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漫才台本『ビバ! 昭和歌謡』

◯イカ太郎&タコ美、登場。

  ◯あいさつあって――

イカ「じぶん、カラオケって行く?」

タコ「あたしメチャ得意やで、歌。」

イカ「初めて聞いたで、そんなん」

タコ「南港の歌姫ゆうたら、あたしのことや」

イカ「知らんかったな」

タコ「女は秘密が多いの」

イカ「……こないだな、20代の子たちとカラオケ行ってん」

タコ「誰ッ!? 誰なのッ!?」

イカ「友だちや、ただの」

タコ「ウソ、ウソよ!?」

イカ「まあ、聞けって。でな、驚いたのがその子ら歌いまくったのが昭和歌謡」

タコ「あら、若い子たちが?」

イカ「せやねん。山口百恵、松田聖子、石川さゆり…みんなまだ生まれてへんねんで」

タコ「そやねえ」

イカ「まあ、それがうまいうまい。コブシまでぐるぐる回って。それできいたんや、なんでそんな歌知ってんの、まだじぶんら生まれてないやん?」

タコ「あ、お父さんお母さんが聞いてた」

イカ「そやねん。ちっちゃい時、ご両親が聞いていたので知ってるんやて。でもな、今の歌もあるわけやろ、なんで昭和歌謡なん?って聞いたら」

タコ「うん」

イカ「歌詞がええ、そういうんや」

タコ「(歌い出す)これっきり、これっきり…」

  イカ太郎、タコ美の口をあわててふさぐ。

タコ「…なにすんのよ! 歌わせてえな!」

イカ「(声を潜めて)あかんて。ここで歌ったら、JASRACが飛んできよる」

タコ「(不満げに)ちゅー」

イカ「歌は世につれ、世は歌につれ」

タコ「お口の恋人ロッテ提供 ロッテ歌のアルバム」

イカ「司会の玉置宏です……むかしは歌番組いっぱいあったなあ」

タコ「(うずうずしたまらずに歌い出す)時の流れに身を…」

イカ「あかんて!」

タコ「歌いたい、歌いたい」

イカ「JASRAC」

タコ「ちゅー」

イカ「でもな、いま、歌詞がすっと出てきよったろ?」

タコ「耳に残ってんのよ、すぐ出るで」

イカ「メロディも耳に残ってるやろ」

タコ「まかせー、あなたの」

イカ「やめ」

タコ「ちゅー、ちゅー」

イカ「昭和歌謡は歌いやすい、耳に残る」

タコ「同じフレーズが頭の中ぐるぐる廻る時あるわね。もう止めてーって時なんかあるわ」

イカ「そんでな、音楽をやってる友だちに聞いたんや」

タコ「昭和歌謡がなんで耳に残るか」

イカ「そしたらな、歌詞に秘密があってん」

タコ「女やろ」

イカ「ちゃうわ…その友だちがいうには、日本語の音節、そういうわけや」

タコ「なに、それ」

イカ「英語の歌は、歌詞に大切なことは韻を踏むことなんやて」

タコ「韻?」

イカ「同じ音や。ところが日本語は韻を踏む歌ではないと」

タコ「地雷を踏む」

イカ「人の話聞いてる?」

タコ「難しい話はキライよ」

イカ「わかりやすくいうとな、日本語の歌詞はおよそ七五調でできてるんやて」

タコ「それって、和歌とか俳句ってこと?」

イカ「そうや。自分の覚えてる昭和歌謡の歌詞の文字数、数えてみ。口に出したらあかんで!」

  タコ美、数えてみる。

タコ「……ほんまや、だいたい七文字と五文字や」

イカ「特に演歌はほとんど七五調やねん」

タコ「なんで?」

イカ「なんで日本語が七五調の音節でハマるのか…本居宣長って知ってる?」

タコ「のりちゃんやろ。このあいだ淀川でフナ釣りしとったで」

イカ「ちゃうわ。江戸時代の国文学者や」

タコ「会ったことないな」

イカ「あるかい。で、その人がそれに気がついたらしい」

タコ「昭和歌謡よ? 江戸時代に?」

イカ「七五調や。短歌に和歌、俳句、川柳、なんですべて七五調なんだろうか。それに気づいた」

タコ「えらいなあ、のりちゃん」

イカ「それから今まで、エライ先生たちが研究されたが、実はいまだにハッキリせん」

タコ「ち。わからんのかいな」

イカ「いっぱい学説ちゅうものがあるんやが、そのひとつに四拍子というのがあるんやて」

タコ「いち、にー、さん、しー」

イカ「それや。その四拍子に、日本語の七五がうまく乗るんやそうや」

タコ「四拍子って一番多い音楽や」

イカ「やろ。特に昭和歌謡は多い。それで七五調の歌詞。つまり日本語を話す人間に、昭和歌謡はめちゃ歌いやすいちゅうこっちゃ」

タコ「ふーん」

イカ「日本語の上手なフランス人がおってな。カラオケで『天城越え』を熱唱された時はびっくりしたで」

タコ「天城越え!」

イカ「こぶしまで効いて『スゴク歌イヤスイデスネ』やて」

タコ「隠しきれない うつり」

イカ「やめ!」

タコ「やかましいわ! JASRACがなんぼのもんじゃい! たこ焼きにすっぞ、(゚Д゚)ゴルァ!!」

イカ「そら、おまえや」

タコ「美味しく食べてね♡」

イカ「もうええわ」

  ◯退場

 …漫才の台本って難しい。

(2017年4月15日記)

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