暫定:愛

1.       障子を重ねるような旅京都から札幌までの無言の経路


2.       Wi-Fiが使えるらしい うつむいてにせものの空の青さをにらむ


3.       席を立つとき強くひと揺れ襲う(死にはしないさ)反射の暗示


4.       しんしん新千歳こんこん今晩も足元にはお気を付けください


5.       未来から来た者を見に来たけれど白いねどれも彼も彼女も


6.       演武場だったと知ってから見れば参考になる時計塔過ぐ


7.       紺の床には立湧が織り込まれここは二十二階の五号室


8.       外套や荷物にあった水滴を二回気にする夜じゃなかった


9.       (小降りだが今日は早めに戻れ)って心半分心配性だ


10.    プレハブの屋台と道と雪像の白の違いが顕著な通り


11.    バッテリー消費が速い 二人分の命を生きようとするみたいに


12.    ぐつぐつと雪踏みしめてて歩いても雪ってけっこう音を吸うから


13.    降っていないといえば降っていないような空を見上げて鼻にひとひら


14.    フルカラー胸像鶴丸国永は微笑んでいてとてもおおきい


15.    半分の心めちゃめちゃウケていてもう半分の引きつり笑い


16.    雪まつりポストカード集を買った 七割使わない使えない


17.    LED電飾じゃ融けないというのに心臓がそろそろ凍る


18.    音だけに遺るすすきの 薄野が彼方ではないことを想った


19.    (君、酒に強くないならその辺でやめとけよ)他律めかして


20.    こちら側からあちら側見たいならなめらかに歪む氷壁越しに


21.    氷像の群れを灯りが揺らしている晴天の夜の嬉しいこと


22.    ホウボウが鮮やかだった死にながら氷の中でも鮮やかだった


23.    端正で透明な鳳凰の像、鶴丸国永似だと思った


24.    ローソンの光に雪がほの青い朝には解ける浄めの魔法


25.    心の半分に付喪神寄せてもシングルルームにベッドは一つ


26.    「石鹸に生まれていたらどうだった?」「素手で毎回泡立てたいよ」


27.    被写体はそれ以上何も語らない 写真があってそれだけだ それだけだ


28.    見たことがないけれど在るところから君を愛だと暫定できる


29.    二十二階の窓の外のほんものの空の濃紺流れこみ来る


30.    一日を積もる話は片割れの心喚び出し語りおちたい