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人生、綴ってみた 【独身編】 #6

 会社の駐車場は
 仕事場から少し離れた、河川敷にある
 出入りをするのに
 車一台がやっと通れる道が一つあるのみで
 なかなか厄介な場所だった

 ある夏の夜
 仕事が終わって
 駐車場へと一人歩いていた

 後ろから誰かが走ってきた
 部長だった

 私は必死で車へと走った

 タッチの差だった
 車のロックをかけると
 部長は悔しそうに車をガンガン蹴った

 そして
 その一本しかない駐車場への道を
 自分の車でふさいで叫んだ
「ざまあみろ!
 これで、逃げることも出来やんな!」
 してやったりという顔で笑って
 川辺に寝転んだ

 その頃は
 携帯がちょうど普及しだした頃で
 私も持ってはいたが
 どこにも連絡出来ずにいた

 母に泣きつくわけにはいかないし
 こんな夜遅くに呼び出したら
 友達にも迷惑をかける
 警察に電話したら、大騒ぎになるだけだ

 自分の身は自分で守るしかない

 残念なことに
 私にはそんな考えしかなかった

 部長の車で
 一本道が遮られているのであれば
 この河原の急斜面を車で上がるしかない
 上がれなかったら、車ごと落ちてしまう

「アイツにやられるくらいなら、
 死んだ方がマシだ」

 私は急斜面の土手に向かって
 迷うことなく、車を発進させた
 アクセルをおもいっきり踏み込んだ

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