1_未来に先回りする思考法

『未来に先回りする思考法』(佐藤航陽著、2015年)~未来を考えるツール

普段、ビジネス書を読み直すことは殆どないのだが、この本は内容を念入りに読み直した。非の打ち所のない良書、というわけではないのだが、色々と考えさせられる影響力のある一冊であることは間違いない。

元々、現在から未来がどのように推移するか、仮説を立てることに興味を抱いていたのがこの本を手に取った背景であるが、改めてその重要性を認識した。本書は主にテクノロジーの側面から未来に先回りする為の方法を論じているが、単にテクノロジーのみにとどまらず、その近代社会システム(国家、セイジ、資本主義)への影響についても言及している。著者の「近代社会システムができた原理がわかれば、テクノロジーによって社会がどのような方向性に進むかが予想できる」という論理には非常に納得がいく。

未来が著者の言う様な状況になるとすると、今後は人工知能(AI)が計算だけでなく、意思決定までも行う世の中となるかもしれない。そのような状況となったとき、自分の産業はどうなっているのか、その中でも自分が提供できる価値は何か、そのようなことを真剣に考え込んでしまった。今後は、たとえ門外漢と思える様な話題でも、テクノロジーの進歩には常に細心の注意を払い、それが自らの産業、延いては世の中をどう変えていくかを先回りして考えて行かねばならない。

細かく読み進めると、「ある国でイノベーションが生まれるのは、安全保障や社会の不安定さが大きな理由ではなく、イノベーション以外の国の根幹を支える代替産業がないことではないか」、「GoogleやFacebookが未来に先回りできているのは、著者が言うような思考法ができているのではなく、ただ単に無数の最先端の技術を研究する学者を囲い込んでいるからなのではないか」、「AndroidがiOSの独占状況を排除したのは、原理から推測されたものではなく、ただ単に歴史の繰り返しから推測されたものでは」等、突っ込みどころもあるが、自分が属する産業でこのようなテクノロジーがどのような影響を与えて行くのかを考える機会となったという点で、この本はとても有益なものであった。

以下、備忘まで。

・これまでつながっていなかったノード同士が相互に結び付くことで、情報のハブであった代理人の力が徐々に失われていく(P87)

・実は2014年のアメリカの中間選挙で最も政治献金をしていた企業はGoogleでした(P117)⇒(今に始まった話ではないものの)政治でさえも企業が操ろうとしている

・実際はビジネスも政治も、目的は全く一緒で、そのアプローチが異なるだけです。何かに困っている人たちのニーズを汲み取り、その解決策を提示するというプロセスは共通しています(P124)

・目の前にある仕組みそのものに疑問を持てなくなってしまい、既存の枠組みの中だけで答えを探そうとすれば、手段の目的化が進み、本質からずれた議論になってしまいます(P127)

・すでに学術的に最先端の研究とビジネスは切っても切り離せないほど密接見結びついており、企業は研究段階から新しいテクノロジーに関わっていないと、競争に勝てなくなっています(P154)

・パーソナライズは利便性をもたらす一方、行き過ぎれば新しいものとの出会いをなくしてしまう可能性があります(P180)

・本当に大きな成果を上げたいのであれば、真っ先に考えなければいけないのは、今の自分の進んでいる道は「そもそも本当に進むべき道なのかどうか」です(P207)

・問題は、その二つの壁(すべての情報を得ることができないという「情報」の壁と、意思決定者が持つ「リテラシー」の壁)を認識しないままに、自分たちに認識できる現実の範囲を「全体像」と捉えてしまうことです(P222)

・リアルタイムの状況を見ると自分も含めて誰もがそうは思えないのだけれど、原理を突き詰めていくと必ずそうなるだろうという未来にこそ、投資をする必要があります(P244)

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