BOOWYにまつわる噂のエトセトラ Vol.1 ~写真週刊誌にボーカリストは殺人の前科ありと書かれたという噂~

Vol.1 ~写真週刊誌にボーカリストは殺人の前科ありと書かれたという噂~


非常に有名な『噂』である。マスコミへの憤りとともにファンが語り続けている『噂』。
これは事実なのか

殺人罪の法定刑は、刑法上、死刑又は無期若しくは3年以上(現在は5年)の懲役である。
未成年の犯罪であっても、恐らく数年は少年院に収容されるだろう。
つまり、高校まで無事に卒業し、卒業後すぐ上京して音楽活動、21歳から27歳までの期間をBOOWYとして活動していたボーカリスト氏に殺人の前科があるという話は全くの事実無根

そんなことはこの記事を書いた編集者だって百も承知のことだろう。なのに本当に殺人の前科ありなどと書くのだろうか?というのが私の疑問。訴えられたら負けるんでないの?と。

マスコミがそんな出鱈目を書くはずがない、と言っているのではない。出所不明な適当なことも彼らは平気で書く。と私は感じている。
但し、完全なる嘘とならないよう、表現方法に工夫を凝らす。必ず逃げ道を用意する。

具体的に言うと、嘘や事実無根なことを書いて、最後に「(疑問形)」を付けて断定を避ける。これによって、「~かもしれない」「そうではないか?と思った(が、事実はわからない)」と推測・憶測・可能性を書いただけ、という言い訳を用意する。
もしくは、「当時をよく知る関係者(決して本人をよく知る関係者とは言わない)がそう言ってる」とあくまでも自称事情通なる他者の話を紹介しただけ、という体裁を取るなど。…所謂印象操作というモノ。

だからこの噂も恐らくそういった類いの記事がソースなのだろうな、とまずは思った。
とはいえ、実際の元記事を読まないことにはそう断言できないし、何故この噂がこんなに広まったかちょっと興味があったので調べてみた。

【どうしてそんな噂が広まったのか?】

世に広まってるこの噂を総合すると、

①そんな記事を書いたのは写真週刊誌「FRIDAY」
②記事が掲載されたのは解散直前のこと。
③殺人の前科があるとされたのはボーカリスト

この3点に集約された。

掲載誌と時期がわかれば、元記事を探すのは比較的容易である。
というわけで、ちょっと図書館へ足を運んで調べてみた。
ものの数分で見つかった。
チョロい。

それがこれ。

「FRIDAY」1987年12月25日号(1987年12月11日発売)(※1)
「リーダー・氷室京介が「真相」を独占告白 BOOWY「クリスマス・イブ解散」のウラ」
< NHK紅白にも「出場を打診された」(関係者)というロック界の雄だが「麻薬で逮捕された」とか「殺人事件に関わっている」などというあらぬ噂が流れるアブないバンドとしても知られる。 >


あー、やっぱりね、という。
記事はあくまでもそういう「噂」が流れてると紹介しただけ。(そもそもそんな噂を載せること自体ダメなことは、取りあえず横に置いておく。)
しかも「あらぬ噂」(人々の間で噂される真実と異なる情報)とすることで、その噂はただのデマであることを示唆している。
それでいて、そんな噂が流れるほどBOOWYはあぶないバンドなんだと読者に印象付けを行っている。

それにしてもこの記事では「ボーカリストが」とはどこにも書いていない。
この記事とほぼ同時期に発売された雑誌(※2)に掲載されたギタリストのインタビューには

< 解散説とか逮捕説とかね。解散説なんて結成した頃からありましたしね。そうそう、ある時は、お母さんが電話してきちゃってさ、「あなた逮捕されたの」とか言って、「電話に出てるから大丈夫」みたいなさ。噂は噂として考えていかないと。> 

とある。
恐らく怪しげな噂は当時いくつかあったのだろう。少なくともメンバーの親の耳に届く程度には。でもこの親の反応を見る限り、「自分の息子であるギタリストが」ということであり、「ボーカリストが」という訳ではない。FRIDAYの記事にもボーカリスト氏だと特定してはいない。

???
ではどうして「ボーカリストが」ということになって広まったのだろう?
そもそも、当時BOOWYのファンは中高生が中心だったと聞いている。中高生でFRIDAYを読む人はどれだけいるのだろう?彼らは本当にこの記事を読んで噂を広めたのだろうか?さらに疑問が生じた。
なのでもう少し調べてみた

実はBOOWYはボーカリスト氏を除いた3人が自伝を書いている。
このうち、ドラマー氏が2007年に書かれた自伝(※3)にこのFRIDAYの記事について書かれた箇所があった。
これがその抜粋

< 最後のツアーも残り11本となった12月、写真週刊誌『FRIDAY』がBOOWY解散の噂を記事にした。シングル「季節が君だけを変える/CLOUDY HEART」から解散を酌み取ったファンの噂はこれによって拍車が掛かり、チケットは以前にも増してプレミアム化、ツアー先には絶えずダフ屋が付いて回った。『FRIDAY』の記事で「氷室は殺人罪の前科あり」などとあらぬことを書き立てられ、その後のステージでは「殺人罪の氷室です」と自らMCでギャグを飛ばしていた。>

………。
おーまーえーかー!!
「FRIDAYにボーカリストに殺人の前科ありと書かれた」という噂を広めたのは!
いや、待て。「ボーカリストが」とFRIDAYが書いたというのは誤りであったとしても、本当にボーカリスト氏がそのようなMCをしていたのであれば、勘違いして記憶していてもやむを得ない面もある。

確かにネットでは、ボーカリスト氏がライブのMCで「殺人罪の~」と言っていたと書いている人もいた。
しかしそのMCは現在商品化されている映像作品、音源の中には存在せず、その人が本当にライブに行ってその言葉を聞いたのか、聞いたとしても一言一句違えずに覚えているものなのか確かめる術がない。
(偶に当時のライブの密録をネットにアップする方もいるが、そもそも違法なうえ、いつアップされていつ削除されるかわからないものを証拠としてあげるのもどうかと。)

さてどうしたものか、と考えていたところ、参考となる記事を見つけた。
1224解散宣言のすぐ後に行われたボーカリスト氏のインタビュー記事(※4)である。

< 「フライデー」(12/11発売、解散を噂した記事) は笑ったね。氷室が語るって、会ったことねえって!!(笑)。おまけに殺人罪までついてたから(笑)。その後ステージで何度か言ったよ。自分を紹介するとき"殺人罪の氷室です"って(笑)。 >

なるほど、どうやら本当にそんなMCをしていたらしい。


【結論】

× FRIDAYが「『ボーカリストに』『殺人罪の前科あり』」と書いた。
○ FRIDAYが「BOOWYは『麻薬で逮捕された』とか『殺人事件に関わっている』などのあらぬ噂が流れるアブないバンド」と書いた。

それが「ボーカリストに殺人罪の前科あり」と掲載されたと歪曲されて伝わったのは、ボーカリスト氏がこの記事をネタに自己紹介し、ドラマー氏がそれを裏付けるような話を後に自伝に書いたからなのだろう。
やはり人の話は曲がりくねって歪むのである。
とりあえずドラマー氏よ、悪気がないであろうことは十分承知しているので、機会があったら、「ボーカリストは」の部分を「バンドは」に訂正していただけないでしょうか。笑


【蛇足】

別に「ボーカリストは」だろうが「バンドは」だろうが、そんなに大した違いはないでしょ。誤解を生むようなことを書いたマスコミが一番悪いだけ、と思う方も多いだろう。
事実を伝えることよりも、センセーショナルな表現を優先したり、わざと印象操作をして世間を扇動しているように見えるマスコミには私もイラッとさせられる。

だがしかし、ネットの海を徘徊していると、ソースとなる元記事から歪んでしまった噂をもとに論理を飛躍させ、事情通ぶってもはや妄想に近いレベルの持論を事実として語る方が偶にいらっしゃるのだ。(それはこの噂に限ったことではない。)
そしてそれを「へー、そうなんですか」と信じて、「事情をよく知る方がそんな風に証言してました-」と真偽を確認せず拡散する方も…。

拡散が繰り返され、その噂が回り回って最初に話を歪めた人(大抵は自分の聞きたいことしか聞かないし信じないタイプ)のところにたどり着くと、「みんなそう言ってる!」「やっぱりあの噂(に基づいて歪めた自分の想像)は事実なんだ!」となり、さらにその噂を『事実』として確信持って広めるという悪循環
最初はただの噂にすぎなかったものが、それがいつのまにか『事実』とされて、さらに誰かの誹謗中傷のネタに変化していくのを見るのは辛い。

流言飛語の類いはそんなもの。ということはとてもよく理解はしているけど、感情的にはモヤッとしたものがどうしても残る。
初めはちょっとした歪みでしかなかったのに、それを自分が信じたいもの、そうであってほしいものの「根拠」や「原因」や「理由」として利用されてしまうのは違うと思うのですよ。

かといって事実100%のみを伝えていくのはどだい無理な話だし、それ以外認めない、許さないとなったら誰も語る者がいなくなる。そんな閉塞的な世界は衰退していくだけ。つまらない。
自分の好きなモノを語る人が多ければ多いほど嬉しいのは間違いない。ただ話が歪んで一人歩きしすぎるのはちょっと…。そうではないですよ、とやんわり指摘して聞く耳持ってくれる方ばかりではないし。難しいなぁ。

【出典・参考資料】

※1 FRIDAY 1987年12月25日号 P22
※2 宝島 1987年12月号 P33
※3 スネア(高橋まこと著) P155
※4 宝島 1988年2月号増刊 ROCK FILE Vol.1  P20

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?