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夏休みデビュー
夏休みデビューという現象がある。要約すると以下である。
夏休みデビュー(Natsu-yasumi Debut)とは、夏休みの間にクラスメイトの当人に何があったのか分からないが─容姿・性格・振る舞いが1学期の頃とは比べものならないほど変容すること、またその現象を指す。
早い話、夏休みが終わったら見知った人が「あなた、誰?」状態になること。グレた、DQN化したケースも多い。
アニヲタWiKi(仮)より引用
私は夏休みデビューをしたひとを見たことはない。見たことはないけれど、高校生のときに、夏休みが終わって学校に行くと、ある男の子が違うグループに所属が変わっていたというのは見たことがある。夏休みの間に、人間関係に変容があって、前のグループを離脱し、新しいグループの新入りとなったのだ。
それはきっと「自分を変えたかった」のだと思う。その良し悪しはともかくとして、前に所属していたグループにいる「自分」が、「納得がいかない」「このままじゃいけない」と思っていて、別のグループの子たちに接触をし、「仲間として認めてもらう」という過程を経たのだろう。
もちろん、どのグループにいても「自分らしく」いられるのが一番なのだけれども、きっとその子は、「このままじゃいけない」「このグループにいるままじゃいけない」と思ったのだとおもう。
それは「向上心」と言って良いのだろうか。それとも「承認欲求」と言って良いのだろうか。どういうふうに言うかによって、その印象は大きく変わる。「夏休みデビュー」という言葉は、「高校デビュー」や「大学デビュー」と同じように、ある意味では否定的な意味を含んでいるけれど、ここではあえて肯定的に捉えてみたい。
きっとその子は「自分を変えたかった」のだと思う。それは「向上心」であって、それは一方で「悔しい」「もっと頑張らないと」と自分を鼓舞していたんだと思う。
大人になって会社に所属し、転職するなどの経験がある人も、たぶん世の中にはいて、けれど「会社デビュー」という言葉はあまり聞かない。
それはきっと、会社は人間関係を重視してそこに重点的に価値を見いだすものではないということ。そして、生活をするための収入を得るために行く場所であって、もちろん、評価や評定が行われるけれど、たぶん高校の教室のなかにあるような権力勾配はきっとない。その分シンプルに、仕事に取り組まないといけない面もあるけれど。
けれどシンプルではあるけれど、会社でも人間関係は重要になってくる。ある意味ではさらに重要になってくる。
たぶん私が今までに経験してきた部署や会社、アルバイトを含めても、まだまだ世の中を知らないことはたくさんあって、「これが普通」と思っていた仕事も、ほかの仕事をしていないので、実際のところどうなのかは分からない。
話が脱線したのだけれど、そういった実社会とは違って、夏休みデビューは今思えばとても些細なことだった。きっと夏休みデビューをしたその子の中身が変わったわけではなくて、感じやすさも、傷つきやすさも、すべて前と変わってないのだけど、だけどその表現の方法が変わって、活発になったり、快活になったり、あるいは髪を明るく染めたり、アクセサリーをつけたり、そういうふうに外側が変わっている。外側が変わったら中身も変わったように思えてきて、そして、いつかは本当に変わってしまうかもしれない。
だから、変わらないと思ったものも、いつか変わってしまうのだとしたら、出来るだけ良い方向に変えたいと思う。
今の私だったとしたら、もっと年齢相応の振る舞いをしたいものである。そう念じ続けることで、そういった外側が、いつか内面にも及ぶのではないだろうか。
こういうことを考えるのは、他者がいるからこそだ。他者がいて、人間関係があって、コミュニケーションがあるからこそ、自分が未熟だということを恥じ入るわけで、もし私がひとりきりだったとしたら、私は自分が「こうなりたい」と念じることはなかっただろう。他人がいることによって、自分のことをもっと高めようと思える。もっとマシな人間になろうと思える。
この年齢になって本当にお恥ずかしい限りなんだけど、そんなことをときどき思い出しては考えている。
そうしているうちに、もう夏が来そうだ。今年の夏も、良い夏だろう。
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