消費税と簡易課税④
簡易課税の4回目。ここでは、簡易課税とインボイスについて書いていきます。
簡易課税とインボイスの関係を見て行くにあたって、公正取引委員会から公表されているQ&Aの中から、簡易課税について触れているところを見ていくことにします。
注目すべき箇所は最後のなお書きでしょうか。消費税の文脈だけでは、簡易課税の適用事業者は、買手としてのなお書き以前に書かれているようなシステム導入や改修といった追加的な事務負担が生じないとしていても、法人税や所得税のことを考慮すると、実際は対応が不可欠です。前回の最後に書いておりますように、この主張は形骸化してないだろうかという疑問を持っております。
Q2、Q4、Q5は同じことを述べていますね。前回に触れさせて戴いていますので、ここでは割愛させて戴きます。
適用場面は狭いかも知れませんが、これはあり得るのではないかと思っています。
簡易課税の事業者が買手の場合、売手がインボイスを発行しなくとも、買手は仕入税額控除ができます。たとえば、売手がたくさんの免税事業者に外注をしている場合、この免税事業者は登録事業者になる必要が無いのではないかということです。
A(免税事業者)→B(簡易課税)→C(原則課税)という商流の場合、BはAがインボイスを発行できるかどうかは問わないです。そして、CはBに支払うのですが、Bは課税事業者なのでインボイスを発行します。こういう商流があるのならば、Aは敢えて登録事業者になる必要はないことになります。
どういう業種で考えられるでしょうか。工事関係、芸能マスコミ関係ぐらいしかおもいつきませんが、いろいろあるかと思います。
もしかしたら、AとCを繋ぐ商売が出てくるかも知れませんね。そして、現実味があるのは士業なのかもしれません。
ただし、Bは利益がとても少なくなると思います。考えてみて下さい。もし、Aがインボイス発行事業者になり簡易課税を選択したとすれば、消費税の負担は売上の5%(=売上に係る税率10%-売上に係る税率10%*第五種のみなし仕入率50%)です。Aが免税事業者のままであれば、売上にかかる消費税分、すなわち10%分が得られないとか、売上その者がなくなるリスクを思えば、5%の税負担で済むのなら課税事業者になっておこうと思うかもしれません(公正取引委員会はインボイスを理由にした取引の停止は違法の可能性があると書いていますが、代替性のある取引なら取引を停止されることは想像がつくのではないでしょうか)。
話を戻して、Aはこの5%の税負担が増えることよりもメリットがなければBを通してCと契約はしないでしょう。そう考えると、Bの取り分はとても少なくなるのです。
とはいえ、これはあくまで経済的な観点からの検討です。売上が減ったとしても、消費税の計算、申告、インボイスの対応が煩雑だから課税事業者になりたくないという方はいらっしゃると思います。再三申しておりますが、インボイス施行までまだ1年半。令和4年税制改正大綱でも改正項目がありました。今後も見直されることがあるかも知れませんので、報道等を注意して戴ければと思います。
4回にわたって、簡易課税の概要を中心に触れてみました。
インボイスの施行により、簡易課税を適用する場面は増えてくるのではないかと思っております。免税事業者にとっては、課税事業者になることによる税負担が増えるデメリットはありますが、消費税申告をする上で、簡易課税を選ぶことは、事務負担が少ないことや、取引から排除されるリスクがなくなるというメリットが容易に考えられます。
つまり、簡易課税が改めて注目される可能性はあると思いますので、これらの投稿を読んで頂いて、少しでも問題意識を持ってもらえたり、復習になったりすれば幸いです。
なお、網羅的には書いていませんので、基本的なところと詳細については省略しておりますから、国税庁のhpなどをみていただきたいと思います。
余談
公正取引委員会のQ&Aで、よくわからないのが問7の取引対価の引下げについてです。
気になるのは太字にした部分、「仕入税額控除ができないことを理由に、免税事業者に対して取引価格の引下げを要請し、取引価格の再交渉において、仕入税額控除が制限される分(注2) について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。」です。なお、注2は経過措置のことです。
経過措置で制限される分についての価格交渉ってなかなか大変という印象です。しかも3年ごと。意味あるのか?と思ってます。更に言えば、「免税事業者の仕入や諸経費の支払いに係る消費税の負担を考慮」って何を指すのでしょうか。原価割れしない程度の値下げならいいということでしょうか。取引先の原価がいくらあるかというのは、商売の種であり企業努力ですから、そこを明らかにする必要ないし、考慮のしようが無いと思うのです。そうすると、価格交渉ができないとも読めるし、消費税分くらいの値下げなら価格交渉をしても原価割れはしないだろうともいえます。何が正しいのでしょうか。公正取引委員会が更に踏み込むものなら、値下げの有無を取り仕切ることになってしまうのでこれ以上はリリースしないのではないかと思っています。さてさて、どう整理されていくのか興味深く見守りたいと思います。
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