舞台「文豪とアルケミスト 異端者ノ円舞」の感想

 元々はアンチ2.5次元舞台に近かったのですが、1年ほどで徐々に手のひらをひっくり返していった私。2019年12月28日(土)、ついに初観劇に臨んでしまいました。
(ネタバレを多く含むのでご注意ください)

・前置

 文アルの舞台化が発表された当時「公式でストーリー展開するの諦めたのかな」「舞台を見ているのが当然という雰囲気になったらどうしよう」「本家の声優さんと声が違うのは嫌だ」「外見の再現度が不安」「知名度の低い作品でキャリアにならないし、俳優も本気で演じないだろう」と大変失礼なことを考え、宣伝や関係者のツイートも無視していました。自分の推しキャラが登場しないよう、興行的に失敗して1回で終わってしまえばいいとも思っていました。
 しかし観劇した人が絶賛しているのをTwitterで多数見かけ、少し心が揺らぎました。やっぱり好きな作品のメディアミックスは気になる。文アルの世界に浸る機会は大変貴重なので逃すのも惜しい。そして迷いながらも、物は試しと千秋楽のニコ生を見ました。
 ……結果、圧倒されました。キャラのファンや俳優ファンが推しだからと夢中になるだけでは終わらないレベル、作品として完成度が高くて驚きました。演出が、シリアスシーンが、コメディシーンが、全部生き生きとしていて、そこには文アルの世界が確実にありました。真似し損ねた印象は全くありませんでした。そして、こういう舞台なら推しがどう動くのかが見てみたいなと思うようになりました。
 そしてその機会が巡って来ました。「文豪とアルケミスト 異端者の円舞(ワルツ)」。主役は武者小路実篤と志賀直哉ですが、有島武郎も登場し、彼の著作「カインの末裔」が侵食されるというあらすじです。私が読んだことのある数少ない純文学。躊躇いなくチケット申し込みをしていました。

・とりあえず推し(有島)の話をさせて欲しい

 一番の目当てが有島武郎だったので、彼と彼を演じた杉山真宏さんの話ばっかりします。させてください。

 まずジュノンボーイが有島先生を演じるのが合格点どころじゃなかったです。有島先生は凜々しく儚く美しい。「図書館の眠り王子」と呼ばれてモテる。まずそこをクリアしてくれてましたし、実物が……本当にすごかったです。杉山さん、立ち振る舞いが高貴でとても有島先生でした。オープニングのダンス部分、コンパクトにさらっと優雅に踊るのが完全に有島先生で。そして、とても礼儀正しい綺麗なお辞儀をされる。独歩さんにしっかり敬意を込めてお辞儀するのがたまらなかったです。終劇後に1人ずつお辞儀するところは……興奮してましたね私。
 声を張り上げるシーンが結構多くて、あるフォロワーさんが「戦国BASARAの幸村が入ってる」と言っていましたが、志賀との双筆で「志賀君、前、前!」と叫んだり、岩野泡鳴との散策回想で怒鳴ったりしていたのでそういう面も彼にはあるんだろうと思ってて違和感はなかったです。彼が必死になる、声を張り上げずにはいられない状況が文劇2には多かったですから。彼は結構熱い男ですよ。ゲームでも白樺派メインの奇襲作戦イベントをしてくれれば、熱い有島先生がたくさん見られる気がします。やってくれないかなぁ。

 1つ懸念していたのが「文劇の白樺派はめちゃくちゃアドリブやコメディの要素が強い」という点で、今作では有島先生もその中に入るというのがとても心配でした。キャラ崩壊は覚悟してた。実際しました。でも許せた。なんででしょうね。藤村に取材を申し込まれて逃げ回るところ、安吾鍋が熱くて「あっつ!!!!」ってなるとこ、更にチョコレートが入っていて憤慨するところ……。ゲームの彼も私の二次創作(司書との恋愛)の彼もああいった反応はしないでしょうが、文劇の白樺派は文劇のフリーダム武者がリーダーなので、こうなっても仕方ないと思ってしまいました。そして、こうやって図書館に馴染んでいくのもいいんじゃないかと思えました。
 聞いたところだと、安吾鍋のところは日替わりみたいですね。東京千秋楽の生放送は昼夜両方見なければ……。

 有島先生の一番の見せ場はやはり、カインの末裔への潜書。侵食者の策略で分断され、有島先生と朔太郎先生だけで多数の侵食者を相手にしなければならなかったシーンですね。殺陣最高すぎませんか。剣を逆手持ちした戦いはあまり見たことがないんですが……優雅さを維持したままこなしている杉山さんがすごすぎませんか。そして、時々蹴ってるの良すぎませんか。育ちがいいのに、必死さ故に何かが出てきてしまった感じが。
 怯えながら銃で戦うけど逃げ惑いがちな朔太郎先生を、有島先生が時折庇いながら戦っていたところも本当にかっこよかったです。ゲームの戦闘では挑発的で余裕のある台詞が多いので、必死に守り必死に攻撃をする有島先生が新鮮で……新しい魅力を感じさせてくれました。
 誰かを守るために、有碍書を浄化するために、自分が犠牲になってもいいと思っているところは有島先生らしくて好きだけど「そんなこと考えないで」と心から願いましたね。そして仲間も有島先生の覚悟に気付いて、させまいと頑張ってくれる。文劇で描かれる「生と死」は本当に素晴らしいですね。たくさん苦しんで衝撃的に早く亡くなってしまった彼だから、今度は幸せに長生きして欲しいよね。わかる。わかるぞその気持ち。
 そして「今度は、長生きしてみようかな」と自分で言ってくれた有島先生。うん、うん、と心の中で頷きまくってた重症女がこちらになります。

 そういえば、作品中で1回も眠り王子になってなかったですね。絶対後ろで寝てるシーンがあると思ってたのに。いきなり自分の作品が浸食されたし、そんな場合じゃなかったからでしょうか……。

・その他色々な感想

 一晩経ったのと遠征疲れでぐったりしていたのとで記憶が薄れ気味になっていますが……有島先生以外(少し含まれますが)で印象的だったところも書き出しておきます。

・三津谷さんから本当に朔太郎先生の声が出てる。動きも完全に萩原朔太郎
・藤村のテンション再現度高い。そのまま色々喋るのも取材対象追い回すのも完全に藤村
・独歩さんめちゃくちゃ独歩さん。推し特撮にもいた演技力高い人だけど、ここまで独歩さんが乗り移ってるとは思わなかった
・安吾の背が高い手足が長いめちゃくちゃ舞台映えする
・芥川先生VS藤村熱い。興奮して「ひゅー!」って言いたくなった
・名前は出てないけど完全に室生犀星の話をしてる
・というか朔太郎先生「犀~……」「白秋先生……」とかいない人に助けを呼んだりはしなかったね。安吾達にしっかり優しくしてもらったからか
・花袋の名前出てきたー!次は本人に出てきて欲しいな!
・友情は読了していたので、朔太郎先生が「あのピンポンのシーンかな」と言ったところに噴いてしまった。
・やっぱり思うけど武者の声色の変化はうちの図書館にいる武者小路実篤実篤ではない。でも好き。感謝感謝圧倒的感謝
・朔太郎先生に一方的に話しかけて「朔太郎くんって呼んでいい?」とまで距離を詰める武者さすが文劇の武者
・武者が志賀のこと思い出せなくなるのがめちゃくちゃしんどかった。自分の中でどれだけ志賀と武者の友情が大きかったかに気付かされた
・シリアルすぎてしんみりしきれないシーン多い。だいたい志賀と武者のせいだよね
・チャリ大活躍すぎてチャリがMVPな気がしてきた
・友情から帰還した武者、抱きつこうとした有島先生からなぜ逃げる。カバディみたいになって噴いてしまった
・アンサンブルに終始圧倒された。演出の良さが半端じゃない。8人? 嘘だろ? もっといるだろ?全員ほぼ出ずっぱり? 神がかった演技をこれだけ長時間続けて大丈夫? 皆さんの今後の活躍を心よりお祈り申し上げます。遠くないうちに大役を掴めるって信じてる

・最後に

 今回も文劇は素晴らしい出来でした。高品質な作品を、生き生きとした演技を、生で見られて幸せでした。文劇ってもはや、大衆娯楽を超えた芸術ですよね。そして演劇の教材にすべきものではないでしょうか(?)
 2.5次元が苦手な気持ちもよくわかるので、あまり強くプッシュするわけにもいかないのですが……できるだけ多くの方に見て欲しい作品だと思っています。そして、できれば文アルを知らない人にも是非見ていただいて、文アルに興味を持っていただきたいなと……思ってみたり。
 また文劇に推しが出るなら……再び大阪遠征をしなければいけないですね。

この記事が参加している募集

#舞台感想

5,880件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?