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男友達





「彼の後ろ姿がさ、離れないんだわ。」





久しぶりに会った彼は言った。





コロナ禍で変化したことは沢山ある


その一つが人間関係で


もっと言うと、人との距離感だ




いま誰かと繋がるということは


互いに繋がろうとする意志と行動力が


伴わなければ成り立たない


それはそれは敷居の高いものになった




本当に大切な縁はどれか


自分にとって必要な人は誰か




誰もが決断を迫られては


中途半端はふるい落とされる




けれどそうして必死に残せた縁も風の前の塵に等しく

気を抜くとすぐ風に煽られて飛んでいってしまうだろう





久しぶりに会った彼は言った。


「もし明日突然俺が死んだら、多分お前に、すぐ連絡がいかないんだよな。」




きっと真剣に考えてくれていたんだろう。


彼の目は真剣で、声は少し震えていた。

もし彼がしんだら。


もし私がしんだら。



学校も職場もコミュニティも違う私たちは


互いの死を知るには時間がかかるはずだ




私は彼に、私の思いと考えを話した。


彼は小さく頷いて、うん。と言った。





蛛の糸のように脆い絆でしか繋がれないくせに

それを途絶えさせまいと日々必死になる




私たちは弱くて愚かで


とても愛おしい生き物だ





少し黙って私たちは


職場と家族に互いの連絡先と名前を教えるか


メモを残すことを約束して


笑いながら店を出た



久しぶり会った彼は言った。





「元気出たわ。ありがとな。」





夜なのに風があたたかかった。





もう春は近いんだなと感じた。

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