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職域接種が始まって

職場の同僚アキは、
「そういう話を仕事場でしない方がいいですよ」
と、同僚スズと私に釘を刺した。

20人の同僚中、スズと私そしてフクの3人だけがコロワクを射たない。新コロ/コロワクの絡繰(からくり)に気づいているからだ。スズと私は、普段、顔を合わせる度に新コロ/コロワクの虚構と欺瞞に怒り、洗脳されゆく大衆を憂いて語り合うのである。

私はアキに、
「なんで話しちゃいけないんだよ?」
と、食い下がった。

アキは、何かをゴニョゴニョ答えたが、何を言っているのか判然としない。
要するに、職場の雰囲気を悪くするからとか調和を乱すから、あるいはクライアントからヘンな目で見られるから不味いと、アキは言いたいのだろう。

「そんなことを言っているから世の中がどんどんおかしな方向に進むんだよ!」
と、私はアキに声を少し荒げた。

スズは、
「まあまあ、アキさんは私らのことを心配してそう言ってくれているんだから」
と、瞬間湯沸かし器の私をなだめるように言葉を差し入れた。

20人の職場で、3人も反コロワクがいる現場も珍しい方なのではなかろうか。いよいよ職域接種が始まって、幸い、クライアントの方からも直接の雇い主からも、コロワク射て射てと急っつかれることは無い。そんなこと当然なのに、何だか恵まれていると感じてしまうほど、世の中の方が発狂しているのだ。

しかし、さっさとコロワクを2回射ってしまったアキのような同僚からすれば、顔を合わせる度に当たり前のように、新コロ/コロワクの虚構と欺瞞に怒り、洗脳されゆく大衆を憂いて語り合うスズと私の会話が疎ましいのだろう。
「そういう話を仕事場でしない方がいいですよ」
と、自由な言論を阻止する態度が自ずと出てしまうのである。

敢えて言うなれば、まさしく、こういうことの積み重ねが全体主義社会を作り上げてしまう。

もちろん、そんなことになって欲しくないが、
「見ててみな、これからもっともっと、とんでもない世の中になるぜ!」
と、一瞬で沸騰しそうになる私はアキに、反射的に啖呵を切っていた。

*****

ちなみに、職場で最近、局長から役員待遇に昇進した雲の上のシン様は、
「ボクさあ、2回目を射って、二十日目なんだけど、今がいちばん”無敵の状態”なんだよね……」
と、ロビーの受付嬢にベタベタ・ニヤニヤと話しかけたりする。
「……で、キミたちも、もう射ったの?」
と、シン様のご下問を受けた未だ出産前の受付嬢たちも、来週には1回目を射つらしい。

(なにが、いちばん”無敵の状態”だよ、まったく。3ヶ月もすれば、抗体が消えちまうって言われてっぞ)

*****

ファイザーとモデルナは、どちらが副反応が楽だとか、誰々さんは1回目の後から40度の高熱が続きっぱなしだとか、あらたいへんどうしようとか、クライアントの会話から、そんな様なことばかり聞こえるようになっている。

(やれやれ、なんで、そうまでして射つかねえ……)

あ、また救急車のサイレン……。