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韓ドラ「アルゴン」に見る――「ひるおび!」弁護士のデマ騒動(中)

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韓国ドラマ「アルゴン~隠された真実」は、権力者への忖度と自主規制が増すTV報道と記者たちのあるべき姿を問う秀作。「アルゴン」のキャスター(キム・ジュヒョク)が視聴者に約束したように、日本でも「真実を追究し続ける」報道番組がもっとあってほしい。

“共産シンパ”と攻撃される恐怖

<「ひるおび!」弁護士のデマ騒動>のなかで、エポックメーキングとなったのは、“有識者”たちのSNSによる批判です。(後述)
これには「ひるおび!」のスタッフもけっこうこたえたのではないかと思われますが、韓ドラ「アルゴン~隠された真実」にも番組制作者がSNS批判にさらされる場面が出てきます。

でも、こちらは「ひるおび!」のケースとは異なり、批判というよりは“いじめ”や“バッシング”に近いものです。

「アルゴン」のニュースキャスターが謹慎中、その代役となった番組プロデューサーも別件で報道被害者を出してしまい、ネットの掲示板に罵詈雑言を書き立てられ、自宅にこもりきりになるほど打ちのめされます。

本番アルゴンのネット書き込み-共産シンパとIMG_20211016_104104

ことに韓国では「親日」日本に好感を持つ者というより、戦前の軍事的統治国である<日本帝国>協力者といった意味の蔑称)と並んで、「親北」(=共産主義シンパ)が悪口の最強代名詞になっているようで、「アルゴン」プロデューサーのシン・チョル(パク・ウォンサン)は、視聴者の激しい反発に恐怖さえ覚えます。

<「ひるおび!」弁護士>批判の3通のツイート

では、<「ひるおび!」弁護士>に対する、真っ当なSNS批判とはどういうものだったのか――ここに3通のツイートを採録させていただきます。
すべて、原文ママ)

☛前川喜平さん(元文科省事務次官)のツイート(2021/09/13)
八代英輝氏は、共産党に関する虚偽発言について、きちんとした謝罪と訂正を行い、責任をとって番組を降板すべきだ。
☛木村知さん(医師・文筆人)のツイート(2021/09/13)
閣議決定を法律と同じと勘違いしてる人、閣議決定はすべて事実に基づくものと思ってる人、閣議決定されたことは永久不滅だと信じてる人、どこかにやっぱりいるのだろうが。そういう人を増やすデマをまた流したのか、今日の八代秀輝氏。デマで全視聴者を弄ぶ有害番組、放置していいのか。
☛内田樹さん(思想家、神戸女学院大学名誉教授)のツイート(2021/09/14)
これが単に発言者が「無知」であるだけなら「無知な人間をコメンテーターにしてきた局の不見識」が咎められるだけですが、「知っていて嘘をついた」のであれば「虚偽の拡散に加担した局の犯罪性」が問われることになります。

本番-加藤官房長官IMG_20211117_015317

(↑)加藤官房長官、最後の定例会見(2021/10/04、TBSニュースより)

一方、当時の加藤勝信官房長官は、「ひるおび!」のデマについて記者から問われ、「閣議決定に基づいて発言した」と謝罪した八代弁護士をなぜか擁護し、沈静化をはかりました。

「共産党について「政府としては、いわゆる敵の出方論に立った暴力革命の方針に変更はないものと認識をしている」と述べた」(朝日新聞2021/09/15付)

これに対し、共産党の志位委員長は「暴力革命方針」については真っ向から否定し、<反動勢力の暴力的策動を未然に防止する>という「敵の出方論」には、誤解を招いている面があると認め、その党内用語は使用しないと釈明する一幕もありました。

八代弁護士の再謝罪とTBS社長の会見――その裏には

加藤官房長官の「答弁」から3日後の9月17日、八代弁護士2度目の<謝罪>を行ないました。(新聞報道から抜粋して再構成)

TBS系「ひるおび!」で、八代弁護士は「野党共闘の政策の実質論に入る前にお時間を頂きたい」と切り出し、9月10日に同番組内での「共産党は暴力的な革命を党の要綱として廃止していない」(という発言に対し)「現在の共産党の綱領にはそのような記載はないと、多くのご批判を頂きました」と語り、「ご指摘の通り、現在の党綱領にはそのような記載は存しません」とあらためて謝罪した。
その上で「選挙を間近に控えたデリケートな時期に私の発言で多くの関係者に多大なご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申しあげます」と謝罪し、(中略)頭を下げた。(「デイリー」紙WEB版2021/09/17発信)

また、TBSの佐々木卓社長は、八代弁護士の再謝罪から12日後、オンラインの定例会見で次のように言及しました。

「番組内で出演者の発言に誤りがあった場合には直ちに、速やかに間違いを訂正しておわびすることが重要。総選挙が近いということで、情報番組で政治関連のニュースを扱うことが多くなっている。厳しく戒めなければいけないなと思います」(「日刊スポーツ」WEB版2021/09/29発信)

TBS社長の「厳しく戒めなければいけないな」というのは、いったい誰に対してのものなのか判然とはしませんが、発言の当事者が1週間で2度の<謝罪>に追い込まれ、イチ番組中の出来事に対し、TBSの局長クラスではなく社長が<謝罪>に言及したというのは異例のケースだと思います。

おそらく、TBSの社長をはじめ局の上層部は、管轄の総務省族議員(菅義偉、高市早苗議員など)の政治的な介入も怖いでしょうが、もっと怖い存在があったのです。

(つづく)

■後記■2021年11月11日記
本日11月11日は「ポッキーの日」と、かつて職場の若い同僚から教わったが、TBS系「サンデーモーニング」(略称:サンモニ)のスタッフは、心がポキッと折れたのでは。
11月1~7日の「TVランキング」(関東地区)が今日発表になり、ここ数年、13%前後の安定した視聴率(世帯)を稼ぎ、20位以内に必ずランクインしていた「サンモニ」の名が消えていたからだ。(2021/11/11付朝日新聞)

まさか、同じTBS系列の「ひるおび!」失態の影響ではないだろうが、いつかはこの日がくるとひそかに心配していた。ベテラン司会者の原稿読みのトチリが増え、活舌が滑らかではなくなり、五輪女子ボクサーに対して失言した解説者がスタジオ復帰したスポーツコーナーに異様に時間を割き、スポットCMが激増して番組の流れは途切れがち、名物の「風をよむ」コーナーも一人あたりの配分が短く、要するに番組構成がいい加減マンネリ化してきた――とは連れ合いとそろっての感想。

それでも、安田菜津紀さん、青木理(おさむ)さんほか、リベラルなコメンテーターの意見が聴けるし、1週間の世界のニュースをコンパクトに編集してくれるので、日曜朝の貴重な番組にはちがいないが、視聴率に敏感なスポンサーにとっては、すわ一大事!といったところだろう。

TBS系のランクインは、ドラマ「日本沈没」が15.5%(世帯視聴率=以下同)、安住伸一郎アナが早朝番組に異動してしまったあとの「新・情報7days――」12.5%、「プレバト!!」12.4%の3本のみで、NHKは別格としても、日テレ、テレ朝が内容はともかく視聴率で健闘している報道番組ジャンルで、TBSはゼロとなってしまった。

――どうする、あの黄金時代を築いた<報道のTBS>よ!

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