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写真散歩 #1 赤羽橋〜田町

春の匂いがする
それはきっと花粉の仕業だろう
それはきっと今まで暖まらなかったところが温度を取り戻した瞬間の匂い立ちのせいだろう

ところが、そんな匂いを嗅いでしまうと今までの春が一様に押し寄せてくるもんだから
なんだか居ても立っても居られない気持ちになる
そこここで感じられた春は既に置いてきてしまったし、
その生き生きとした生命の息吹的なものはどうにもあの頃より老いた自分には真っ直ぐすぎて感傷的になってしまう。
「春よ、来い」なんて聴いちまったら戻ってこられなくなってしまうだろう

そんなことを思いながら目をかき、鼻をすすり、上顎の痒みに耐えながら今年の春を嗅ぎ取ろうとするわけだが、最近の花粉は耳の奥の方
脳ミソ一歩手前をくすぐるもんで、指は届かないわ、耳を引っ張ると痛いだけだわ、最終的に顎骨をしたたかに引っ叩きながら日常を送っている。

花粉症の薬は強力なものに限る
しかし代償としてやってくる睡魔と渇きはこれから起きる出来事やこれから起こそうとする行動の一々に蓋をすることが認められた
もう春は腐海だ
自分では止められない

そんな花粉症の春
だが、今年はカメラを持ち出す頻度が高い
やはり朝の気持ち良い目覚めにほんのり温かな日差しは一役かっている
それに甘えようとする身体に背を向ける部屋の冷たさは、目やにをはらい落とし、私に歯を磨かせる
このまま一息に身支度が整えられれば、カメラを持って散策に出られるのだ
ちょっと横になってみようかな
そんな邪魔さえ入らなければ

その日持ち出したpentax k-7は快調だった
スーパータクマーの55㍉と28㍉はAPS-Cセンサーによっておよそ80㍉、40㍉に変貌し
そのやや狭い画角は開放的になってしまっている私の眼から余分なものを削ぎ落としてくれた
相変わらず、撮る写真は脈絡のない平凡なものばかりだが、
少しだけ汗ばむ穏やかな陽気とマスクのせいでくもる背面ディスプレイを眼下に感じて、
少しだけイラつきを覚えつつファインダーの奥で切り取られようとする風景に温かな眼差しを向けシャッターボタンを押した

こんな具合に
花粉まみれの眼と痒みの煩悩と闘いながら
それでも外へ出て写真を撮ろうとする



写真は楽しい。



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