バントは実際非効率だったか？ 全311打席の無死一塁 立浪監督の采配を分析(2022年終了版)
突然ですが、質問です。
あなたは宝くじで1000万円が当たりました。
お金をもらいに行くとこう言われます。
「ご当選おめでとうございます。このまま1000万円をお持ち帰りいただいてもいいのですが、このコインを投げて、表が出たら1000万円ではなく2200万円差し上げます。裏が出たら1000万円の当選は没収です。」
あなたは大金をかけてコインを投げますか？そのまま1000万円をもらいますか？
おそらくコインを投げずに1000万円だけ貰って帰る人が多いのではないでしょうか？
私もそうします。
しかし、コインを投げずに1000万円を貰うという行為は期待値で見ると合理的ではありません。
・コインを投げない
1000万×100%=1000万
期待値1000万円
・コインを投げる
2200万×50%=1100万
0×50%=0
期待値1100万円
これは有名な行動経済学のテストなのですが、私たちが合理的な判断ができないのは、簡単に言えば失敗は成功の2倍感情が動くからと言われています。
人間は成功して嬉しい気持ちになるより失敗の残念な気持ちになるのを避けようとする生き物なのです。
これは野球の送りバントに当てはめても同じことが言えるのではないかと思いました。
損失(ゲッツー)を気にするあまり、数字の上で得点期待値が高い利益(強行成功)を得ることを選択できなくなってしまう。
みなさんの頭に“バントは非効率な作戦だ”という事が刷り込まれているので、よほどの場面でない限りバントは歓迎されていないと感じていますが、人間は得をするより損を怖がる生き物という事を頭に入れておくと、バントをしたくなる意味も少しは分かる気がしてきます。
前々回のnoteでは今年のドラゴンズはあまりにもバントしすぎじゃない？バントって非効率な作戦でしょ？という気持ちを起点に今季バントがどれだけ得点に結びついたかという検証を行いました。
無死一塁に絞ってですが、統計的に見ればバントは非効率だけど、4か月間の1チームだけに絞れば逆にバントは効率的に振れることもあるというデータになりました。
今回はその続きの2022年終了版を検証していきます。
はたして揺り戻しはあったのか？見てみましょう！
※今季ドラゴンズの数値は、私がスポーツナビアプリを見て手作業で計算。
統計の数字は下記の記事を参照しました。
中日のような貧打線でも送りバントは非効率。“堅実な戦術”の落とし穴をデータで解き明かす【野球の“常識”を疑え！第3回】＜SLUGGER＞
1.無死一塁の得点期待値と得点確率
はじめにバント、強行をする前の無死一塁を作ったイニングにそもそもどれだけ得点できたか見ていきます。
無死一塁からの全311打席で得点に結びついたのは105打席。総得点数は168点。
得点確率33.8%、得点期待値0.54点。
わかってはいましたが、統計と比較してバント、強行問わず今季のドラゴンズの得点能力は低いことがわかりました。
2.送りバント選択の場合の得点期待値と得点確率
バントを選択したのは54打席(成功44打席 失敗10打席)
得点数は45点。
得点確率48%、得点期待値0.83点
前回同様、バントを選択した場合非常に得点効率が良かったことがわかりました。
バント成功後、1死二塁の場合の得点期待値と得点確率
しかし、バント失敗したのに得点できた事象が多く、それも計算に含めてしまうと、上振れの要因になっていたので、失敗した打席を除外した場合も計算してみました。
バント成功に絞った場合、つまり一死2塁を作った時の数字は、
該当打席44打席 38得点。
得点確率52% 得点期待値0.86点
統計の数字はバントをせずに作った1死二塁など(1死走者なしからの二塁打、1死一塁からの盗塁など)も含まれているので単純な比較はできませんが、絶対的な数字として見ても、無死一塁からバントをしたイニングに0.86点入るのは作戦として非常に有効であったと言えます。
3.強行した場合の得点期待値と得点確率
ヒッティング、盗塁、エンドランなどを含めた強行は257打席。
総得点123点で得点確率30%、得点期待値0.48点。
239打数64安打 打率.268 盗塁成功12 盗塁死2
8月終了時同様、バントと比較すると、得点確率、期待値共に数字は劣りました。
しかし打率はチーム打率の.247より上の.268、盗塁も成功率8割越えと悪くないどころか優秀な数字です。
やはり、あと一本がでるかどうか、来季の改善に期待です。
4.無死一塁での点差・イニング別バント企図率
こちらの表は統計上の無死一塁からの点差・イニング別のバント企図率です。
※対象から投手の打席を除いています
参照サイト：改めてバント戦術を考え直すPart1 ～どのような状況で試みられているのか～
続いて同じ表から今季のドラゴンズの数値で見ていきます。
統計と比較して10%以上低い数値を青塗り、高い数値を赤塗りしてます。
※こちらの数値も投手の打席を除いています
なんと衝撃的なことに、統計と比較してドラゴンズはバントの企図率が少ないことがわかります。
特に驚いたのが、終盤(7～12回)、1点ビハインドからのバント企図率が15.4%と統計の44.1%と比較して極端に低い事です。
接戦時はバントを多用しているイメージですが実際は少なく、逆に2点以上リードのある終盤で多用していることがわかります。
※ドラゴンズ側のサンプルは極端に少ないです。事象によってはサンプル数が10打席未満という箇所もあるので、過度に鵜呑みにしないでくださいね。
5.無死一塁限定打者成績
全体を見渡して思うのが、「あれ？そんなに数字悪くなくない？」です。
個人別でみると、トップは高橋周平の.538でなんと併殺も0。今季は不調と言われてきましたが、つなぎ役としての役割は優秀だったのではないでしょうか。
最多安打を獲得した岡林もさすがの併殺0で3割越え。犠打数も9で失敗は0というとても優秀な数字です。強行も、バントもこなすまさに天才です。
6.おまけ
これはおまけですが、バント企図率と勝率推移のグラフを重ねたらどうなるかなと単純に気になったので作りました。
石川昂離脱、鵜飼不振の60試合あたりからバントの企図率がじわじわ上がってきたのがわかります。
負けが込むとバントの率も上がっていくのか、バント率が高いと負けが増えていくのか、にわとりと卵の話ですが、両者にはやや相関があるようにも見えます。
もちろん、直接的な因果関係があるとまでは全く言えないので、話半分程度にみてくださいね。
7.まとめ
8月終了時点と大きく数値は変わらず、今季のドラゴンズは無死一塁に限った場合、強行よりバントを選択した方が得点効率が良いという統計を覆す結果となりました。
ただ詳細を見ていくと接戦時は統計と比較してバントが少ない場面もあり、数値が上振れているだけの可能性も否定できません。
逆にこのままの数値を維持できるのであれば、チャプター4で書いた通り、統計と比較して接戦時のバント企図率が少なかったので、そこの数を増やせば、接戦を拾える試合も増えるのではないかという仮説もでてきました。
バントは非効率だって統計は言ってます。
でもそれは大差がついた試合は大体打たせてますし、点差がつく試合で出る投手は力が劣るからそりゃ得点も入るよね。
大差の試合を接戦の試合と合わせて勘定して均したらバントは非効率な作戦という結果になってもおかしくないんじゃないか。という思いもあります。
バントは統計上非効率だから打たせてくれ。と言う話には私も大部分賛成ですが、ここまで数値に現れると若干揺らいでしまうところもあります。
しかし前回も書いた通り、試行回数が増えるほど統計の数値に近づくので、バントは非効率という事を頭に置いた上でそれでもする価値のある場面にバントをしてほしいですね。
その"場面"を見極めるのが監督の仕事の一つではないでしょうか。
なにより7月の好調だった岡林に初回からバントさせるみたいなことははやめてほしいと個人的に思います。
立浪監督も理想としてはバントはしたくないんだろうなということは感じます。
「犠打で送って1点は取れたけど、村上の本塁打で帳消し。いずれにしても打たないとね」。リーグ最下位だった得点力改善への思いを強くした。「ヤクルトは（犠打で）1死がとれ楽になった。相手が嫌がることをしないと」と、巻き返しへの戦術も思い描いた。
来季はどのような采配をするのか注目していきましょう。
過度にバントを信仰をするのはいけませんが、絶対悪とも言えません。
最初にコインを振る選択をできなかった人はそれでもバントをするなと強く言えますか？
最後まで読んでいただきありがとうございました。
また次回作で会いましょう！
参考サイト：中日のような貧打線でも送りバントは非効率。“堅実な戦術”の落とし穴をデータで解き明かす【野球の“常識”を疑え！第3回】＜SLUGGER＞
参考サイト：改めてバント戦術を考え直すPart1 ～どのような状況で試みられているのか～
参考動画：人は投資に向いていない？ 行動経済学から知る投資の落とし穴【マネーのまねびプラス9】-YouTube NIKKEI マネーのまなび
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