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【洋画】「ベルファスト」小さな家族の大きな物語《第1章》~「イニシェリン島の精霊」と連なる島<アイルランド>

時代に翻弄される家族を描いたアカデミー賞作品

俳優ケネス・ブラナーが製作・監督・脚本をつとめた映画「ベルファスト」(2021年)は、観終わってから、じわっと心にしみてくるような、そんな映画でした。
 
食事にたとえるなら、だしのよく利いた淡白だがコクのある和風料理をいただいたような心持ちで、洋画なのに、小津安二郎や木下恵介の作品に似た味わいという不思議な感覚。
 
それは、もしかしたら、「ベルファスト」がモノクロの家族劇だったからかもしれません。
 
「ベルファスト」(2021年)は、監督自身が少年時代を過ごしたイギリス北西部に位置する北アイルランドの“造船都市”ベルファストに暮らす、ある家族の日常とその後の運命を描いた、今どき珍しい<モノクローム>作品(一部カラー)です。

「タイタニック号」など豪華客船を建造した美しい都市ベルファスト。
(映画「ベルファスト」より ※プロローグのみカラー)

ときには“小事件”も起きる日々のディテールを通して、時代のなかの大きな出来事に翻弄されながらも、最後には自らきっぱりとした決断を下す家族の姿を描いた作品により、ケネス・ブラナーは、2022年のアカデミー賞脚本賞を受賞しました。

映画「イニシェリン島の精霊」と共通するもの

アカデミー賞と言えば、3月13日(日本時間)に発表され、主要8部門で9ノミネートの「イニシェリン島の精霊」がどれだけ賞を獲得するか、2023年の話題を集めていますが、この作品は予告編を観たかぎり、アイルランドの架空の島を舞台にしているようです。

「すべてがうまく行っていた、昨日までは。」というキャッチコピーが個人間を超えて国家や民族や宗教など大集団の争いを想起させて意味深だ、(「イニシェリン島の精霊」公式サイトより)

「イニシェリン島の精霊」がアカデミー賞の多部門で受賞することは確実視されていますから、そうなれば、「ベルファスト」に続いて2年連続でアイルランドを舞台にした作品が受賞するということになります。
 
「イニシェリン島の精霊」のマーティン・マクドナー監督は、「スリー・ビルボード」でも2部門でアカデミー賞を受賞した実力派ですが、「スリー・ビルボード」はアメリカ・ミズーリ州の殺風景な地方を舞台にしていましたし、「イニシェリン島の精霊」でもアイルランドの孤島を舞台にしています。
 
もちろん、ミステリアスな空間として北の孤島を舞台にしたことは分かるにしても、なぜ、いま、アイルランドを選んだのか――それが気になってネット検索したら、マーティン・マクドナー監督はロンドンに生まれ両親はアイルランド出身で、これまでもアイルランドにまつわる戯曲を数多く書いてきたとか。
 
ここには、「ベルファスト」のケネス・ブラナー監督と故郷に執着する共通の素地がうかがえますが、さらに、「イニシェリン島の精霊」の時代設定は1923年で、アイルランド島では内戦が起こっていたときです。
 
「ベルファスト」で描かれた北アイルランド紛争の45年前に、「イニシェリン島の精霊」では主人公に対する親友からの理由なき絶交宣言が、彼の妹や村民を巻き込み、やがて悲劇に発展していく――この二つの作品はアイルランドを舞台にしているという点で、しっかりと結びついているように思えます。

「現代に生きるわれわれも、人間と人間の争いが、国同士の戦争と地続きかもしれないと気づかされる。そんな含蓄も『イニシェリン島の精霊』から感じ取ることができる。」

(<VOGUE>サイト 2023/01/17発信)

(つづく)


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