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海の近く田を営む邑

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弥生時代の人たちはどんな風に暮らし、何を思っていたのだろうと想像しながらの呟き。
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#弥生時代

古代の春 三

「住処を建てるそうだ」
焼いた魚をむしりながらととさまが言い、かかさまが「誰の住処だね?近く娶りする齢のものも居ないだろうに」と聞き返した。
ととさまは粟の入った粥を飲み干して「先だって兄邑の長と連れ立って来た男よ。ここの田仕事を珍しがって、やってみたいそうだ。今は長の住処で寝起きしているからな。新しく住処を作るのよ」と答えた。
ハヤタリは匙で粥を掻き回しながら目を丸くして住処の中を見回した。

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古代の春 二

古代の春 二

雨の翌朝吹く大風が、ごうと音を立てて広げてあった粗朶を巻き上げて辺りに散らかしてしまった。
ハヤタリは慌てて走り回って拾い集めようとしたが、再び吹いた大風に、枯葉を付けた小枝は伸ばした指先から掠め取られて、くるくると回りながら遠ざかって行った。
鶏たちは突然の風に羽根を羽ばたかせ、不平そうに喉声を上げた。
その様子が可笑しくてハヤタリが笑い出すと見ていたあねさまも笑い出した。
堤の向こうから大きな

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古代の春 一

夢の向こうから鶏の長鳴きが聞こえてくる。
眉をしかめ麻衾を引き上げる。
ゆっくりと現に戻ってくる手足と鼻の頭が感じているのが、前の朝のような寒さではない事にハヤタリは気が付いた。
耳を澄ますと鶏の長鳴きの間に住処の周囲の葺茅に当たる微かな雨の音が聞こえてくる。
まだ暗い中で、ととさまとかかさまが身を起こした。
隣で寝ていたあねさまも目を開けていた。
ハヤタリは住処の入口まで行き、掛かっている筵をそ

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海の近く田を営む邑

海の近く田を営む邑

10年ほど前に、志波城のマスコットキャラクターしわまろくんとのTwitterでのやり取りを発端に、少しづつ発展して行ったイマジネーションがありました。
駿河湾に安倍川が流れ込んで形成された扇状地、後に駿河国の一部になる、小ぢんまりとした静岡平野の南部には弥生時代にはいくつかの集落がありました。
弥生時代中期後葉に最盛期を迎えたと考えられる拠点的集落(有東遺跡)、弥生時代中期から中世まで長く人が住ん

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