見出し画像

土方二百人と惣角一人の大喧嘩3

丁度、第二次世界大戦後の日本社会では、戦前のことはその考え方から生活習慣までのすべてが悪いものであると言われたのと同じように、明治になってからは、江戸時代を否定する風潮が強かった。そんな中、東京では古道具屋でさえ取り扱わないと思われる撃剣道具を担い、頭に浪人髷(月代(さかやき)を剃らずに髪を束ねた(まげ)髪型、総髪)を残している若い惣角の格好は、時代に取り残され、時代錯誤的であったことから、あまりに可笑しかったとみえ、土方の含みのある嘲笑や罵声を浴びた。また、

 半髪(はんぱつ=ちょんまげ)頭をたたいてみれば
           因循姑息(いんじゅんこそく)の音がする。
 惣髪(そうはつ)頭をたたいてみれば    王政復古の音がする。
 ジャンギリ(散切り)頭をたたいてみれば文明開化の音がする。

とのはやり歌ではやし立てられ、手拍子の声が次第に大きな合唱となっていった。

「うるさい!」
惣角はその背格好に似合わぬ大声でそれを返すと、スタスタと通り過ぎようとした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?