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消費税と簡易課税④

簡易課税の4回目。ここでは、簡易課税とインボイスについて書いていきます。
簡易課税とインボイスの関係を見て行くにあたって、公正取引委員会から公表されているQ&Aの中から、簡易課税について触れているところを見ていくことにします。

Q1 インボイス制度が実施されて、何が変わりますか。

「インボイス制度の実施後も、簡易課税制度を選択している場合は、現在と同様、売上げに係る消費税額に一定割合(みなし仕入率)を乗じて仕入税額控除を行うことができます。一方、簡易課税制度を選択していない場合、仕入税額控除を行うためには、適格請求書(インボイス)の保存が必要となります。
「なお、インボイス制度実施に伴う事業者の対応として、インボイス制度の実施までに、適格請求書発行事業者となる売手では、端数処理のルールの見直しを含めた請求書等の記載事項やシステムの改修等への対応が必要となる場合があります。また、交付したインボイスの写しの保存等や、 仕入税額控除を行おうとする買手では、新たな仕入先が適格請求書発行事業者かどうかの確認や、受け取ったインボイスが記載事項を満たしているかどうかの確認が必要となる場合があります。このような事業者の対応に向けては、改正電子帳簿保存法の活用を図るほか、デジタル化の推進のための専門家派遣やITの導入支援などを行います。なお、簡易課税制度を適用している事業者は買手としての追加的な事務負担は生じません。

注目すべき箇所は最後のなお書きでしょうか。消費税の文脈だけでは、簡易課税の適用事業者は、買手としてのなお書き以前に書かれているようなシステム導入や改修といった追加的な事務負担が生じないとしていても、法人税や所得税のことを考慮すると、実際は対応が不可欠です。前回の最後に書いておりますように、この主張は形骸化してないだろうかという疑問を持っております。

Q2 現在、自分は免税事業者ですが、インボイス制度の実施後も免税事業者であり続けた場合、必ず取引に影響が生じるのですか。

「② 売上先の事業者が簡易課税制度を適用している場合
簡易課税制度を選択している事業者は、インボイスを保存しなくても仕入税額控除を行うことができるからです。

Q4 免税事業者が課税事業者を選択した場合には、何が必要になりますか。

「課税事業者を選択した場合、消費税の申告・納税等が必要となります。なお、インボイス制度の実施後も、基準期間(個人事業者の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度)における課税売上高が5,000万円以下の事業者は事前に届出を提出することで簡易課税制度を適用できます。簡易課税制度は中小事業者の事務負担への配慮から設けられている制度であり、売上げに係る消費税額にみなし仕入率を乗じることにより仕入税額を計算することができますので、仕入れの際にインボイスを受け取り、それを保存する必要はありません。

Q5 現在、自分は課税事業者ですが、免税事業者からの仕入れについて、インボイス制度の実施に当たり、どのようなことに留意すればいいですか。

「簡易課税制度を適用している場合は、インボイス制度の実施後も、インボイスを保存しなくても仕入税額控除を行うことができますので、仕入先との関係では留意する必要はありません。
簡易課税制度を適用していない場合も、取引への影響に配慮して経過措置が設けられており、免税事業者からの仕入れについても、制度実施後3年間は消費税相当額の8割、その後の3年間は5割を仕入税額控除が可能とされています。

Q2、Q4、Q5は同じことを述べていますね。前回に触れさせて戴いていますので、ここでは割愛させて戴きます。

Q6 課税事業者が、インボイス制度の実施後に、新たな相手から仕入れを行う場合には、どのようなことに留意すればいいですか。

簡易課税制度を適用している場合は、インボイス制度の実施後も、インボイスを保存しなくても仕入税額控除を行うことができますので、仕入先との関係で留意する必要はありません。
また、簡易課税制度を適用していない場合は、インボイス制度の実施後は、取引条件を設定するに当たり、相手が適格請求書発行事業者かを確認する必要があると考えられます。」

適用場面は狭いかも知れませんが、これはあり得るのではないかと思っています。
簡易課税の事業者が買手の場合、売手がインボイスを発行しなくとも、買手は仕入税額控除ができます。たとえば、売手がたくさんの免税事業者に外注をしている場合、この免税事業者は登録事業者になる必要が無いのではないかということです。

A(免税事業者)→B(簡易課税)→C(原則課税)という商流の場合、BはAがインボイスを発行できるかどうかは問わないです。そして、CはBに支払うのですが、Bは課税事業者なのでインボイスを発行します。こういう商流があるのならば、Aは敢えて登録事業者になる必要はないことになります。

どういう業種で考えられるでしょうか。工事関係、芸能マスコミ関係ぐらいしかおもいつきませんが、いろいろあるかと思います。
もしかしたら、AとCを繋ぐ商売が出てくるかも知れませんね。そして、現実味があるのは士業なのかもしれません。
ただし、Bは利益がとても少なくなると思います。考えてみて下さい。もし、Aがインボイス発行事業者になり簡易課税を選択したとすれば、消費税の負担は売上の5%(=売上に係る税率10%-売上に係る税率10%*第五種のみなし仕入率50%)です。Aが免税事業者のままであれば、売上にかかる消費税分、すなわち10%分が得られないとか、売上その者がなくなるリスクを思えば、5%の税負担で済むのなら課税事業者になっておこうと思うかもしれません(公正取引委員会はインボイスを理由にした取引の停止は違法の可能性があると書いていますが、代替性のある取引なら取引を停止されることは想像がつくのではないでしょうか)。

話を戻して、Aはこの5%の税負担が増えることよりもメリットがなければBを通してCと契約はしないでしょう。そう考えると、Bの取り分はとても少なくなるのです。

とはいえ、これはあくまで経済的な観点からの検討です。売上が減ったとしても、消費税の計算、申告、インボイスの対応が煩雑だから課税事業者になりたくないという方はいらっしゃると思います。再三申しておりますが、インボイス施行までまだ1年半。令和4年税制改正大綱でも改正項目がありました。今後も見直されることがあるかも知れませんので、報道等を注意して戴ければと思います。

4回にわたって、簡易課税の概要を中心に触れてみました。
インボイスの施行により、簡易課税を適用する場面は増えてくるのではないかと思っております。免税事業者にとっては、課税事業者になることによる税負担が増えるデメリットはありますが、消費税申告をする上で、簡易課税を選ぶことは、事務負担が少ないことや、取引から排除されるリスクがなくなるというメリットが容易に考えられます。
つまり、簡易課税が改めて注目される可能性はあると思いますので、これらの投稿を読んで頂いて、少しでも問題意識を持ってもらえたり、復習になったりすれば幸いです。

なお、網羅的には書いていませんので、基本的なところと詳細については省略しておりますから、国税庁のhpなどをみていただきたいと思います。

余談

公正取引委員会のQ&Aで、よくわからないのが問7の取引対価の引下げについてです。

取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施後の免税事業者との取引において、仕入税額控除ができないことを理由に、免税事業者に対して取引価格の引下げを要請し、取引価格の再交渉において、仕入税額控除が制限される分(注2) について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。

(注2) 免税事業者からの課税仕入れについては、インボイス制度の実施後3年間は、仕入税額相当額の8割、その後の3年間は同5割の控除ができることとされています。

気になるのは太字にした部分、「仕入税額控除ができないことを理由に、免税事業者に対して取引価格の引下げを要請し、取引価格の再交渉において、仕入税額控除が制限される分(注2) について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。」です。なお、注2は経過措置のことです。
経過措置で制限される分についての価格交渉ってなかなか大変という印象です。しかも3年ごと。意味あるのか?と思ってます。更に言えば、「免税事業者の仕入や諸経費の支払いに係る消費税の負担を考慮」って何を指すのでしょうか。原価割れしない程度の値下げならいいということでしょうか。取引先の原価がいくらあるかというのは、商売の種であり企業努力ですから、そこを明らかにする必要ないし、考慮のしようが無いと思うのです。そうすると、価格交渉ができないとも読めるし、消費税分くらいの値下げなら価格交渉をしても原価割れはしないだろうともいえます。何が正しいのでしょうか。公正取引委員会が更に踏み込むものなら、値下げの有無を取り仕切ることになってしまうのでこれ以上はリリースしないのではないかと思っています。さてさて、どう整理されていくのか興味深く見守りたいと思います。


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