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冴えない鬱の過ごしかた

これは遡ること1年―――。

春から予備校での友達を作ることをしないと宣言し、有言実行していた僕は、鬱になった。「友人」と呼べるような人の関係性を一切絶っていた僕は、途方に暮れていた。「入試問題でいかに点数を最大化するか」というゲームから一時離脱したのだった。世間から見たら「無職」でしかない僕の評価を人一倍気にし、気にしすぎた結果として、自分の人生に色がないことに気づき、意味を見出すことを諦め、行動することまでやめてしまった。「時期が来ればやるだろう。」「そのうちモチベーションが湧き出るだろう。」と、無根拠な未来への期待だけをして、一日一日を過ごした。その日あたりから、授業への出席日数も激減した。

本来は、26日が上映開始日であるのでその日に見に行くべきであったが、土曜日からやる気は出ないのである。「詩羽先輩がスクリーンで待っていると」思っても何も感じられなくなっていた。あまりにも酷いアニメオタクである。それくらい行動できなかったのだ。日曜日は模試があった。受けたい模試の日はカフェインを注入すればアドレナリンが出てくれるので頑張れた。その日は、遅刻したり、ひどい偽名で登録したせいで試験官に色々聞かれたりして散々だったのだが。

2019年10月28日―――。

そして、当日。僕の尊敬する物理教師と英語教師の授業は素晴らしくやる気が出る。行動が伴いそうなこの日に映画を見ることを決行した。いつも通り寝坊して、いつも通り満員電車を避け、いつも通り物理の授業に参加し、いつも通り昼ご飯を食べ、いつも通り「紅」と晴れ切った「空」が混沌とする予備校の一室に足を運び、いつも通り構造を決定し、いつも通り英語の授業を受けた。授業中の僕は、ソワソワしすぎて挙動不審であったに違いない。上映時間がかなり限られている映画であったので、授業終了後にすぐさまホームに向かい最速で電車に乗る必要があった。その日の授業内容は忘れてしまった,いやそもそもあまり聞いてったのかもしれないが、その一方で、その日のワクワクは今でも忘れられない。

僕の鬱はこれで解消されるのばかり思ったが、そんなことはなかった。やはりモチベーションが上がることはない。「別の何かに一生懸命になれれば何か変わるのかもしれない。」そう思った僕は、冴えカノの毎週変わる入場者特典の小説を全種類そろえることを目標にした。そのおかげもあってか、模試の成績も第一志望はD判定とE判定を取ることができた。これは昨年よりもグンと酷い成績である。これによって僕の精神状態は底を着くことになる。結局このような精神状態を打開するには、想像だにしない状況にならなければ変わることができないのだ。たしかに、映画を見ている2時間は至福であり、その日のモチベは上がるかもしれない。だが、朝起きたらもう頑張れない昨日のダメな自分に戻っている。

こんな冴えないときは時間か人が解決してくれるものだ。キスシーンを見ても「せーの」などと言っていては、笑いしか出てこない。ライバルが英単語を覚えている際にも、映画のシーンとセリフしか覚えることができない。実に空虚な時間だ。だが、もし誰かがこの時間を「無駄」と評すなら、多分こういうだろう。

「なんだかなぁ、だよね。」

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