INさんへ。しばらく間があいてしまって、練習に行きづらくなったら。

私は今日までかれこれ20年近く空手を習い続けている。自分の人生の中でひとつのことにこれだけ年月を費やしていることは、正直なところ他にはないように思う。

こう言ってしまうと、本当に好きなんですね、かなり熱心に取り組んでこられたんですね、と思わるかもしれないが、そんなことはない。

なんとなく気が進まなくて、半年以上も道場に顔を出さなかったことはこの20年の間に何度もある。1ヵ月や3か月の間、まったく練習しなかったことは数えきれないほどある。

そうなると20年間も続けているとはいえ、その密度はとても薄く、まじめに練習に取り組んでいる人の数年分しか練習をしていないかもしれない。

真面目に取り組んでいる時期もあれば、まったく練習しない時期もありながら、いつの間にか20年が経った。飽き性の自分が時期により濃淡はありつつも、こんなに長くひとつのことを今でも辞めずに続けていることは不思議でたまらない。

この20年の間、家の引越や道場側の諸事情によりいくつかの道場を渡り歩いてきた。道場ごとに様々な特色があって、というよりもそこの道場主によって練習内容にも特徴があったので、ひとつの道場で習うよりも飽きずに続けてこられたのかもしれない。

空手の道場では、子どもたちはもちろん、私のように社会人になってから空手を始める人もたくさんいる。しかし、中には数年で辞めてしまう人たちも多い。

最初の道場では、自分よりも数年前に初めて中上級の帯を締めた人たちが多くいたが、その数年後には、そのほとんどが道場に姿を見せなくなり、そのまま見かけなくなってしまった人たちが多くいた。この20年間にたくさんのそういった人たちを見てきた。

もちろん、それぞれの事情があることだろうから、いたしかたないのだろうけれども、つい先日まで一緒に練習をしていたのにいつの間にか姿を見ることがなくなるのはやはり寂しい。

今、通っている道場でもつい最近、そんな思いを感じることがあった。ずいぶんと久しぶりに道場に出てきたINさんだ。
「お久しぶりです。仕事が忙しかったのですか?」と声をかけられた後、
「いえ、なんとなく来づらくて・・・」という答えが返ってきた。
気のせいかもしれないが、ちょっと顔色がさえなくて、少し痩せたようにも見えた。以前は熱心に必ず練習にでてきていたのに、この会話からしばらく経ったが、また姿をみなくなってしまった。

INさんと自分とは状況は違っていると思うが、先ほどもお伝えしたとおり、私は3カ月や半年以上も特に確固たる理由があるわけでもなく、なんとく道場に通わなくなってしまったことが幾度もある。それだけ時間があいてしまうと、道場に行きづらい気持ちになってしまい、また休んでしまい、さらに長く休んでしまうといった悪循環にはまっていた。

そんな時は決まってこんなことを考えていたように思う。

「しばらく体を動かしていないので、練習についていけるかどうか。少しジョギングなどで体力をつけてから練習に行くようにしよう。」

「自分が休んでいた間に、まじめに練習している人たちは上達していて、自分はサボっていた分、その人たちの動きについていけないかも。」

「久しぶりすぎて、どんな顔をして行けばいいのだろうか。」

など、勝手な言い訳や妄想をしていたように思う。

しかし、そんな時こそ、とにかく1回・2回と道場に顔をだしていけば、そんな妄想はふっとんでしまい、気がついたら以前のように普通に道場に通っている、そんなことを繰り返してきたように思う。

よく考えてみれば、そんな妄想は自分が勝手に思い込んでいるだけで、道場の先生や他の生徒たちは逆に練習に顔を出してもらった方がいいにきまっている。四の五の言わず考えず、とにかく道場に行く、ただそれだけでいい。一度、道場に行って練習をすれば気持ちは晴れる。あとはなんとかなる。

あれからINさんに会えないままなのだが、
できれば、今のINさんにこのことを伝えたい。

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