言わないでほしかった

小学校高学年の頃、毎日のように同じクラスの仲間10名くらいとドロケイをやっていた。

一般的にドロケイは公園や学校くらいの広さの規模でやるものだったが、僕らがそのころハマっていたのは三原三丁目という町内全体で行うものだった。三原三丁目は基本的には住宅街だが雑木林に隣接しており隠れる場所はたくさんあった。エリアが広いため警察側は自転車に乗ってもいいというルールがあり、自転車を漕ぐ担当と最終的に走って泥棒を追う担当に分かれるため2人乗りが当たり前だった。遠くへ行きすぎたり、車通りが多い所へ出るのは反則という暗黙の了解はあった。人の家の庭に入ることは当たり前でしばしば怒られることもあった。

その日、泥棒側だった僕ら5人はまずは雑木林に身を潜めた。雑木林は広く草木が生い茂っているため静かにしていれば見つかる危険性は低かった。身を潜めて小さい声で話をしていると友人の一人がエロ本を拾ってきた。5人で「この体勢はどういうことなんだ?」とか「モザイクが入っているところはどうなっているか?」などを話しているうちにだんだん声が大きくなり、僕らを見つけた警察が知らず知らずのうちにすぐ近くにいて不意打ちのように一気にそこへ踏み込んできた。

「逃げろ!」

僕らは森の中を走った。走った先にガラスも割れ、錆びだらけのボロボロの自動車があった。不法投棄か盗難車かであろう。同じ組の泥棒は捕まってしまったり、先に走っていったが興奮していた僕はその車のボンネットに飛び乗るとそのまま天井に乗り、飛び跳ねながら「捕まえられるなら捕まえてみろ!」みたいなことを言った。

当然、そこに警察が登ってくると思ったのだが、警察はさっきまでは大声を出していたのに急に黙って、まじめな顔で先へ走っていった。僕は拍子抜けしてポカンとした。すると足元の車から「ウーン」という唸り声が聞こえた。はじめは車が軋む音かと思ったが2度目の唸り声と同時に車のドアが開いた。僕は車から降りて逃げた。みんな車の中に何者かがいるのに気づいて逃げたのだ。

数十メートル離れたところに泥棒も警察もいて僕も全速力でそこまで逃げた。そこから車があるところのほうを見ていると汚い作業着風の服装の髭だらけのおじさんがノシノシとこっちに歩いてきた。おそらく廃車の中で昼寝をしていたのを僕に起こされて相当不機嫌なことだろう。

僕らは一目散に逃げた。

特にそのことが理由ではないと思うが僕はその日の夜、熱が出て翌日学校を休んだ。

当時、学校で給食中にスピーチというのがあって、面白かったことをみんなに話すというのがあった。僕はあの面白恐怖体験をみんなに話したいと思っていた。

1日休んだ翌日、学校へ行って友達にあのことをスピーチで話したいというとその友達は「その話なら昨日したよ」と言った。「え?俺が車に飛び乗ったからできた面白話なのにしちゃったのかよ」と残念がっていると、その友達は「先生は危ないことからやめろって言って俺たち超怒られたんだよ」と言った。

それなら昨日いたら俺はおそらく一番怒られただろうから、それはそれでよかったかなと思った。

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