何も起こらない4連休の過ごし方<前編>

4連休である。国民が思いもよらぬ形で得た祝日である。その実ぜんぜん「祝」日ではなく、なんとなく市井もメディアも、なぜ連休なのかについてはあえて口に出していない感じを受ける。「いいから! いいから休んで! いいから!」と何かに背中を押されてドアの向こうに押し込められたかのようだ。

とはいえ休みには変わりない。暗い事情はともあれ存分に休むべきである。連休の日数が多いほど怠惰で無為に過ごしがちであるから、今回は日記をつけることにした。書く価値も読む価値もなさそうだけれども、連休も3日目に入ったいま、ひとまず前2日を前半として振り返ることにする。

ちなみに先に言っておくと、本連休のビッグイベントは、先日注文してつくった眼鏡を受け取りに行くことである。早くも「何も起こらない感」が予感されるのである。

◎1日目:2020年7月23日(木・祝)

正午ごろ起床。「王様のブランチみよう」とテレビをつけると「ひるおび」がやっていて、リモコンを持ったまま固まる。「あ、今日木曜か」と呟く。洗濯機を回し、トーストとコーヒーで朝昼ごはんをとる。

前日からたまっていた皿を洗い、洗濯が終わるまでの間、最近はまっているパリのスタイリストさんのなんとも言えないおしゃれモーニングルーティンの動画を眺める。「ぜんぜんちがう世界」と思う。洗面の途中でぽろっと歌を口ずさんじゃうところが好き。「あら」という感じでカメラを見やる。

洗濯物を部屋干し。この時期に大切なのは、乾いても乾かなくても良いからとにかくすぐに扇風機を洗濯物に当ててエアコンを「除湿」にすること。これをやらないと後から部屋干し臭は退治できない。

洗濯物が干し終わると、ジーンズに着替えてマスクを装着、傘を持って外に出る。歩きながら「暇やな」と呟く。

レンタルビデオ店に行く。最近はNetflixばかり観ていたので久しぶりである。「旅の終わり世界のはじまり」と「蜜蜂と遠雷」と「ダージリン急行」を借りる。

レンタルビデオ店も袋が有料になっていた。袋は不要だったが、では袋を買わなかった場合、返却するときはどうしたらいいのか。裸でいいのか、別の袋に入れるのか……? セルフレジの前でもんもん考え、面倒になって結局購入した。

袋に入れたDVDを自分の鞄に入れ「バッグ・イン・バッグ」と呟きながら店を出る。

スーパーに行き、夕食の買い出しをする。夜はクリームパスタの予定であった。さらっと書いたがクリームパスタを作るのは初めての試みである。持っているレシピ本にゴルゴンゾーラと生クリームとあったので、それを目当てにうろうろする。人生で初めてチーズコーナーを仔細にながめる。

「あった」と手を伸ばし、値段を見てひっこめた。約400円……! 初めて作る料理で、美味しくできるかの保証もないのに、チーズだけで400円。しかも分量的に今回のパスタで使い切る。ぷらす、こちらは今回だけでは使い切らないが、生クリーム約200円。

だるおもな頭が叩き起こされて、いやいや計算をはじめる。

……チーン。

今回は自宅の冷蔵庫でワインと仲良く出番待ちしている6Pチーズに出演してもらうことにする。本当はひとりでも輝ける存在なのに、生クリームと一緒に溶かされて使われるなんて申し訳ないが、仕方がない。

自宅に戻る。さっそく借りてきた「旅の終わり世界のはじまり」を観る。音がうるさいので扇風機は止めて隅に追いやり、エアコンの「除湿」だけにする。

未知の世界・ウズベキスタンと前田敦子。湧きあがるような本物の情熱を探しながら、目の前の仕事を根性でまじめに乗り切る。人間味と自然体が出ていて、周りに迷惑はかけるけどどこか「甘えてない」姿勢がある、単純に映像がきれいという感じの映画じゃないところが好きだった。

さて、夕食のしたくである。レシピ通りに作ってみるとあっという間にできた。しかし白い。生クリームと牛乳なのだから当たり前ではあるが、しかし白い。食べてみると「もう少し塩気が欲しいな」とは感じたけれど、予想よりはうまくできた。もしかしてその「塩気」は、ゴルゴンゾーラ先生のお力を借りるところなのかもしれない。

夜、「蜜蜂と遠雷」を観る。映画「勝手にふるえてろ」を観てから、松岡茉優が気になる。でも今回は初めて見た鈴鹿史央が印象に残った。あのピアノ演奏後の真っ赤な頬。「全身全霊」という感じ。挙動不審だけどまっすぐな目とか。全体的に演奏のシーンが多くて、演奏映像好きとしては嬉しかった。

そんなこんなで1日が終わる。総括すると、洗濯して、初・クリームパスタ作って、映画2本観た日。だった。


◎2日目:2020年7月24日(金・祝)
 
13時くらいに起きる。後悔はない。アラームに起こされず好きなタイミングで起きられる幸福を感じる。

トーストとコーヒーで朝昼ごはんをとる。昨日干した洗濯物が乾いていたので畳み、掃除機をかける。それが終わり一息つくと、もはやご飯くらいしかイベントがないことに気づき、夕食の参考にしようと「舞妓さんちのまかないさん」シリーズを1冊読む。「からあげいいな」「麻婆豆腐いいな(作ったことないけど)」などと思いつつ、自宅の冷蔵庫の中を思い浮かべて「ハンバーグとじゃがいもの味噌汁だな」という結論に至る。「おし!(わかる人にはわかるネタ)」

漫画を読んだのが楽しかったため、続けて人に借りている漫画も2冊読む。なんてことない日常の漫画だが、大人になるにつれて忘れかけている、日常の中に見出す好奇心と発見みたいなものに気づかされる。

好きな漫画を読んで気分があがり、先日お直しに出してサイズぴったりになったワイドパンツを履き、マスクをして外に出る。肉屋さんで牛豚のミンチを300g買う。なぜ300gかといえば、300g以上だと100gあたりの値段が割引になるからだ。

肉屋さんにグラム数を確実に伝えるときのコツは、例えば「300g」と言うときは指3本も添えることである。そうすると肉屋さんもつられて指3本を出し「300gですね」と言う。これで意思疎通は完璧である。

注文が終わったと思って油断していると「オーストラリア産と国産どっちですか」と聞かれ、慌てて表示を確認する。「左から2番目が輸入で、その隣が国産です」と教えてくれたので「輸入の方で」と言う。肉屋さんが素早く肉を量りにかけ、295gで買った。たまに一回量りに乗せただけでピタリ賞を出す、すご腕の店員さんがいる。顔には出さないけれど内心「おーぴったり」と思うくらいには爽快な気分かもしれない。

買い物からの帰り道「帰ったらチョコ食べよう、ホットコーヒーと一緒に」と思いついた途端、急にテンションが上がり、頭の中で「♪ルーンタッタルンタッタ、泣き虫毛虫ー(わかる人にはわかるアニメソング)」が流れた。この年になってもご機嫌ソングはこれか、と思い我ながら苦笑する。

帰宅し、部屋を涼しくしてホットコーヒーとチョコを用意する。チョコは初めて「LOOK」を買ってみた。普段は、銀紙をはがしてパキッと割る音が小気味良い板チョコ派なのだが、こちらも前から気になっていたのである。バナナやアーモンドなど4種類の味があり、どれも美味しかった。

ミュージックステーションのSPをつけながらハンバーグを作る。最初油断していたらセクシーゾーンが歌っていることに気づき、慌てて火を止めてテレビに駆け寄る。ジャニーズはよく知らないけれど、セクシーゾーンだけはたまに楽曲を聴いたりステージの動画を観たりしている。

セクシーゾーンの出番が終わり「ふ……(良いステージだった)」と顔を綻ばせてハンバーグに戻る。ハンバーグのコツは、こねてこねてこねまくることと、必ず卵を入れることである。ここを怠るとハンバーグの「ふわっ」は後からは取り戻せない。

295gで4つも成形できてしまった。将来4人家族ができて、ハンバーグを作るとなったときにはこの295gの経験が役に立ちます、と思いながら火をつける。

ここでふと「あれ、ハンバーグって蒸し焼きにするんだっけ」という疑問が湧く。中まで火を通すには蒸し焼き、か……? スマホで調べるのが面倒で、結局水を入れて蓋をする。冷蔵庫から缶ビールを出して、ぷしゅっと開けて、どどど、とグラスに注ぎ、ぐぐぐ、と飲む。ミュージックステーションを横目で見つつ、ハンバーグの様子を伺う。

少し経つと、フライパンの中は肉汁と水で浸水状態と化した。「あ、やっぱり水いらなかったな」と思い、水と油を捨てる。ハンバーグは蒸されて白っぽくなっていて、思わず「まずそう」と呟いた。ハンバーグが「がーん」とうなだれる。

水気を飛ばそうと強火で焼き、なんとかそれっぽい焼き色もついたところで火を止める。「ハンバーグってこんなに時間かかるっけ」と思う。

レタスも買ってあったのでサラダも用意し、炊きたてのご飯やほくほくのじゃがいも味噌汁も手伝い、「健康的!」というような夕食ができた。しかしビールは飲む。

脱線するが、「この中絶対虫いるでしょ」と疑心暗鬼になってレタスが買えない、という方におすすめしたいのが、1/2カットのレタスである。中が見えるし、余分な葉っぱは取ってあるし、どことなく土っぽさがないため綺麗で安心感があるのだ。

ごはんが終わり、事前に全国の121箇所で一斉に花火があがるという不思議な情報を中途半端に入手していたため、時間になったときに窓を開けてみるも、何も聞こえない。「この近くは121箇所に入らなかったか」と思い窓を閉める。

ミュージックステーションの続きを観る。ドルチェアンドガッバーナの香水は彼女じゃなくてバイト先の店長だったことを知ったうえで歌を聴く。踊りもない、着飾った衣装やメイクもない、楽器はギターだけ。なのに見入ってしまう、聴き入ってしまう、不思議なステージがあった。

そんなこんなで1日が終わる。当然のことながら昼まで寝ていたので夜なかなか眠れない。ポッドキャストでラジオ「内山昴輝の1クール」の最新を2つフルで聴いて、それでも眠れず、よしもとばななの小説「ムーンライト・シャドウ」(単行本「キッチン」同時収録)を丸々読み終わったところで、本を閉じるみたいにぱたっと眠りに入った。


連休後半につづく。

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