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朝、思ってたより寒くて布団から出たくない時に聴きたい曲【SideB】

FMラジオ局 J-WAVEによる大学生・専門学生コミュニティ「WACODES」。

WACODESメンバーがシチュエーションに合わせて選曲し、プレイリストを作るこの企画。音楽やカルチャーが好きなWACODESの選んだ音楽が、日常の名もなき瞬間を彩ります。

今回のシチュエーションは

「朝、思ってたより寒くて布団から出たくない時に聴きたい曲」

シチュエーションに合わせたエッセイとWACODESによる選曲理由を合わせてご紹介します。


〈「より」の可能性 - 初冬を読む〉

 今月のエッセイおよびプレイリストの表題は、かなり狡猾な仕掛けを据えているように思う。目を凝らせば複数の解釈が顔を出し、その言い回しを反芻する度に意味が遠退いていくからだ。

 寒い朝に布団から出るという動作について考えてみたい。
 寝覚めた時の布団の中は暖かい。よって布団から出るという行為は、寝ていた間にせっかく溜め込んだ熱を外気に易々と明け渡してしまうことを意味する。また、それと同時に地肌は寒さに晒され、心拍数は多少上昇する。
 ではなぜ布団から出なくてはいけないのか。排泄や食事に自分を向かわせるためかもしれないが、今回の表題が示そうとしているところはおそらく、間に合わせなくてはいけない何か(「予定」)へと向かうため、またそのための身支度を十分に済ませるために必要な動作としてだろう。
 「予定」への意欲の程度を度外視して考えると、寒い朝に布団から出たくない理由は、寒さとの対峙で自分の身に起こる衝撃体験を少しでも後へと遅延させようとするためだといえる。詰まるところ、快適帯から(いずれその時は来るものの)出るのが億劫だからだ、と一般的な解答はここで終了する。

 しかし、こうした見方を念頭に置いたとき、表題の異質さが際立つのは「思ってたより」という言葉の挿入のせいだろう。
 起床した直後に「思ってたより寒い」と「思う」のは、その人が寝る前に次の日の朝の寒さをある程度予想していたからだと捉えられる。もしくは、体を起こす前に試しに爪先を布団の外に出し、予想よりも気温が低いことに気が付いた、という体験かもしれない。
 しかしどの場合でも予想したところで寒いのは変わらない。起きた時の気温が「思った通りの寒さ」だとしてもきっと布団から出たくないという気持ちは抱くはずだ。よって、寒さを予想した上で何らかの防寒対策を実行した場合を除き、寒さを予想しておくことは、寒い朝に布団から出る際の億劫さとは無関係である。
 だから、「思ってたより寒くて」という表現がやたら気になってしまう。
 単に「朝、寒くて布団から出たくない時」ではダメな理由を。
 是非とも探ってみたいと思うのだ。

 さて、文学理論の一つに「作者の死」という概念がある。作者がある作品に込めた意図は必ずしもそれと一致しない解釈によって流通し、作者が達成したかった地点とは異なる場所へと到達するというものだ。この理論では、読むという行為において作者は問題に上がらず(つまり理論上の死)、作者の意図を考慮せずにテクスト自体を精読すべきなのだ。この概念を支える一つの論は、作品はある種の偶然性を孕みながら、ときに作者の意図よりも複雑で、肥えていて、予想していない成果になるというものだ。
 目を細めてこの概念を見ると、「思ってた通り」の外側、つまり「思ってたより」に身を投じることが偶然の豊かさに出会う可能性だと教えてくれる。
 寒い朝をただ迎えるよりも、実際の気温と予想との差をあえて測りながら、予想よりも寒い朝と捉えることができれば生産的だということだ。今回の表題は、起床という単なる反復になり得る動作において、(無)意識的な予想を施すことによって「予想通り」と「予想より」という二つの違った帰結を作り出すことに成功している。いつも通りに見える普段の出来事に「より」の存在を見つけられれば、それは特殊な体験となるのかもしれない。
 昨日より、予想より寒い朝が続く冬に、豊かな発見がありますように。

 種明かしをすると、「思ってたよりも寒い」という表現は、「いつの間にか冬が来た」や「突然の寒気」など、冬本番ではない「11月らしさ」を引き出すために考案されたニュアンスである。このエッセイは、このような表題の考案者(作者)の意図を汲み取ってはいない。
 と、強気なことを言いながら、実際のところ、冬の到来に関するエピソードが枯渇し、また話題を面白く語る自信がないために、締切が近づいても書き出せていなかった。結局、理論の拙い援用をしながら、むしろ「思ってたより」長いエッセイを書いてしまった。文章に対する統制が効かないのは書き手としての敗北ではあるが、それでもなおこのエッセイの中に、偶然の発見や美学現象の一つくらいがあると思いたい。

 常々感じるのは、メンバーが選んだ一曲ずつをまとめてプレイリストにするWACODES TRAXというこの企画がまた、まさに「思ってたより」の可能性に依存した試みだということだ。
 「朝、思ってたより寒くて布団から出たくない時に」もし曲が聴きたくなったら、各々の意図が交錯するこのプレイリストを流してみたい。憂鬱な朝も、ワクワクする朝も「思ってたより」楽しめるかもしれない。

書いた人:カーズ(10期)
ひとこと:冬の匂い、いいですよね。

〈選曲理由〉

・布団の中から出たくない/打首獄門同好会
このテーマを見た瞬間にこの曲しか思いつかなかったです。寒い日の布団から出る葛藤を1番歌っている曲です!
by ねこ舌先生
そのまんまです!タイトル見た時からこの曲ずっと頭にあったので…笑
by とらいある

・Meditation/ASOUND
寒い朝でもカーテンを開けて光を浴びながら温かいハーブティーを飲みたくなる。そんな曲です。
by まりん

・575/Perfume
ちょっと憂鬱だけどそれも楽しみたい
by Kaas

・Loving Is Easy/Rex Orange County
冷え切った部屋がじわじわ暖かくなるかもしれない曲です...!
by ゆず

・FUNNY GOLD/Suchmos
顔いっぱいに冷たい空気を浴びて反射的に布団に潜り込む朝。毛布の暖かいぬくもり、嗅ぎ慣れたシーツの匂い、もうどうしたって抜け出せそうにない。そんなときに聞きたいのがこの曲。まどろみゆく意識に抗いつつも、いっそのことこの温もりに身を任せてしまおうか?なんて考えてしまったり。幸せな甘みを味わえる一曲です。
by しずる

・猫になりたい/スピッツ
眠子になりたい 猫みたいに丸くなって寝続けたい…
by チャッカ

・▷(saisei)/mol-74
モルカルが似合う気温になると冬が来たなと思います❄️
by まり

#WACODES#プレイリスト

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