見出し画像

薬味のような佇まいで粛々と

 2021年1月、あと2週間で2月というタイミングで、2月から同市内の勤務先ではあるが、移動してほしいと突如言い渡された。
 全く予想もつかなかった展開に「え!」とはなったが、とりあえずその場では快諾した。とはいえ、ギリギリまでひっくり返らないかと期待していたのだが、もうすでに新しい勤務先での生活は2ヶ月が経過している。
 通勤も歩きで30分、自転車で12分の3キロから、軽トラで25分の15キロに変わった。
 自家用車生活をやめて約8年が経つ。今後も所有するつもりはないので、通勤用の車には社用車(軽トラ)があてがわれた。
  職場の環境も、前の職場ではツーマンでの作業が基本だったのが、今の職場は基本一人での作業になり、準備などの手間も考慮して、家を出る時間も25分早まった。
 久しぶりの車通勤や職場環境の変化からくる肉体疲労も重なってか、だんだんと家での時間の過ごし方が、休息メインになっていった。

 休息がメインになると、なるたけ睡眠時間を確保したいので、食生活も簡単に済ませたくなる。
 朝食は食べる方ではあったが、ギリギリまで寝たくなり、朝食を抜くことが多くなり、そのせいか昼食はお弁当プラスミニカップラーメンを買うようになり、昼飯代が増えていき、夕飯を作るのも面倒になり、コンビニやスーパーのお惣菜やご飯類で済ませる傾向が強くなる。当然夕飯代も増えていくというような循環になってしまった。

 そんな食生活も2ヶ月が経過すると、徐々にではあるが新しいスタイルが構築されていった。こんな状況でもそれなりに食生活を豊かにしたいと思うようになり、気付けば昼食の弁当屋さん、夕飯ではスーパーのお惣菜を開拓しだしていたのだ。

 仕事の都合上、昼飯は基本的に弁当を買ってきて、事務所で食べるスタイル。
 この職場環境では昼飯の相談は最重要案件であり、日々ルーティン作業をこなす業務担当者で、弁当持参組以外の人にとっては悩ましい問題だ。前任者から仕事を引き継ぐ間も、まずは昼飯の相談が毎日の最重要課題であり、一緒に悩むことで昼弁のクォリティーを上げるとともに、結果的に職場での対人関係も安定した。
 まずは新しい環境に移ったので、最初は前任者から近場の弁当スポットを教えてもらう。移動距離は大体職場から5キロ圏内が基本だ。そうでなければ、買い出しだけで20分以上時間がかかってしまう。あまり時間がかかってしまうと昼休みが短くなってしまうので、そのくらいが目安になる。とはいえまだまだラインナップが少なかったので、職場の人間が気になってるがまだ頼んだことがないという弁当屋を自分が突撃したり、自分でも他にないかと新規獲得をはかった。
 そうやって弁当持参組以外の人たちを巻き込み、本日の昼弁をどこにするかが日々の業務の一環として認知され、自分が本日はここに行きますと弁当屋を提案し、そこのメニューを選ぶ行為がイベント化した。

 食の楽しみを共有するということは、一番簡単で大事なコミュニケーションの基本になりうる。また昼弁のラインナップを提供する行為は、考えるのがめんどくさいと思ってる人たちの考えるを絞ってあげる行為でもある。どこにするかを絞ることで、メニューから選ぶ行為だけになる。
 最適な距離をはかり、最適な時間を提供する行為であると言ってもいいかもしれない。

 そして弁当を仕入れ事務所に戻る道中、車中のむせ返るような揚げ物の匂いで、食欲を刺激されながらトップスピードで軽トラをころがすのが日々の業務になっていったのである。

 夜も疲労のせいで、コンビニやスーパーのお惣菜生活を続けていると、そのラインナップの豊富さにも気付くようになる。特にお惣菜はスーパーによって入っている店舗も違うので、お惣菜によってはだんだんこちらの店舗の方がいいかもとなってくる。いろいろ試すようになり、自分の舌に合うものへの出会いを求めるようになる。
 車通勤のおかげで自宅から半径5キロ圏内のスーパーなら、帰宅がてら寄りやすくなり、毎日決まったお店ですませるルーティン作業のラインナップが増えたのである。

 そんなラインナップの中に、あるお惣菜屋さんの「のっけごはん」にハマった。のり弁ぐらいのご飯の上に、切り干し大根、きんぴらごぼう、厚揚げ、卵焼き、塩サバがのっている。なんとも平凡の味なのだが、そのバランスがクセになり何度も購入している。
 しかし、それを買ったきっかけは見た目のシンプルさと3割引のシールという、疲労からもたらされた時短のチョイスだ。

 疲労感のおかげでたまにしか自炊しなくなったののだが、そのリバウンドとそのような刺激もあってか、逆に料理するときは少し凝るようになった。
 この「のっけごはん」の肝は、厚揚げやキンピラなどの出汁の効いた旨味だ。自分はこの旨味の余韻が程よい感じが好みなのだ。
 自分は汁物を作る時、まずはカット昆布を24時間水につけた後、中火にかけ沸騰直前に昆布を上げる。そこに出汁の素(顆粒)、酒、みりん、薄口醤油を投入し塩で味を整え、汁の素が完成する。上げた昆布は千切りにしてポン酢でいただく。大根の皮やキャベツを一緒に千切りにするのもオススメだ。
 出来上がった汁の素はこのまま具材を投入して食べても美味いが、これをベースに味噌を入れれば味噌汁も格段に旨味が増す。
 さらにこの時期に使う具材なら、今が旬の熊本のアサリだ。何より魚介は汁物に入れると、格段に旨味の余韻が増す。

 旬の素材を使ったのはたまたまではあるが、この時期旬の素材でもう一品スマッシュヒッツしたのが「菜の花」だ。
 1分ほど塩茹でし冷水にさらし、冷えたら水気を絞り食べやすくカットするだけだ。そのままいただいてもほのかな苦味があってフレッシュ感抜群だが、やはりオススメは酢味噌だ。味、歯応えはもちろんだが、鮮やかな菜の花の緑と、酢味噌の辛子色がまた食欲を刺激するのである。

 彩りもまた旨味の素だ。というのも今年は「味一のネギ」がマッチョで旨そうな上に安い。小ネギは今まで刻むのが面倒でほとんど使用しなかったのだが、やはり小ネギは彩り、薬味として万能だ。味の邪魔になることも少ない上に、その彩りは食欲を刺激する旨味だ。最近では逆にないと残念感を抱くようになり、今では常に刻んでタッパーに常備するようになった。

再構成

 最初は疲労からご飯の時間を削ることで休息にあてていたのが、だんだんとその短縮行為から逆に刺激をもらい、新しくライフスタイルの構築が始まった。現在もそれなりの疲労感はまだ拭えないではいるが、気付いたらそんな中でも、どうその時間を充実させるかを考えるようになっている。その時間にどう楽しみを見出すかで再構成しているのだ。
 何かを選ぶという行為も、よりシンプルに絞って提供することで、楽しみのクオリティーを上げることができるように。

 そんな生活サイクルが再構成されてきたなというタイミングで、またもや新たな問題が発生した。重なる時には重なるといいますが、もはやなるようにしかならないでしょう。
 でもどう充実させるかのヒントは、この2ヶ月間の中にもあったので、また時間をかけて粛々と再構成するしかないでしょう。何しろまだ再構成は始まったばかりなのだ。

 ちなみに自分のラインナップの中に焼酎(メイン)というジャンルが、同時に復活したこともここに記しておこう。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?