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消費税と簡易課税③

簡易課税3回目。ここでは、簡易課税を選択する上での留意点を書いていこうと思います。

①納税額が有利になる場合がある

1回目にも書きましたが、簡易課税を選択することで、支払に係る消費税額があります。
支払に係る消費税/売上に係る消費税の割合が、みなし仕入率より少ない場合は簡易課税を選ぶことで税額を抑えられます。

「支払に係る消費税」とは支出した経費の10%(又は8%)とイコールではありません、経費の中には消費税が課税されないものがあります。
代表的なものは人件費です。通勤手当は課税対象ですが、人件費や会社負担の社会保険料は消費税の課税対象ではありません。その他、固定資産税や印紙などの税金、保険料なども課税対象ではありません。
これらのような消費税の課税対象とならない経費が売上に対してどれくらいの割り合いを占めるのか。もっといえば、経費全体のうち消費税の課税対象とならないものを差し引いた額が売上の何パーセントを占め、みなし仕入れ率と比較してどちらが大きいかで、原則課税か簡易課税を選択されるのがいいと思います。

文字にするととってもわかりにくいですね。消費税で簡易課税といえば、我々税理士はまずこの有利判定を必ずします。税理士に相談されることをお勧めします。

②税額計算が簡単

「簡易課税」というくらいですから、税額計算は簡単です。
たとえば、私のような税理士や士業は第五種事業に区分されます。第五種はみなし仕入率が50%です。つまり、売上に係る消費税からその半分を控除し、半分を納めることになります。現在、消費税率は10%なので、納税額はその半分の5%になります。

納税額の計算が簡単ということは、資金繰りの予測が立てやすくなります。原則課税でも税抜経費をしていれば予測は立てられます。ただ、概算でも売上さえ抑えておけば予測を立てられるのは大きなメリットだと思います。納税資金を事前に用意しておきたい方は、売上の都度数パーセント(上の士業の例では売上の約5%)を貯めておくことで納税資金を確保しておけます。

③簡易課税が不利になるときがある

みなし仕入率は、事業の形態によりその割合が設定されています。したがって、突発的な事象があることは織り込まれていません。
突発的な事象とは、仕入税額控除が多く増える事象です。たとえば、多額の設備投資、不動産の購入、大規模修繕などです。1億円の設備投資を行えば、消費税は1,000万円ですから、それだけ消費税額が抑えられるのですが、簡易課税は売上を基準として税額を算出するので、この場合の1,000万円は税額に反映されません。
こういうときは簡易課税を取りやめて原則課税を選ぶことで消費税額を抑えようとします。そして、翌期また簡易課税を選べば、、、と考えるのですが、そう簡単にはいきません。設備投資などをして消費税を抑えたあとに簡易課税を選ぶ場合は制限があります。下記などでご確認ください。

④届出が必要

簡易課税の適用を受ける場合、適用を受けようとする事業年度の始まる日の前日までに届出を出しておく必要があります。

届出についていくつか留意点があります。

それは簡易課税を適用すると、2年間は継続して適用しないといけないことです。2年継続して適用した後はいつでも簡易課税をやめられます。簡易課税をやめた後また適用を受けたくなったときは制限がありません。上記③で少し触れたような制限を受けない限り、「簡易課税2年→原則課税1年→簡易課税」という適用は可能です。

なお、簡易課税をやめたい時は、原則課税に戻りたい事業年度の始まる日の前日までに簡易課税を取りやめる旨の届出を出しておく必要があります。消費税は届出を出すタイミングを誤ってしまう事故がよくあります。この辺りは税理士とよくご相談下さい。

⑤帳簿保存義務

原則課税の場合、税額計算時に支払った消費税に係る証憑類は保存しておく必要があります。これを帳簿保存義務といいます。

消費税法30条7項
第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(同項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が少額である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ、特定課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。

預かった消費税から支払った消費税を引くには、その支払った消費税にかかる請求書や帳簿を保存しないと引けないと規定されています。
ただし、これは原則課税の話です。簡易課税は預かった消費税から差し引く額は、実際に支払った税額ではなく、売上を基準として計算しています。つまり、仕入税額控除額を算出するにあたり、支払に係る消費税を集計する必要が無く、支払に係るインボイスの保存はいらないということです。

この「簡易課税は帳簿保存不要」という趣旨は、今回のインボイスでも言われています。規定上はそうなのですが、本当にそうなのでしょうか。

消費税法30条9項
第七項に規定する請求書等とは、次に掲げる書類をいう。
一 事業者に対し課税資産の譲渡等(第七条第一項、第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この号において同じ。)を行う他の事業者(当該課税資産の譲渡等が卸売市場においてせり売又は入札の方法により行われるものその他の媒介又は取次ぎに係る業務を行う者を介して行われるものである場合には、当該媒介又は取次ぎに係る業務を行う者)が、当該課税資産の譲渡等につき当該事業者に交付する請求書、納品書その他これらに類する書類で次に掲げる事項(当該課税資産の譲渡等が小売業その他の政令で定める事業に係るものである場合には、イからニまでに掲げる事項)が記載されているもの
イ 書類の作成者の氏名又は名称
ロ 課税資産の譲渡等を行つた年月日(課税期間の範囲内で一定の期間内に行つた課税資産の譲渡等につきまとめて当該書類を作成する場合には、当該一定の期間)
ハ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
ニ 課税資産の譲渡等の対価の額(当該課税資産の譲渡等に係る消費税額及び地方消費税額に相当する額がある場合には、当該相当する額を含む。)
ホ 書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称

先述した消費税法30条7項に定められていた「帳簿」や「請求書等」のうち、「請求書等」には何の記載が必要かということが同条9項に定められています(同条8項では帳簿について定められています)。そして、ここに定められているイからホの事項が書かれてないと、仕入税額控除の適用が受けられないということになります。
逆に言えば、帳簿保存義務がなくてもいいというのは、この項目を満たしていなくても構わないということです。

では、簡易課税の適用を受ける者は支払った請求書を破棄しても構わないのかというとそういう訳ではありませんよね。そもそも、法人税や所得税の計算上必要です(推計課税の話はひとまず置いておきます。)。そして、請求書等を保存するために昨今では電子帳簿保存法が話題になっております。さらにいえば、令和3年の確定申告から、申告書の第1表に区分欄が設けられ、記帳の実態を把握するようになっています。政府税制調査会では記帳水準の向上をテーマとした検討がされています。
これらのことを踏まえると、「簡易課税は制度上帳簿保存義務が不要」ということは法律上はそのとおりであっても本当にメリットと言えるほどのことなのか、むしろ昨今の記帳水準の向上などの観点から誤解を招きかねないはないかと懸念しております。

以上が簡易課税の留意点でした。細かい論点はまだまだあるのですが、簡易課税の総論として整理してみました。

最後はインボイスと簡易課税について見ていきたいと思います。

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