいい。ここでドナお嬢様とアンジーが寝てるかと思うと、聖域の称号に値するオブジェクトと言えるでしょう。

 壁には伝統衣装のようなドレスがかかっています。東・北欧の伝統衣装の特徴が入り混じっているようです。ドナの母親のものでしょうか? ドナ本人のものでしょうか? ドナが着たらきっと素敵でしょうね。
 ベッドの向かいに位置する大きなクローゼットを開けたくてたまらないのですが、イーサンは品が良すぎて女性の私室を荒らしません。あんたにはがっかりだよ。

 ともあれこの寝室も位置が少し謎めいています。朝日が差し込まない場所を寝室にするのってちょっとイレギュラーな気がします。しかし厨房の位置ほど奇妙ではないかな……。

仮説1.滝の音を遮断できる位置に作った。
仮説2.設計をした時の家主が夜型で、眠りを日光に妨げられないように地下に作った。

 ベビー回避用のベッド下には、人形の首がリボンや靴と一緒に転がっています。布団の中で制作しようとして寝落ちして、起きたら忘れちゃったとかだったらかわいいですね。
 ベネ邸で見かける人形の靴は、単体で転がっているものだと白、ピンク、赤といった明るい色のものばかりなのですが、人形が履いている靴はどれも白いリボンがあしらわれた黒い靴です。


結. 美しいもの、恐ろしいもの、かつて美しかったもの、今なお美しいもの


 前ナンバリングタイトル「バイオハザード7」のティザームービーを見た時、私は初めてムカデの美しさに気付きました。

 2分24秒時点にほんの一瞬だけ映るムカデの動きに心奪われたことを、今も覚えています。膨大な数の足が、単純な神経系に司られて行動する生物特有の完璧な能率で動いているのを見た時、私は映像技術の向上によって美しさと恐ろしさが渾然となった表現に圧倒されました。この時代に生まれて幸運だったと思いました。
 恐ろしいものというのは何かしら美しいのです。ほんの僅かなディティールに恐怖と好奇心が掻き立てられ、目に映る以上のものが想起され、心を波立たせて押し流す、私はそういった恐怖の奥行きに飲まれていくような感覚に魅了され、ベネヴィエント邸に夢中になったのだと思います。

 そしてやはり、私個人はこの建築物から、歪な表れ方ではあるものの伏流のように流れる愛情を感じます。それはドナが生まれる前から続いている生活の痕跡であり、ドナが人形に対して注いでいた技術の痕跡です。

 何もかもずたずたにされてしまった、と、初見時にドナを倒した時感じました。その時はベビーから必死で逃げ延びて、しゃにむに"かくれんぼ"をした直後だったので、明確に言葉にして意識したわけではないでしょうが、以降モローを倒し、ハイゼンベルクを倒すと、この感覚が強まっていきました。何もかもずたずたにされてしまった。ストーリーをクリアした後も何度もベネヴィエント邸を訪ねました。そしてやはりここは素敵な家だと、歩いて歩いて確かめました。でも、何もかもずたずたにされてしまったのです。

 度重なる悲劇に見舞われ、おぞましい呪いに囚われながら、かつて存在した美しいものの面影が確かにある――その悲しみや痛ましさが、ベネヴィエント邸の魅力だと思います。今際の際にほんの一瞬だけ見えるドナの素顔の印象にも通じる、悲痛な美しさです。
 私はベネヴィエント邸が大好きです。すべてを引き裂かれ、主を喪い、生命のない人形を数多抱えたこの家は荒廃していくでしょう。しかし喪われ、荒廃していくということは、喪われ荒廃することのできる何かがそこに存在した証なのです。無を引き裂くことはできないのですから。


 この素晴らしい建築物を造ってくださったCAPCOMさんに深く感謝します。
 また、この長ったらしい文を読んでくださったあなたにも多大な感謝を。

 HOUSE BENEVIENTO FOREVER.

(終わり)

たすかります!