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【深い社会】14 誰も見たことのない「技術」を追え

時代はルネサンスを過ぎ、産業革命へ。
蒸気機関や紡績機など、つぎつぎと新しい技術、新しい知識が生まれていきます。

そんな新しい知識を整理し、まとめるもの。
そしてライプニッツが欲したあるもの。

それは百科事典です。
振り返れば、人類はプリニウスの博物誌の頃から、知識をどうにかまとめようと努力してきました。
印刷技術の発達により聖書がヨーロッパ各地に広がった時、まず、作られたのが、「辞書」です。
ラテン語で書かれた聖書の内容を、その土地の言葉で理解するためには、言葉と語釈の組み合わせでなる辞書の作成がどうしても必要となったのです。

辞書の作成は、人々の知識欲をさらに書きたてました。
言葉の意味だけでなく連なる様々な知識が学べる本が欲しい。
ドイツのブロックハウス百科事典や、
イギリスのチェンバーズ百科事典など、様々な取り組みがなされてきました。

ところが、そんな、百科事典を読んでため息をつく2人のフランス人。

「ブロックハウスは、言葉の意味しか載っていない。これだけでは一人で学べない。」
「チェンバーズも、詳しい情報が載っていない。特に『技術』についてもっともっとのせるべきだ。」

2人の名が「ディドロ」と「ダランベール」です。

「ディドロ」
https://ja.wikipedia.org/wiki/ドゥニ・ディドロ
「ダランベール」
https://ja.wikipedia.org/wiki/ジャン・ル・ロン・ダランベール

2人とも哲学や神学を学んだ若者でした。
2人は百科事典づくりに挑戦します。
とはいっても、書くのは2人だけではありません。
たくさんの専門家にお願いして、言葉と意味、周辺情報について書いてもらいます。
わかりやすくするために、デザイナーに頼んで言葉に関係する図案を用意しました。
資金を確保するために、一括製本ではなく、雑誌のように分冊で発行する形をとりました。
全部そろえると百科事典全体が完成します。

書いていく中で、その内容があまりに先進的すぎる、ということで逮捕されたり、
キリスト教会から弾圧されたりと、様々な困難がありました。
執筆を依頼した学者がほかの執筆者の内容に激怒して、離脱するなんてこともありました。

それでもめげずに編集を続けました。
こだわりの項目は自ら書きました。
例えばディドロの一番のこだわりは「技術」。
産業革命がはじまり、時代はどんどん変化していきます。
職人が必要に迫られ、様々なノウハウを作っていくのですが、
それらに、「技術」の概念を与えるものはいなかったのです。

ディドロは自ら取材に出かけ、職人の仕事を観察し、
時にその仕事を手伝い、一緒になって働き、
「技術」という語の持つ本質を表現しようとしました。
(ちなみに【技術】の項目だけで薄い本1冊分くらいの量があります。)
一部を引用してみましょう。

【技術の一般的目的】
「人間は自然の召使いまたは解釈者にすぎない。
彼は自分を取りまく諸々の存在を、経験的にであろうと内省的にだろうと認識しただけ理解し、行為するに過ぎない。
その手はむき出しのままでは、どんなに丈夫で疲れを知らず、かつしなやかであってもわずかの効果しかもたらし得ない。
それは手立てや法則の助けを得て初めて偉大なことをやり遂げる。」

まさしく本質を得た「技術」についての記述です。

さて、2人の百科事典が完成するのに20年かかりました。
最終的に184名の著名人が記事を書いてくれています。

最後にダランベールが、百科事典についての序説を書き上げました。
(この序説だけで本1冊分です。)
「技術と学問のあらゆる領域にわたって参照されうるような、そしてただ自分自身のためにのみ自学する人びとを啓蒙すると同時に、他人の教育のために働く勇気を感じている人々を手引きするのにも役立つような、ひとつの「辞典」を持つことが大切だ、と私たちは信じたのである。」

知識を一人だけのものにせず、お互い参照することができる事典を作ることで、何かを生み出そうとしたのですね。

さて、本当に「何か」は生まれたのでしょうか。

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