古代の春 三

住処すみかを建てるそうだ」
焼いた魚をむしりながらととさまが言い、かかさまが「誰の住処だね?近くめとりするよわいのものも居ないだろうに」と聞き返した。
ととさまは粟の入った粥を飲み干して「先だって兄邑えむらの長と連れ立って来たおのこよ。ここの田仕事を珍しがって、やってみたいそうだ。今は長の住処で寝起きしているからな。新しく住処を作るのよ」と答えた。
ハヤタリは匙で粥を掻き回しながら目を丸くして住処の中を見回した。
住処は作るものだったのか、どんな風に作るのだろう。
ととさまはハヤタリの方を向いて「お前も土を運んでくれ」と続け、ハヤタリは嬉しくなって頷いた。
手伝えば作るところを見れる。
あねさまが「私も運ぶ」と言い、かかさまは「オミテはカヤをっておくれ。弟邑おとむらに住むものだけで手が足りるかね?。親兄弟は手を貸しに来ないのかね?」と言った。
「あの男は兄邑の生まれではなくて客人まれひとだそうだ。遠くの西の邑から来たんだと」
ととさまが言うのを聞いてハヤタリは目を丸くした。
兄邑の他にも人が住んでいるところがあるのだ。
西というのは日の沈む方だと前に太占ふとまにの婆さまが教えてくれた。ここから眺めると山が連なっている方だ。
あの山の向こうにも人が住んでいるのだ。
ととさまはハヤタリの顔を見て吹き出した。
「これからはこの邑で暮らすことになるから話も聞けるだろう。たいそう遠いところだそうだ。何度も日が巡り、月も満ち欠けしたそうだぞ」

遠い西の邑から


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